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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
8/96

京爺の大魔法

 京爺は、いつもの店の隅に座らないで、カウンターに座っていた。私を待つのに、お酒を飲まないで待っていたのがイライラの原因だ。


「お前ら、ビー玉買うのに、何処まで行ってたんじゃ」


「涼夏堂とヤマメ屋さんよ。買い物ついでに、仕入れ先に、挨拶に行ったのよ」

「すみません」


「ええもんやろうと思っていたのに、止めるかの」


「なになに?お宝?」


「これじゃ」

 京爺は、満を持して、木の枝を出した。


「? シュラの枝?(清めの枝)」


「もぉええ、かえる」


「すいません。さっき、ヤマメ屋さんで、試飲用の豆を貰ったんです。すっごく美味しいんですよ」

「飲んでいくでしょう」


「そりゃあの。分かった。お前ら、これを良ぉ見い。これは世界樹の枝じゃぞ。接ぎ木用にわしが手を加えたんじゃ」


「接ぎ木って、ここは、楠の洞よ」

「ここって、木の中なの!でも、天窓があるよ」

「楠と言っても、一本の大木じゃあないのよ。何十本もの木が寄り添ってできた森のような大木よ。そのうちの一本が、ガラスでできていて、天井に光を届けているのよ」


「周りは、楠かも知れんが、ここの空間は、世界樹に支えられているんじゃ。楠の洞が、こんなに広いわけないじゃろ。この洞の外壁に接ぎ木をしたら、一室できるぞ。クリスタの試練の話は聞いた。千里の作業場兼自室にするとええ」


「本当ですか!」


「ただしじゃ。接ぎ木はしてやるが、部屋の中身は、自分でやりなさい。ありゃ何じゃ。なーに大変そうな顔しとるんじゃ。その代わり、自分の好きな部屋を作れるぞ」


「あのう、お風呂も作れるんでか?」


「昨日、水妖精とも契約したんじゃろ。当り前じゃ」


「やる気、でてきました」


「よっしゃ、早速、接ぎ木するぞ。博史、アンナ手伝え。お前さんらも、よう見とれ。これでも、ちょっとは、大きな魔法じゃぞ」


「ありがとうございます。師匠」

「あまり大きなドアにしない方がいいんでしょ」

 二人がやって来た。そこにお客さんや、ここを守護している4大精霊の妖精守備隊。人の姿をした猫やら狸やらキツネが集まって来た。彼らは、擬人族だそうだ。擬人族の中には、4大竜の擬人も混ざっている。

 お客さんは、そんなにいなかったのに、何、この人だかり?それも、見たことがない生き物ばかり。多分、この中に、魔法使いもいるのだろう


「どこに作るかの?」

「カウンターの中から部屋に行けるようにしてください」

「わかった。ほんなら、わしが壁に穴を空けて、接ぎ木。アンナが癒着とドアに窓。博史が成長じゃ。なかで、空間作るでな。アンナがその空間を広げてくれ。二人とも部屋の中身は想像せんでええぞ」 

「分かったわ」

「了解です。千里君。ぼくとアンナは、魔法雑貨を使うから、商品を覚えるんだよ。これは、唐津勾玉。増殖魔法の触媒だよ。これで、枝の成長を促進させる」

「私が使うのは、風水晶よ。これで、親木との癒着と窓をデザインするわ」


 肩にとまっているウィンディが補足説明をしてくれた。

「世界樹って、ここに有ったのね。世界樹は、生命力がとっても強いのよ。でも、枝を成長させながら空間を押し広げなくっちゃあいけないでしょう。京爺が接ぎ木した状態を維持するには、アンナが、常に壁と枝の癒着を繰り返さないといけないのよ。大きな魔法は、空間を押し広げる京爺の魔法だけど、大変なのは、風の魔法で、枝に生命を吹き込み続けるアンナの方よ」


 そう聞いて、アンナに注目しようとしたけど、京爺がすごすぎて、目が離せなくなった。カウンターが、昨日見たときより広くなっていたから、あらかじめの準備をしていたようで、余計、周りの人に、何があるのか知れ渡って、こんな騒ぎになったのだろう。


 京爺が集中しだした。左手に世界樹の枝を持ち、右手を下に広げると、手のひらに光が集まってきて、光の球ができた。それをカウンターの奥に向けて何かつぶやくと、ドンと、光が広がって、カウンター奥の壁に、波紋のように広がった。それと同時にアンナが呪文を唱えだした。


「最初に言葉があった。言葉は、神と共にあった。神は光あれと言った。光はこの世を照らしたが、闇も同時に産んだ。生命は、風が運び、土がそれを育てた。土は、大樹の源なり。水を運び、栄養を与え。大樹を成長させる。ああ世界樹よ。この小さな枝を受け入れたまえ。そして共に育ち、栄えよ・・・・」


 とても長い詠唱が続く。しかし京爺は、ここで呪文を二言唱えただけだ。

「トコヨ」

 この言葉で、壁にできた亜空間が、更に広がり、世界樹の幹を貫いた。そして、

「ルーバ」

 この言葉で、その空間が広がる。何となく世界樹の幹の周りを囲んでいる楠が、この洞を取り囲んでいる世界樹を避けるように周りに広がったように見える。まるで生き物のように動いたように見えた。


「どれ、接ぎ木をするかの。博史、支援頼んだぞ。こりゃ千里。わしについてこんか。お前さんの部屋になってくれる枝の接ぎ木じゃ。傍で見んで、どうする」


「この中に入るんですか」


「わしと一緒じゃ、心配すな」


「6次元の時限断層を見ちゃったから怖いのよ」


「これは5次元じゃ。奈落は見えん。しょうがないのう、ウィンディも着いてこい」


「本当!。千里、行こうよ。空間魔法の中なんて、めったに体験できないよ」


「ウィンディが一緒なら」


 私たちは、京爺について、壁にできた亜空間に入っていくことになった。この間も、アンナは、ずっと詠唱を続けている。枝が接ぎ木された時、ただ、癒着するだけではなく、この枝の成長とともに、中に部屋も作らないといけない。世界樹の親木の生命の流れをずっと整えているという感じだ。


「アンナのは、近代魔法詠唱よ。京爺のは、古代語なんだけど。詠唱じゃないって。実際は、自分に気合を入れるためだって言ってた。多分、『穴』『広がれ』ぐらいじゃない」


「行くぞ」


「はーい」「今行きます」


 私たちは、水の中に入っていくように幹の中に入った。その後、壁にできる波紋。多くのギャラリーがため息をつく。


「あれ?ここは、幹の中よね。でも、お店の中も見えるし、外も見えるわ。すごい、なんとなく、この森のような樹の全体像が分かる」


「こりゃ、ここは、空間連鎖の中じゃ。あまり意識を広げるでない。幹の外殻に、接ぎ木しに来たんじゃぞ」


「京爺が持っている世界樹の枝を見るようにして。京爺は、枝を内側から外に向かって突き出すわ。接ぎ木の瞬間よ」


「うん」


 京爺が、世界樹の枝を突き出した。

「モーブ」

 そう言って、枝を手放したが、枝は、その場所に浮いている。なんだか、枝の切り口が薄く光りだしたように見える。


「博史、接ぎ木したぞ」


「モーブ、カシャナクトス」

 マスターが、京爺に次いで、古代語を唱えると、接ぎ木された枝の切り口が光りだし、緑の光となって、世界樹にしみこむように、そして、駆け巡るように広がっていく。


「綺麗」

「素晴らしい。生命の循環よ」


「見ろ。枝が癒着を繰り返しながら成長している。ここの幹の厚みは10メートルじゃ。幹には、店の洞以外の負担は、かけられない。やはり育った枝の中に、バブルを作るぞ」


「作業用の部屋も作るんでしょう。ついでに、私と、サラと、アクアと、ヒイラギの部屋も作って」


「今、言うか」


「お願い。私たちのは、秘密の部屋にして。作業の時に、帰れなかったら、親には、千里の部屋に泊まるって言う」


「かまわんが、本当にいいんか」


「いざとなったら、ここが平和の最終拠点になる」


「なるほど。千里には、後でちゃんと説明するんじゃぞ」


「分かってる」


 何のことだろ?


「バブル6つか。4つは、わしがここで、やっちゃる。先に千里の部屋と作業場か」

 京爺は、息を思いっきり吸い込んで、ほっぺたをこれでもかと膨らませ、緑の光るバブルを吐き出した。

「ルーバ。ショイ」


 そのバブルは、枝の成長とともに、とても大きなバブルになる。京爺は、それをもう一つ作って「アンナ、大きなバブルを感じたじゃろ。これを部屋にしてくれ」と、大声出した。


 アンナは、それを受けて、更に詠唱を続ける。

「その場所は、温かく、安らぎに満ち、風が吹き抜ける。風の妖精よ。部屋の中で舞え。それは、外界と繋がる優しき光を導きたもう。世界樹よ、葉を持て、雨を遮らん。水の流れは、根元に向かうことこそふさわしい」


 アンナは、バブルの空間拡張と、窓の製作にかかっている。


「やるのうアンナ。ここは、大樹の西側じゃが、南側に窓を作ることができる。これなら、風も抜けるし、温かい部屋になる。多分、大きな日よけも作る気じゃ。ウィンディたちもそうするか」


「うんうん」


「作業場は、風が通るようにするために、北側じゃぞ、ええな」


「お願いします」

 なんか、大事になって来たー。私は、お風呂がほしいだけなのに。そうだ!

「すいません。雨水の溜り場を作ってもらえませんか」


「なるほどの。ゼロから、水を出すよりは、よさそうじゃ。魔力に頼らない生活発想じゃな。天然思想は、日本人の原点じゃ。千里は、ええ魔法使いになるぞ」


 幹の中から全体像が見えるのは、不思議な感覚だ。接ぎ木した枝が、マスターの魔力によって、成長する。そして、アンナが部屋のメイキングをする。ただし、今回は、部屋という入れ物を作ってくれるだけで、後は、自分で何とかしなくてはいけない。結果的に、私の部屋は、12畳もの広さになった。東京のアパートは6畳一間なので、ここの方が、住み心地が良さそう。学校があるから、そうもいかないけど、休みは、絶対ここに泊まろうと思う。でも、ベットを作るとか、バスルームを作るとか、問題山積。最初は、寝袋を買って来よう。


 アンナが維持していた光の螺旋の流れが収まりだした。接ぎ木された枝は、最初から親木と成長していたかのように風にそよいでいる。


「千里、ウィンディ、わしの後をついてこい。わしから離れるんじゃないぞ」

 そう言うから、お店に帰るのかと思ったら、枝先側に歩いて行く。ここは、もう、アンナの魔法が届いていないところだ。


「帰らないんですか?」


「まだ、4部屋作らんといかんでの。アンナの魔法は、注目され過ぎじゃ。ここで作っても、秘密の部屋にならんじゃろ。ついでに、納屋も作っとくか」


 京爺は、頭をかきながら、枝先に進み「うっっぷ」と言いながら、小さなバブルを5つ吐き出した。南側に4つ、空気抜け用に北に一つ部屋を作って「まあ、こんなもんじゃろ」と言いながら、腰に手を当てた。


「ウィンディたちには、沐浴の窓〈天窓〉も付けた。良く見せてもらって、後で、自分でつけなさい」


「沐浴の窓は、消臭効果があるのよ」

「それ、付けたい」


「まあ、がんばれ。それじゃあ帰るか。廊下を作りながら帰るでな、わしの服の裾を持って、ぴったりついてこい」


 京爺の服の裾を持つと、急に世界が狭くなっていく。今は、枝の部屋と店しか見えなくなった。それも、さっきまで見えていた部屋の中が分からない。ただ、あるということがわかるだけ。


「窓から、光が入っているのは感じるのに。部屋の中が見えなくなりました。空間閉じてないですか」


「後は、廊下を作るだけじゃからな。そうじゃな、ちょうどこれぐらいが、虫達が感じている世界じゃぞ。多分、店にデビットも居るじゃろ。この木の同居人たちに挨拶せんとな」


「ご近所様よ。京爺、もう一回、言葉の音叉をやって」


「バカ、昨日以上に千里が声を出せるわけないじゃろ。神通力を覚えるまでは、お前が頑張るしかない」


「あの高い音を?自分だけなら、なんともないけど、共鳴させながらでしょう。頭痛くなる」


「やってやりなさい。そのうち、覚える。虫と話すきっかけぐらいは、共鳴させたって、昨日言ったじゃろ」


「千里、聞き取りはできると思うけど、話すときは、額から声を出すのよ」


「?」

 頭をひねるしかない。


「急には無理じゃ。博史に、羽の入った琥珀を借りなさい。面倒でもそれを額に当てて話すんじゃ。琥珀は、妖精カフェから持ち出さん方がええ。高価なものじゃから失くすなよ」



 また、壁に波紋を作りながら、壁を抜け、お店に戻った。振り向くと、屈まないと入れない小さなドアが、ついていた。カウンターの外からは見えない小さなドア。ここが、私の部屋に通じるドアだ。よく見ると、ドアの中の上の方に小さなドアがもう一つ。妖精たちのドアがついていた。同居人は、機嫌よく私の肩にとまって足をぶらぶらさせている。

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