閑話3 "ある男達のつぶやき"
「やり過ぎですよ。あの子を危険に晒さないようにとあれだけ言ったのに、鼻息も荒く私の執務室に飛んできましたよ」
「あの方だからこそ見つけたのです。あの方の呟きで見当違いな所を捜索していたと気付き、後は芋蔓しきにコレを見つける事が出来ました。元々の証拠が全て繋がったのは導かれた結果でしょ?」
「それは、確かに‥そうなのだろうがあちらに知られたら」
「勿論、気付かれないように複写したものは置いてありますから‥それにバレる前にそちらで捉えるでしょ?勿論僕の命を懸けて守りますから彼女を危険に晒す事はありませんからご心配には及びませんよ。」
「っ‥君がそこまで入れ込むとは珍しいですね」
「‥所で、あの方の飯の事なのですが」
「めし?話を逸らさないでほしいですね」
「あなたが指示しているわけではないですよね?」
「‥めしとは食事の事ですか?何の事です?」
「やはりご存知なかったか?あの方の食事が平民と同じものが出されている。それもお付き侍女はこの城内上級厨房の配膳室から持って来ていたのにです」
「なっ?」
「あの方はバカ騎士の命令が生きていたのか、城側のバカ王子の指示か、もしくは貴方ではないかと疑っています‥違います?」
「そんなみみっちい事など私がするわけがない」
「‥でしょうね」
「いくらバカとはいえ第二王子がとも思えない。そこまで頭が回らんだろう?あのバカも然り」
「ですね。毒などの心配は無いようですが、あの方は平民からも不平の出る程のものを食されていたのに、今迄残しもしなかったのでオレも気付かず」
「あぁ、あの子は何でも食べるし、文句など言わないだろうね、侍女には毒には注意をと言ったが食の品質迄は」
「今回の調査で平民棟の食堂に行かれて気付いた様です。ですが其処でも何時ものように完食され、平民が一番体力を使うのに貴族の食す物と差があり過ぎると、そちらの方を怒られていました」
「‥あの子ですからね。今更驚かないですよ。で?」
「そのまま何もするつもりは無いようです。それをした者にこちらの動きを悟らせない為か、単に食べられるからかは分かりませんでしたが、前者であろうかと思います」
「成る程‥パンの方はどの様に?」
「廃棄パンの件の方は、ラスクなるものを作るそうです」
「異世界食か?本当に食べられるパンなのでしょうねぇ?」
「あの方はそれの後始末をしてくださるおつもりかと。あ、これが平民棟に出されているパンです」
それ、とはあの子が持ってきた報告書にある小麦粉の不正取引の証拠。
国庫の横領事件で出た副産物である三等小麦。 人事院の記録からこれにつながるのは誰かと考え、分かる方がおかしいだろうに…あの子は突きとめてしまった。猫の絵の描かれた可愛い付箋なのに書いてある名や暴言は中々に辛辣。
いや‥あの時なにを言われたのか一瞬わからなかったが視点を変えただけでこれ程の成果をあげてしまうとは。
悪巧みした奴は巧妙に隠したのだろう、忙しくて見逃してしまったシッポを容易くも探し出したのはただの奇妙な女とは違うともう知っている。
いったいどれだけ凄いのだと私が舌を巻く程だ。彼が興味を持つのもわかるが、ちょっと深入りし過ぎでもあるのは気にはなるな。良い方へ転がってくれれば良いが‥
「なんでしょう?」
「いや‥」
気取られて臍を曲げられるのも困る、興味を持ったなら今はあの子の事を王妃には黙っておこう。余計な事をして潰されるのも困るしそれが漏れるのも面倒だ。
「この不正の目的はどこにあると思いますか?面倒な事をしてるわりには儲けがそれに見合うとは、そもそも目当ては金では無いような」
「そう‥だな」
もたらされた書類の山から見るに、不正な取引で作られたパンはバターもケチって作られたクソ不味く固いパンとなった。ましてそれを数字合わせに作った物さえ廃棄していた。証拠隠滅にしても杜撰だが。
「硬っ‥」
「ですよね。風味なんて全然ありませんよ。硬すぎてオレも全部は食べられませんでした。でも下男たちは食べないと体が動かなくなるから完食する」
「これを?」
平民なら構わないだろうと、国民でもある城の従業者にこんな不味いものを食べさせるとは。まして食さず廃棄している分もあるなどとは、金を捨てているのと同じだ。一等小麦と偽って三等小麦でパンを作り小麦の廃棄はパンにして作っている事実を用意してバレないようにしているのだろう。
作っている実績があるのだからな。使えば使うだけまた仕入れしなければならないし…そこでまた三等を仕入れてを繰り返すのか。差額の搾取の為に?
負担は結局国民に税としてのしかかるのに、奴らはこの国を潰す気‥
「はっ、確かに国境線を襲撃する様な派手さは無いがこれは地味に来る」
「え?」
「もっと遅かったらまずかったです。これは、言いたくは無いですが貴方の無鉄砲さが役立ちましたね。どれ程搾取されたんだかまったく!街中でもこれが流通しているのか?その上前は積み重なればかなりの額になるし、本来城に納入されるべき一等小麦は何処に流れている…いやいやこれは色々不味いですね、これが此方にバレたと知られたら…」
まず誰を消す?
手下どもは切って捨てるだけだろうがあの子まで…この才能がバレたら危険に晒すことになる…か!だからバレないようにいつも通りに振る舞っていると?まったく…無鉄砲なのか小心者なのか切れ者なのか…
「今後あの子の警護に徹してくださいね」
「え?どう言う事です?」
一等小麦の値で三等小麦を買った差額、そして一等小麦は何処へ行ったのか!
あの領の交易が盛んになっているのがこれに繋がるか!何処へ売っているかなんてわかり切ったこと‼︎あークソ。
どれほど流れだのだ!
我が国の財が麦が一体どれだけ流出したんだ。
バターやら砂糖も購入履歴と使用分の差額。私服を肥やしたのが誰と誰か、私に問おとしている事はそれだけでは終わらない、もっと根深い深刻な国と国の関係が浮かび出てくるじゃないか!
「内部からの崩壊を狙った気の長い、だが効果的な嫌がらせだ。あの狸ジジイ絶対目にもの見せてやる」
「狸‥やはりあの男が音頭を取っていましたか。戦争を起こすつもりでしょうか?」
「戦争をしては旨味が減りますよ。このままの国を欲しているのですから」
「の‥っ取り‥?取り敢えずこの件で我が国側の誰がどう動いているかは直ぐに調べさせますよ」
「早いですね」
「あの方が手掛かりを教えてくれたので、獲物が浮上しましたからね」
「呉々も側妃様には気取られない様に、あの子がいつも通りとしてくれているのを無駄にしては神にゲンコを食らいますからね。貴方も十分に気をつけてください」
「‥当然!です」
影である彼が置いていった平民棟のパンを千切ろうとして出来ず、齧ってみる。更に力を入れて漸く小さなカケラにし食す。
あの子はこんなパンを平気で食べていたのか?本当に不味いし硬いしパサパサだ、茶でどうにか飲み込んだ。
すまない私はこの一つを食べきれない、顎が痛いぞ。
これをどうするって?民に配るなど暴動が起きるぞ!それはまた狸の片棒を担ぐことにはならないのか?
「異世界食の出来上がりは、勿論私に試食させてくれるのですよね?」
誰も答えないがつい言葉に出してしまった。
本当に楽しい子だ。
エリオットはじめ関わった人を虜にして、今やあの子までが夢中じゃないか?いやホント楽しいね。か。
綺麗でも無い、背も低くてスタイルが言い訳では無い。しかしあの短い黒髪は奇異ではあるが艶々でサラサラしていて良い香りがするのは何人知っているかな?
酒は飲まないが甘いものが大好きで散歩好き。そして何より知識が凄い。
確かにもう一人の聖女様は綺麗で脚がスラットしていて容姿も美しい、長く薄っらピンクの髪は第二王子曰く“妖精”らしい。確かに妖精は金色やら透明だったり青かったり赤かったりのピカピカ光るものが大好きだな。
酒も好きで人間を誑かして遊ぶ悪い癖を持っている…確かに妖精に似てはいる。
つい最近見たあの女は‥なんというか見た目は美しいのだがそれだけで、変わらず男どもを侍らしているが生気が無い?とでもいうか第二王子の謹慎のせいなのか精彩を欠いているな。
全く聖女らしい事をしないのに金だけは掛かる穀潰しでもあるからとっとと神殿に引き渡したいし、会うたびにシナを作って側に来られるし、話も全く面白く無い。興味がないと言っているのにベタベタ触ってくる。
勘弁して欲しいものだ。
面白いと言えば、イグサが階段落ちした時のあのひと騒動は歴史に残る大事件だった。
エリオットとアンナが真っ青な顔でいるのはまぁわかるが、若手有望騎士と馬達の狼狽ときたら(馬が狼狽えるってなんだ?)総団長が唖然となった姿なんてあの戦でも見た事が無かったからこっちがビックリした。
馬が彼女を心配して診察室の窓にへばり付き訓練に参加拒否するなど前代未聞!厩番の事完全に無視していたなんてあり得んだろう。
気難しくてあのバカ以外に絶対に乗せないあの馬までいたのだからイグサという女は‥
今やあの子まですっかり絆されて無謀な捜査をするわ、階段落ちの時は深夜コッソリとバカを斬りに行こうとしたのを部下総出で止めたと聞く。食事の心配までしているとは、いやはや面白すぎて笑うしかない。
そう、だから彼女ならもしかしたら彼をどうにか出来るかもしれない‥その可能性は薄っすらと感じてはいたが…やはり早急に会わせたい。
彼女の側に付いてから体調が良いとエリオットは言っていた。彼一人ならば気分的な物かと思うがアンナ嬢も然り。
手懐けられて‥と思ってがそれだけでは無いと私の勘が言う。かく言う私も彼女の菓子を食べてから睡眠時間が少なくとも熟睡できているのか?目覚めが爽快だ。
ラスク?は是非とも試食させて貰いたい。食べさせたい奴がいる。
前に作っていたパウンドケーキ?はとうとう此方に持ってきてくれなかったからね‥影からひと片だけ貰って(奪ったとも言う)からは私の勘が一縷の望みとなるか否か!賭けてみたいと言っている。




