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D.R.E.S.S.  作者: 藤平重工
5/5

第5部

この小説はビジュアルノベルゲーム用のシナリオとして書き下ろされたものです。

コミケなどに「螺旋艦隊」というサークルで参加しています。

よろしかったらブログの方もご覧ください。

制作ブログ→http://synthesize2.blog44.fc2.com/


苦戦の末ノルニルの二人を撃退したヴァルキリー。しかし、主力部隊が突破されついに最後の一人『ウルズ』が校舎に侵入する。さらに、事態を静観していた『あの人』もついに参戦!?

ーーー『D,R,E,S,S.』、完結編です。

司令室


「我がほうの主力部隊が苦戦しています!『ヘルフィ』及び『レルル』からの応答もいまだありません!」

「我がほうの損失が30パーセントを超えました。敵の防衛線突破は時間の問題です!」

「大丈夫だ!殺駆は足なんてなくても戦える!足なんて飾りだ!」

戦闘開始からすでに30分。悪くなるばかりの戦況を伝えるために、オペレーターたちがひっきりなしに叫ぶ。

「綾香、砌、琉月・・・それにみんな。無事かしら・・・」

さすがに心配そうな鷹堂。

「大丈夫ですよ。先輩たちみんな私たちより丈夫だし」

「・・・みんな、私より強い」

確かに、この『ヴァルキリー』の隊長クラスは桁外れに強い。しかし、だったらなぜ応答がないんだ?戦況は押されている。もしかすると・・・。

「殺駆、損傷率130パーセント!崩壊します!」

グギギギギギギィィィィィ・・・・・・

突然、不気味な断末魔が司令室に響く。

「そんな!殺駆が・・・!」

「・・・彩夜」

「・・・うん。陽姫ちゃん」

互いに目を合わせ、頷きあう椎名姉妹。

「舞華。私たちは主力部隊の援護に向かう。舞華はここで待ってて」

「ま、待って。そしたらここの守りは・・・」

「・・・第4小隊を残していくから大丈夫だと思う」

「そんな、ほんとに陽姫たちだけで!?」

外に出ようとしている陽姫と彩夜が振り返る。

「まあ、『ヴァルキリー』だしね」

「・・・舞華は絶対に守るから安心して」


言うと、二人は扉の向こうに消えた。


ドオオオオオォォォォォ・・・・ンンン・・・

崩れ落ちる巨人。弾ける歓声。

「・・・くだらん」

つぶやきながら、ウルズは自分の下にあるものを踏みつける。

「敵の切り札は落ちた!野郎ども、突撃せよ!一気に攻め落とせ!」

歓声をあげ、校舎へなだれこむ訓練生たち。しかし、その数は当初の半分にも満たない。

「・・・さすが『ヴァルキリー』。全員いたら歯が立たなかったな」

グリ、と再び下にあるものを踏みつけるウルズ。

「・・・・・・」

ヘルヴォルは気を失っている。

「・・・さて。私も行くか」

主力部隊を失い、『ヴァルキリー』に残る戦力は数人の隊長格、あとはザコのみだ。

それも『ヴェルザンディ』と『スクルド』が同時に攻め入った今、絶望的だろう。

・・・この戦争、決したな。

ゆっくりと中央昇降口をくぐる。

急いでも仕方がない。今頃はもう、訓練生たちが司令室を制圧しているだろう。

「・・・ん?」

床に転がっている訓練生。気を失っている。

「ねえ、私たちの切り札ってもしかして殺駆のこと?」

「・・・お馬鹿さん」

「・・・ほう」

ゆっくりと顔を上げる『ウルズ』。

山と積まれた訓練生たち。全員戦闘不可能にされている。

「ねえ、おばさん。私たちと遊ばなぁい☆」

「・・・いろいろ置いてってもらうけど」

「面白い」

不敵な笑みの形に顔を裂く『ウルズ』。

「貴様らに私が止められるかあぁぁぁ!!」

「―――『フレック』」

「―――及び『エルルーン』」

「「―――交戦エンゲージ」」


「・・・・・・」

まさかヴェルザンディとスクルド、そして訓練生とはいえ2個中隊を無力化するなんて。

「よもや、とは思うけど・・・」

『業深き美神』としての力が必要なのでしょうか・・・?

その時、上空でかすかに聞こえる、たとえようのない飛行音。

「・・・この音はなんですか?状況を報告しなさい」

耳にはめ込んだ通信機に向かって問う。

「・・・・・・・・」

「・・・わかりました。引き続きお願いします」

どちらにしろ、決着を急がなくては。

人影は、颯爽と姿を消した。


「そんなチマチマした攻撃で、私が倒せると思っているのか!!」

『ウルズ』が両刃剣を一振りする。たまらず距離を置く『フレック』と『エルルーン』。

「まったく、元気なおばちゃんだなあ」

「・・・でも、確実に体力は奪ってる」

確かに、すでに『ヴァルキリー』の小隊長級と一戦を交えている『ウルズ』の体力は、確実に減ってはいた。

「よし、もう一押ししよっか」

「・・・わかった、陽姫ちゃん」

左右に別れ、先に仕掛けるのは『フレック』。

両手のベレッタM12サブマシンガンで相手の注意を逸らす。

その後に追撃するのは『エルルーン』。

相手の注意が逸れた一瞬のスキをついて、両の円月刀を叩き込む。

これが、椎名姉妹の攻撃の基本パターンである。

「そう何度も何度も・・・」

『ウルズ』が『フレック』の銃撃をものともせず、『エルルーン』に向かって大剣を振り下ろす。

「同じような攻撃が通るか!」

・・・しかし、大剣は『エルルーン』を一刀両断にすることはなく、ただ空を切った。

『エルルーン』は『ウルズ』には何もせず、そのまま駆け抜ける。

「・・・なに?」

『エルルーン』の意味不明な行動に、思わず『ウルズ』はその姿を追ってしまう。

「いつまで彩夜を見てるんだよ、おばちゃん」

「!!」

そのスキに跳躍し、『ウルズ』の頭上に接近していた『フレック』。

「この距離なら!」

超至近距離からホローポイント弾を撃ち込む。

「ぐぅ!!おのれぇ!!」

上からの銃撃を受けた『ウルズ』は、それを避けることよりも、『フレック』を叩き落すことを選択した。

確かに上からの銃撃は、相手に前後左右どの方向に避けられてもすぐに追撃が可能だが、『ウルズ』の攻撃範囲に入ってしまっている今、それは回避行動のとれない、自殺行為でしかなかった。

「貰ったああぁぁ!!」

こちらに向かって来る『フレック』を迎え撃つため、大剣を持ち上げる。

・・・が、大剣は上がらなかった。

「・・・それ以上は無理、かも」

「!?なにぃ!?」

攻撃を『受ける』ことを選択したウルズは、自身の異変に気付くのが一瞬遅れていた。

「・・・『影縫い』」

『ウルズ』の影に突き立てられた二本の円月刀。

「くっそがぁぁぁぁっっっっ――――――!!!!!」

1ミリも動くことを許されず、超至近距離からの銃撃にさらされる『ウルズ』。

「っと。・・・こんなもんかな」

動けない『ウルズ』の頭上を飛び越え、『フレック』は着地する。

「・・・・・・・」

『ウルズ』は微動だにしない。(出来ないのだが)

「・・・気を失った・・・かな?」

「・・・はは・・・あはははははははははは!!!!!!」

不意に笑い出す『ウルズ』。

「面白い!面白いぞ!!」

「・・・え、ちょっと・・・」

「・・・・・・」

さすがにあきれる椎名姉妹。

「だが、こんなものではまだ甘いな・・・はああああああぁぁぁぁぁぁ・・・!!」

『影縫い』で動けない腕に力を入れるウルズ。

「やめときなって。彩夜の『影縫い』は完璧だよ」

・・・ズ、ズズズ・・・

「・・・うそでしょ?」

「ああああぁぁぁ・・・があ!!」

ズルリ、と床から引き抜かれる大剣。

「・・・化け物め」

「くく・・・ははは!!次は何で来る!?」

ウルズは完全に体の自由を取り戻した。

「ちっ!!もう一回いくよ!エルルーン!」

「・・・でも・・・」

エルルーンの得物、二本の円月刀はまだウルズの影に刺さったままだ。

「しまった・・・!」

「さあ!どこからでもかかってこい!!」

廊下の真ん中に仁王立ちするウルズ。


そのとき。


「・・・邪魔だ」

ッタン。

「・・・・・・あ?」

突然、ウルズの『アイギス』が吹き飛ぶ。

「白神先輩!!」

ウルズの後ろからゆっくり姿を現すヘルフィ。

「・・・そこをどいていただけませんか?『ウルズ』先輩」

『ランドグリーズ』に次弾を装填しながら、ヘルフィが問う。

「・・・私には用はない、と?」

コクリ、とうなずくヘルフィ。

「・・・!!ふざけるなぁぁぁ!!」

ウルズは持ち上げた大剣を振り向きざまに振り下ろす!!

・・・しかし、今回もかなわない。

「も、もう一回かけなおした・・・」

さっきとは違う位置に突き立っている二本の円月刀。

「はは・・・ふざけんなよ?小娘―――」

―――ドンッ!!―――ドンッ!!―――ドンッ!!

バララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!

「ぐっ!!くそがぁぁぁぁ・・・!!」

・・・ズ、ズズズ・・・

「!?まだ動く!?」

「・・・・・・」

―――ドンッ!!―――ドンッ!!

バラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!!!

「・・・かはっ・・・!」

少量の吐血を最後に、ついに『ウルズ』は動かなくなった。

「・・・やった・・・のかな?」

「ら、『ランドグリーズ』を6発も受けたんだから、そうじゃないと困る、かも・・・」

おそるおそる近づく『フレック』と『エルルーン』。

「それよりも、お前たちはお嬢様のお側にいるはずじゃなかったか?」

ガチャン。

弾が切れたのか、『ランドグリーズ』から銃剣を取り外し、本体を放るヘルフィ。

「え、あの・・・」

「正面の主力が苦戦してたから、援護に出てきたんですよ」

「・・・すると、お嬢様は今お一人か!?」

「いえ、第4小隊を残してきて・・・」

「急ぐぞお前たち。ここにもう用はない」

フレックが言い終わらないうちに、ヘルフィは駆け出す。

「ちょ、ちょっと待って・・・」

「ま、待ってください〜」


「『ノルニル』所属『ウルズ』の撃破確認!敵の進攻部隊の反応が、全て消えました!」

オペレーターの上ずった報告に司令室の一同が歓声をあげる。

「ま、まさか、私たち『勝った』の・・・?」

しかし、鷹堂はまだ『勝てた』とは信じられないようだ。

「はは、そうさ俺たちは勝ったんだよ!」

俺自身、なんだかとてもうれしくてハイテンション気味になっていた。

「あ、はは・・・こちらに、無事な者はどのくらいいるの?」

「『ヘルフィ』、『レルル』、『フレック』、『エルルーン』、そして第4小隊と司令室要員です」

「すげ、隊長クラスはほとんど残ってるじゃないか!」

「ええ、みんな良くがんばってくれた・・・私のために・・・」

歓喜に沸き立つ司令室の中で、一瞬つらそうな顔をした鷹堂。

「・・・?どうした・・・」

「お嬢様!!」

そのとき、司令室に入ってくるのは『ヘルフィ』。

「綾香!無事だったのね」

「ええ、お嬢様こそ。お怪我はありませんか?」

「まったく、私たちよりも元気だね」

「さ、さすが白神先輩かも」

『フレック』こと椎名 陽姫と『エルルーン』こと椎名 彩夜が続いて入ってきた。

「みんな!無事だったんだな!」

「ま、私たちは『ヴァルキリー』だしぃ☆」

「か、簡単にはやられないのです」

自慢げに胸を反らす陽姫。心なしか彩夜までもが反らしているような・・・。

「とにかく、一人の死者も出ないまま終わったのは良かったな。これからみんな手当てしないと・・・」

―――まだ終わってません。

「・・・え?」

「彩夜!!」

「うん!陽姫ちゃん!」

どこからともなく聞こえてくる声。

『フレック』と『エルルーン』はとっさに得物を構える。

「あの『ノルニル』を無力化できたのですから、そう考えてしまうのも無理はありませんが・・・」

「その声は・・・!!」

ゆっくりと姿を現す『ヴァナディース』。

「そ、そんな、『業深き美神ヴァナディース』!?いつからそこに!?」

「本当は、『ノルニル』だけで決着がつくのであれば、私は出てくる必要はなかったのですが・・・その『ノルニル』が全滅した以上、私が最後の刺客です」

『ヴァナディース』が得物のレイピアを構える。

「『漆黒に消えた神々』を生き抜いた者として、『ゼウス(鷹堂総裁)』のご命令を全うさせていただきます」

・・・『ゼウス』?そういえば鷹堂は最初『アテナ』って名乗ってたな・・・。

「お父様の命令って・・・私たち全員の確保?」

「それもありますが・・・お嬢様の説得も含まれます」

「お嬢様の説得?投降を、ですか?」

チラリ、と鷹堂を伺いながら、ヘルフィが問う。

「・・・いいえ。貴女ならわかっているでしょう。『鷲峰家とのお見合い』について、です」

「え?・・・お見合い?」

俺も思わず鷹堂の方を見つめてしまう。

「・・・・・・・・・」

俺の視線に気付いた鷹堂は、見つめ返すことはせずに、顔を俯けてしまう。

「・・・どういうことだ?」

「お嬢様は近く、鷲峰グループ総帥のご子息と、結婚を前提とした見合いにご出席されるのです」

「それが、この事態とどんな関係があるんだ?」

一番事情を知っていそうな、というかこの事態を招いた張本人に尋ねる。

しかし、鷹堂は顔をうつむけ、一言も喋ろうとしない。

「・・・まったく、この男は・・・」

え?、と何かをつぶやいた白神さんに振り返る。

気がつくと、いつの間にか司令室全員の非難の視線にさらされていた。

・・・え?え、俺?

「・・・とにかく、舞華お嬢様は一緒に来ていただきます。そこをどきなさい」

「聞きうけられないとわかっている警告は、する意味がありません」

「そーだ!そーだ!今まで何のために苦労してきたと思ってるんだ!」

「く、空気を読んで欲しい・・・です」

鷹堂をかばうように『ヴァルキリー』は展開。得物を構えなおす。

「・・・正気ですか?もう一線を退いているとはいえ、私は『ヴァナディース』ですよ?『ヴァルキリー』が敵う相手ではありません」

「この状況でよくそんなこと言えるね」

「そ、そっちこそ正気じゃないかも・・・」

「ふう・・・わかりました」

前に掲げていたレイピアを、右下に下ろす。

「?話を聞く気に・・・」

「せめて、本気で行きます」

―――空気が、変わった。

「来るぞ!」

「―――『ブリーシンガメン』」

「がっ!!」

いきなり第4小隊の一人が吹き飛ぶ。

・・・え?いったいなにが!?

「お嬢様!ここは私たちが引き受けます!お急ぎください!」

「綾香・・・でも・・・」

「まだこの『武装蜂起』をした目的が達成されていません!このままでは全てが水の泡です!!」

「え?・・・綾香、もしかして最初から・・・」

「きゃあっ!!」

言っている間にも、また一人吹き飛ばされる。

「はやくっ!!いつまで食い止められるかわかりません!!」

「彩夜!『Dramatization by twin pixie(双子妖精による戯曲化)』the fifth(終劇)!!」

「『The melody of the oblivion(忘却の旋律)』―――!!」

「隊長を援護!撃ち方はじめ!!」

左右から囲むように接近する『フレック』と『エルルーン』。それを後ろから援護する第4小隊とオペレーターたち。

しかし、それでもヴァナディースは動かない。

「―――愚かな」

「彩夜、避けて!!」

「―――『ブリーシンガメン』」

視認することさえ許されない神速の突きを、『エルルーン』は事前に回避をはじめていたにもかかわらず、避けきれない。

「痛っ!」

見ると、エルルーンの右腕の『アイギス』はことごとくちぎれ去っていた。

「お嬢様!はやく!!」

この一瞬のうちに起きた一連の出来事を理解できず、ただ呆然としていた鷹堂が、我に返る。

「祐一!こっち!!」

鷹堂は俺の腕を掴み、ヴァナディースが入ってきた出入り口とは違う方向―――準備室への出入り口へ走りだす。

「お、おい!」

「ここに入ってて!!」

扉を開けると、その中に俺を押し込み、再び閉めてしまう。

「なにしてんだよ!お前が逃げないでどうする!?」

「お嬢様!?」

鷹堂の予想外の行動に、その場にいた全員の動きが止まった。


「ヴァナディース」襲撃という、考えうる最悪の事態になってしまった以上、もう時間はない。

「―――祐一はそこでじっとしてて」

「じっとしててって・・・お前?」

お嬢様は扉に背を預ける格好で、話続ける。

「彼女の目的は私。そこでじっとしていれば貴方に危害はないわ」

「・・・・・・」

「もともとは私が引き起こしたことだもの。私が決着をつける」

私たち『D.R.E.S.S.』は黙って見守ることしかできない。

「・・・こんなくだらない戦いに巻き込んでごめんなさい」

その時、外から爆音。

「―――来た」

つぶやくヴァナディース。

同時に、司令室が急に真っ白に染まる。

軍用ヘリコプターのサーチライトだ。

窓と接触するギリギリの距離で、ヘリが滞空している。

「―――舞華」

中から出てきた体格の良い人影が、ヘリの発する爆音の中でも良く通る声で呼びかける。

「お父様・・・」

「旦那様・・・」

―――鷹堂コンツェルン総帥、私設自衛軍『D.R.E.S.S.』総司令官『ゼウス』、そして舞華の『父親』。

鷹堂たかどう 勝義かつよし

「―――『D.R.E.S.S.』を動かすということがどういうことか。よくわかっただろう」

シワひとつないダブルスーツを着こなし、悠然と佇むその老いを感じさせない男は、全てを見透かした上で言った。

「―――はい」

鷹堂コンツェルンの最新技術とは、すなわち『世界最高水準の技術』。

そしてそれを装備した『D.R.E.S.S.』は、本人たちにそんな気ははなくとも、『世界最強の力』だ。

―――強大すぎる力は、一歩動くだけでも代償を必要とする。

動く理由があるならまだいい。それは『双方合意の上での戦争』に他ならないからだ。

しかし、理由がない、もしくは相手にとって意味不明なときは?

それは、『不信感にもとづく殺し合い』しか生まない。終点のない、不毛な消耗戦だ。

今回の『ヴァルキリー』の武装蜂起の理由は、果たして日本の、いや世界中の各勢力にとって理解できるものだったか?

―――答えは『否』だ。

だから鷹堂総裁はあえて圧倒的戦力を投入し、『親子喧嘩』では収まらない、『紛争』レベルにまで事態を発展させ、世界の各勢力に示しをつけた。

―――ウチの娘が申し訳ありません。このように厳しくしつけておきましたので、今回は見逃してください―――と。

結果として、『ヴァルキリー』と『ノルニル』、そして未来の『D.R.E.S.S.』を担う訓練生に、甚大なダメージを与えた。

これは全て、お嬢様・鷹堂舞華が引き起こしたことだ。

舞華は、この決戦でそのことに気付いたのだ。

そして、自分の立場を、悟ったのだ。


「―――ごめんなさい、お父様」

顔を俯けているため、お嬢様の表情をうかがうことは出来ない。

しかし、その声にはかすかな嗚咽が混ざっていた。

「―――乗りなさい」

旦那様は一言、お嬢様に言う。頷くお嬢様。

「待ってください!お嬢様はわかっていなかっただけなのです!私たち『ヴァルキリー』がどういった存在なのか・・・」

「綾香。これは舞華が引き起こしたことだ。決着は、舞華自身がつけなければならない」

「―――ごめんね、綾香。みんな。私がバカだった・・・」

ゆっくりとヘリへ向かって歩き出すお嬢様。

「そんな・・・待ってください!お嬢様を説得できなかった私が全ていけないのです!私がどんな戒めでも受けます!!ですからお嬢様に・・・」

「―――くどいぞ、綾香」

「・・・!!」

「―――さようなら、祐一・・・」

顔をうつむけたまま、お嬢様はつぶやく。

・・・そんな・・・私は、私はお嬢様の望みを叶えて差し上げることすらできないのか?私は―――。

「―――おい。人の意志を無視して巻き込んでおいて、最後まで無視して逃げる気か?」

・・・え?

全員の視線が、今度は声のした方に向けられる。

―――そこには、高郷祐一が立っていた。

「・・・貴様が高郷祐一か・・・」

「な、祐一、なんで出てきたの!?」

「だから言ったろ。俺にも一言言わせてくれ」

高郷祐一は、対地攻撃ヘリに向かって、歩き出す。

「・・・確かに、最初は意味がわからなかったし、理不尽に命令されるのは正直嫌だった。でも・・・この数日間、『常識的にありえないみんな』と過ごした『常識的にありえない日々』は、なんつーか・・・楽しかった」

高郷はお嬢様の肩に手を置く。振り返るお嬢様。身長は高郷の方が上なので、自然と見上げる形になる。

「それで・・・まあ。その・・・俺の持っていないものを持っている『D.R.E.S.S.』のみんな。その中でも鷹堂」

高郷はお嬢様の目を見つめている。

「俺は・・・お前のこんなことに軍隊を持ち出す行動力というか、単純なとことか・・・その、素直になれないとことか、そんなのに惹かれたんだと思う・・・ってなんかおかしいな・・・」

「・・・?」

「と、とにかくっ!!」

「―――あっ・・・」

鷹堂はお嬢様の肩を後ろに引き寄せ、変わりに前に出る。

「鷹堂総帥!俺をお嬢さんと・・・鷹堂舞華さんとおつき合いさせてください!!」


一瞬、その場にいた全員が凍りつく。


「高郷!貴様なんてことを・・・・!」

「祐一・・・」

「・・・・・・・・・」

「お願いします!!」

言うと、高郷は深く腰を折った。

「・・・顔を上げろ」

顔を上げる高郷。旦那様と眼が合う。

「『ヴァルキリー』は舞華の部下である前に私の部下だ。私が一言言えば、貴様の体は次の瞬間には跡形も残らないだろう。・・・撤回するなら今しかないぞ」

「撤回する意志があるのなら、最初から言わない」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

無言で睨み合う二人。その均衡を破ったのは旦那様だった。

「くくく・・・ははははは!!!面白い!この鷹堂勝義に対等に向き合うとは!!貴様相当のバカだな!!」

「・・・」

「『ヴァナディース』!!」

状況の変化についていけず、呆然としていたヴァナディースが弾かれたように反応する。

「は、はい。旦那様」

「私が連れてきた増援部隊と共にこの場から撤退せよ。けが人の収容を最優先。重傷のものは一般の病院でかまわん、とにかく治療を急げ」

「は!」

「高郷祐一!近いうちに私の私室に来なさい。冷静な頭でまた私と向き合えることに期待する!!」

出せ、と旦那様が言うと、ヘリは反転し、すぐに視界から消えた。


「「「・・・・」」」

しばらく、水を打ったような沈黙が続いた。

「そんな・・・信じられない・・・」

最初に言葉を発したのは、白神さんだった。

「・・・は、はは・・・助かった・・・のか?」

俺も、まだ正常じゃない頭で、つぶやいた。

そして、後ろを、舞華のほうに振り返る。

すると、

「―――ばかっ!!!」

いきなり胸板を叩かれた。

「なっ、なんだよいきなり」

今日のMVP間違いなしの俺に向かって、ばかはないだろう。

「バカバカバカ!!あんたみたいな一般ピーポーが、お父様に逆らって生きられるとでも思ってたの!?信じられない!!」

舞華はいまだにポカポカ殴り続けている。

「いや、さっきは非常事態というか・・・その、突発的な行動というかだな・・・」

自分としても、自分がやったことが信じられないのだが。

「・・・ふぅ。では私は撤収作業に従事するとしますか」

事態を静観していた「ヴァナディース」さんが呆れたように切り出す。

「ほら、貴女たちも。ただでさえ人手が足りないんですから」

「ほーい」「・・・は、はい」

「ヴァナディース」さんに促され、負傷兵を連れ視聴覚室を後にする椎名姉妹たち。

「・・・お嬢様」

白神さんだけが一度振り向いたが、最後に出口をくぐっていった。

「・・・ホントに殺されちゃったら、どうするのよ」

『D.R.E.S.S.』全員が出て行ったあと、叩くのを止めた舞華がつぶやく。

「そんなの考える暇なかったろ。でも・・・」

そこで、俺は一呼吸おく。

ついでにそっぽを向く。

「でも、言ったことはその、咄嗟に出たことだけど――――嘘じゃないから」

あー。俺の顔、真っ赤なんだろうな・・・。

「う、うん。―――ありがと」

ぎゅっ、と舞華が俺のカッターシャツを握り締めるのがわかった。

しばらく、俺たちはそのまま動けなかった―――。


後日 鷹堂財閥本邸


なぜか俺は、人生初の「燕尾服」とやらを着せられていた。

つか、本物をみるのも初めてだ。テレビでさえ何回かしか見たことない。

「・・・なあ、なんで燕尾服なんだ?」

スーツじゃダメなのか?

「その方が、多少は見栄えが良いでしょ」

ちなみに、舞華は普段着だ。

・・・それだと、むしろギャップがはげしずぎて、変じゃないか?

見栄え以前の問題だ。

「ふむ、確かに馬子にも衣装とはこのことだな」

「・・・・・・」

うーん、まあいいか。

それよりも、舞華の親父さんだ・・・胃がズキズキ痛い・・・。

「やべ、ちびりそう・・・」

「ちびったら、じゅうたん代請求するからね」

「・・・・・・なあ、また別の日にしようぜ。な?」

「ちょっと!ここまできて何言ってるのよ!

うぅ・・・。

だって、これから「世界の半分を手に入れた」とまで言われている、あの「鷹堂勝義」に会うんだぜ?

しかも「お嬢さんとお付き合いさせてください」って。

・・・これ、なんていう修羅場?

「・・・体調が悪いんで、後日にしてもらうっていうのは・・・」

「貴様!!天下の鷹堂財閥の総帥たる、旦那様を待たせるとでも言うのか・・・!!」

「お父様、連れてきました」

俺と白神さんが言い合っているのを尻目に、舞華がドアをノックしてしまった。

「ちょっ!!まっ・・・」

「いいぞ、入れ」

くそっ!こうなったらヤケだ!!

意を決し、いざ決戦の地へ!!

「失礼し・・・」

「娘はやらん。これは決定事項だ」

「・・・・・・」

その間1秒。・・・俺の決戦、1秒で決着。

マジっすか。

「お父様!」

「だが・・・まぁ、付き合うくらいなら、認めるのにやぶさかではない」

マジっすか。

「その代わり、条件がある」

ごくっと息を呑む一同。

すると、机の上に一枚の書類が置かれる。

「貴様が娘に対し強引に性交渉を迫った場合、可及的速やかに貴様の腰から上はスティンガーで跡形もなく消え去る。・・・この誓約書に同意しろ」

スティンガー・・・

それって対空ミサイルですよね?

腰から上どころじゃないですよね?

・・・なんて命がけなんだ。

鷹堂に無理やり迫るなんて考えは毛頭無いが・・・もし向こうにそうだと誤解されたら、俺は即死亡だ。

「・・・・・・」

やっぱりやめようかな・・・。

白神さんは、じっと事の成り行きを見ている。

「・・・祐一」

鷹堂をみる。その顔には不安の色が浮かんでいた。

・・・だから、そんな顔すんなよ。

「わかった、同意します。サインはどこに?」

傍らに置かれていたペンを取る。

「え、祐一―――」

「ふふっ・・・ははははは!」

なにがおかしいのか、突然笑い出す鷹堂総裁。

「くくく・・・こんなバカは久しぶりだ。なかなかいないぞ。なぁ、綾香」

「はい。旦那様」

「・・・・・・」

まぁ、バカなのは自分自身よくわかっているが・・・。

「よし。貴様と舞華の仲を認めよう」

「・・・え?」

マジっすか。

「東館に君の部屋を用意してある。明日からの業務については綾香から聞け。以上だ」

――――ん?

俺の部屋?業務?

「あの、仰ってる意味が・・・」

「君はたった今から「鷹堂財閥の令嬢」の正式な「彼氏」だ。一般人と同じ扱いはできないだろう」

んな勝手な。

「え、でも、両親にも相談しなくちゃ・・・」

「その件は問題ない。1時間前に話がついた。もう両親の老後については心配しなくていい」

「・・・・・・」

なんて用意周到なんだ。

くいっくいっ

そのとき、燕尾服の裾(というのか?とにかく、やたらと長いアレだ)が引っ張られた。

振り返ると、舞華が上目遣いで聞いてきた。

「祐一はその・・・ここで暮らすのは嫌?」

「―――――――」

実際、悪い条件でもない・・・かな?

「うん、じゃあお世話になろう・・・かな」


かくして、俺は舞華(とゆかいな仲間達)との、波乱万丈な日常が幕を開けた――――。



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