(8)
「死んだ……のか?」
俺は、そう訊いた。
「少なくとも呼吸は……していない。でも、変だ」
「何が?」
「って、何で、退学になった筈の河合が……え……えっと……?」
「後で説明する」
慌てふためいている牧田をに真佐木は、そう言った。
「私は『気』の量の少なさを補う為、少量の『気』を相手の急所に集中させる方法を工夫してきた。そして、お前は、教本通りの『気』の使い方をした」
「そうだけど……」
「そして、お前の『気』の使い方だと、羅刹に叩き込んだ『気』は羅刹の全身に回り、羅刹の体の各部を同時に破壊する」
「あ……」
たしかに言われてみればそうだ。親や養父の攻撃で、羅刹の体に光る血管みたいなモノが浮き出るのは……おそらく、叩き込まれた「気」が全身に行き渡っているせいなのだろう。
「教本通りの『気』の使い方は、『気』の量が多い者に向いたやり方だ。でも、『気』の量が少ない者でも、『気』を操る事さえ出来れば、羅刹に対抗する手段はいくらでも有る。何故、そんな戦い方を『組織』は教えてくれない?」
「いや……それは……『気』が少ないと、小手先の手段で何とか成っても、どこかで無理が……」
「お前が天才過ぎるから、『気』の量が少なくても、何とか成ってるだけじゃ……」
俺と牧田は、真佐木の疑問に対して、当然の指摘をする。
「プロ野球のピッチャーなんかを考えてみろ。肩を壊して球速が落ちても、ナックル・ボールなんかを使えばリリーフや繋ぎとして何年もやってけた例は有った筈だ」
「けどさ……」
「お前がプロ野球チームのオーナーなら……ドラフトで取りたいピッチャーは、160㎞を出せるだけのピッチャーか? それとも、球速は遅くとも、バッターが打ちにくい球を投げられるピッチャーか?」
「いや、でも、『球速は遅いけど、勝てる球を投げられるピッチャー』なんて、どうやって見分けるんだよ? それよっか、球速を基準にした方が……」
「だから、変なんだ。少なくとも『組織』は戦前から存在してた筈だ。なのに、『球速は遅いけど、勝てる球を投げられるピッチャー』を見付けるノウハウが何故無い?」
「良く判んねえけど……何が気になってるんだ?」
「お前の親父さんみたいな化物は例外として……『組織』は貴重な筈の優秀で経験豊富な『戦士』を使い潰してるようにしか思えない。体力なんかが最盛期を過ぎたら、良くてお払い箱、下手したら現場で戦死する……そんな戦い方を、わざと『戦士』候補に教えてる……そうとしか思えない」
こいつには、下らない冗談を言う時に真面目な表情になる癖が有る。
だが……今は、冗談を言ってる訳じゃないらしい。
「私は、兄貴達とは……あんまり仲が良くなかった。話した事さえ、普通の兄妹よりも遥かに少ないだろう。でも……流石に、兄貴達の死の原因が、『組織』そのものの欠陥のせいなら、黙って『組織』に従う気は無い」
「おい、何が言いたい?」
「あくまで、私の妄想だと信じたいが……」
「何だ?」
「S級の羅刹……強大な戦闘能力と、『組織』のノウハウを知り尽くして、その裏をかく知恵を合せ持っている羅刹……そいつらの正体は『組織』の上層部で、『組織』の『戦士』は、その『餌』として育てられているとしたら?」
余りに無茶苦茶な……たしかに、思い付いた本人にとっても「妄想」にしか思えない主張だ。
「だが……まぁ……『組織』が余りにも無能なのに、今まで、たまたま、羅刹達による被害が表沙汰にならずに済んでいた……そっちの説明の方が現実的だろうがな……」




