約束の日
お立ち寄りくださりありがとうございます。最終話です。
馬車に白金の光が満ち、見事な転移でシルヴィが戻ってきた。
晴れやかな顔だ。殿下に長の印を贈って、気持ちの整理が付いたようだ。
「お帰り、シルヴィ」
彼女は輝くような笑顔を向けてくれた。
「ただいま、セディ」
僕たちは今や夫婦だ。同居はできていないけれど。
彼女と僕の双方の両親が、「シルヴィが成人してから」と条件を出してきたのだ。
だから、この会話はまだ日常のものではない。
後、242日も待たなければいけない。
けれども、今は時間を気にせずシルヴィといられるこの旅を存分に楽しもう。
「セディ、お誕生日おめでとう」
僕の好きな笑顔を見せて、澄んだ愛らしい声でお祝いを言ってくれる。
悶えそうな気持を抑えつけて、僕は返事をした。
「ありがとう」
何とか誕生日を二人で祝う約束を守ることが出来そうだ。
シルヴィの誕生日の約束は完全には果たすことができなかった。彼女を一人で泣かせてしまった。
何としても埋め合わせをしたい。
僕は思いに駆られて、即座に最初の埋め合わせをすることにした。
空間にしまっていたものを取り出す。
侍従長に勧められた赤いバラの花束だ。
彼女が驚きに目を瞠る。
「シルヴィ、印を交わした僕たちはもう夫婦だ。けれども、改めて申し込みたい」
彼女の瞳から綺麗な涙が零れた。
「シルヴィ、僕はこの魂が尽きるまで、君を幸せにするために生きる」
そう、何より君の笑顔を守りたい。
「僕と共に、僕の隣で、生涯を過ごしてくれますか」
シルヴィは涙をこぼしたまま、僕に抱き着いてくれた。
彼女の温もりと、僕の中に流れる彼女の魔力の高ぶりを感じた。言葉ではないが、確かな返事だ。
「セディ、一生、セディの隣に、セディの中に、いさせて下さい」
彼女は嗚咽を堪えながら、言葉もくれた。
僕は堪らず、花束を置いて、両手で彼女の頬を包み込んだ。
彼女の澄んだ薄い青の瞳が、涙に濡れている。
「この半年、僕が弱かったために、辛い思いをたくさんさせたね」
彼女は何度も首を横に振る。
「私が…、無謀なことを…」
僕は彼女の唇を指で抑えた。
「辛い思いをさせて、ごめん。やり直したいんだ。シルヴィが卒業したときから」
僕は彼女の額に口づけた。
「卒業おめでとう。素晴らしい魔法使いになったんだね」
彼女の目から幾筋も涙が流れた。僕は彼女の涙に口づけた。
そう、あの時、称えるべきだった。冷静に振り返れば、あの試合の時のシルヴィの技は見事だった。あんな技はハリーぐらいしかできないだろう。
本当に目が曇っていた。
そして、こう告げるべきだった。
『お帰り、シルヴィ。待っていたよ』
「セディ、ただいま。もう離れない…!」
彼女は僕にしがみついた。僕の中の彼女の魔力は、熱いぐらいに高まっていた。
背中をそっと撫でる。
「ずっと顔が見たかったの」
彼女はしがみつく力を強めながら、僕の胸の中であの時言えなかった5年間の思いを口にした。
頷きながら震える背中を撫でる。
「僕も見たかったよ」
彼女の思いはまだ続いた。
「ずっと声が聞きたかった」
僕は背中を摩りながら、頭に、額に、口づけを落とした。耳元に思いを囁いた。
「僕も聞きたかった」
彼女の魔力が息を呑むほど激しく駆け巡った。
「傍にいたかったの…!」
僕は貪るように彼女に口づけた。
魔力が彼女に駆け巡るのを感じた。彼女と僕の魔力は熱く溶けるようにお互いの身体を駆け巡る。
もう、離さない――
彼女を抱え込み、何度も口づけた。
彼女も僕の首に腕を回し、口づけを返す。
何度もお互いの魔力が溶けあい、一つになった。
やがてシルヴィの身体から力が抜け、ゆっくりと僕にもたれかかった。
彼女の魔力も穏やかなものなった。
僕は彼女の髪を撫でながら、まだ昂っている自分の魔力を抑え込んだ。
「ウォっホン」
下手な咳払いが耳に入った。
視線を向けると、首まで赤く染めたチャーリーと、目をキラキラさせて手を取り合っているシャーリーとブリジットがいた。
やれやれ、彼らが同席していることをすっかり忘れていた。
僕は彼らに微笑んだ。
「半年、いや5年分だ。大目に見ておくれ」
チャーリーの溜息と、シャーリーとブリジットの強い頷きが同時に起こった。
僕は笑い出した。
やがて、馬車の中は笑いに包まれていた。
お読み下さりありがとうございました。
初投稿のお話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
お立ち寄り下さる皆様のお陰で、完結まで投稿することができました。
心より感謝を申し上げます。
ありがとうございました。
初めて投稿した際、ブックマークを早い段階で付けて下さった方がいらっしゃいました。
勉強不足の私は、ブックマークの方=お立ち寄り下さった方と思い、
「2人も立ち寄って下さった方いる!」
と嬉しさに頬が熱くなったのを覚えています。
その方がいらっしゃらなければ、お立ち寄り下さった方の存在を全く知らないままという
恐ろしい事態になっていたと思います。
ありがとうございました。
お立ち寄り下さった全ての皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
次の新しい話を書く前に、この話のシャーリーとチャーリーの話を書く予定です。
よろしければそちらもお立ち寄り下さいませ!
シャーリーに振り回されるチャーリーの話です。
「シリーズ管理」というものに挑戦して投稿する予定ですが、主人公たちの年齢が上がり
もしかするとR18となりシリーズ管理できないかもしれません(今のところR15の予定ですが)。
タイトルは「恋の手合わせに気を付けよう」となります。
「恋の手合わせに気を付けよう」を2/10から投稿し始めました。R15と致しました。
よろしければそちらにも是非お立ち寄り下さい。