擬人化人
京爺が戻ってくると、魔法が終わったことを告げたことになる、見物客の多くは、そのまま妖精カフェのお客さんになってくれた。ここからは、怒涛の仕事になる。まだ研修を終えていない私は、カウンターの中で、アンナとウィンディのサポートをするしかないのに、目が回るほど忙しかった。ここで、一挙にカウンター仕事をマスターしたという感じだ。
カウンターに、ご近所さんがやって来た。マスターに琥珀のティアラを借りて、ご挨拶することになった。
「昨日から働いている宵野千里です」
「デビットだ。これは、嫁のナーシャ。よろしくな」
デビットは、ほとんどカブトムシの擬人化人。だけど、ナーシャは、逆にほとんど人に見える。ティアラも必要なかった。
「ナーシャさんは、私から見るとエルフに見えます。お綺麗ですね」
「わははは、そうだろ、そうだろ」
「あなた。私は、有翼族なのですが、元々人に近い容姿をしていましたのよ」
「わしらは、この、森の大樹のガーディアンでな、一族で、樹を守っているのだ」
「一度、我が家に、いらしてね。湖のほとりで、とっても景色がいいのよ」
「この巨木の中腹までは、幹ばかりだ。そこから枝分かれする。その中腹には、湖があって、そのほとりに我が家があるのだぞ。まさか根元の方に世界樹の枝が伸びるとは思わなかったぞ。わははは」
「千里さんも、今日から、大樹の住人ね。歓迎します」
二人には、試飲用のエスプレッソで、はちみつたっぷりトッピングのカフェラテをふるまった。
「まだ研修中ですし、妖精のハンカチを作らないといけないので、先の話になると思いますけど、ぜひ、お邪魔させて頂きますください」
アンナとウィンディは、忙しいので、私は野放し状態だ。今度は、竜人がやって来た。
「デービット。わしらもガーディアンだぞ」
「お前らは、自分らの巣を守っているだけだろ」
「同じことだろ。千里だったかな。サイモンだ。わしは甘党ではないぞ。京爺と同じものをくれ」
「宵野千里です。よろしくお願いします。あの、ロックでいいですか」
「そうしてくれ。これは、嫁のターシャだ」
えーーーー!ナーシャさんそっくり
口を押えて驚いている私をターシャとナーシャが、にっこり笑って対応してくれた。
「驚いた?ナーシャは妹よ。私たち有翼族は、擬人族の原型よ。私たちから枝分かれして、擬人化人が現れたのよ。だから、竜人とも、虫の擬人化人の所にもお嫁に行けるのよ」
「多分、千里は、擬人化人のことを知らないのよ。サイモン、席を代わって。そうでしょう、ターシャ」
「そうね。サイモンいいでしょ」
「話してあげなさい」
サイモンと、デビットは、とても仲が良いらしく、男は、男同士で話し出した。
ターシャとナーシャは、顔を見合わせてにっこり笑って、話を続けてくれた。
「千里は、明星様知ってる。明星様も日本人だったのよ」
「この惑星パグーと、地球を結んだ大魔導士様。初めて、私たちの星に道を切り開いた方よ」
「明星様ですか。分からないですけど、日本語では金星ってことですけど」
「あなたの国も最近まで、太陰暦を使っていたでしょう。月の満ち欠けで、1年を測る暦のことよ。ここもそう、パグーと地球は、同じ暦で通じるわよ」
「明星様は、月を利用して、私たちの星への道を切り開かれた、天然の魔法使いよ。だから、双方1年の周期も全く同じ。でもね。私たちと人の世界は、理が違ったのよ。明星様は、来ることはできたけど、帰り道を見失ったの。そこで、人に一番近い有翼族と仲良くなったのよ」
「ドワーフも近いけど、土の中だもんね」
「月もあるんですか」
「そうよ。明星様は、私たちと違う魔力を持っていた。私たちは、4大精霊で言うと風族に属するわ。それで、私たち有翼族を触媒に、擬人化人を想像したのよ」
「私たちにとっては、種族が増えるだけって感じだったみたい。でも、そのおかげで、全く交流がなかった他種族と仲良くなれたのよ」
「暦が同じって、明星様って何年前に、ここに来た人ですか」
「今から、1万2千744年前よ。毎年、擬人化人誕生祭をやっているのね。その時は、天空園に、誰でも入れるようになるから、千里もいらっしゃい」
「なんだか、他人に思えないし」
「それで、明星様は、日本に帰れたんですか」
帰っていたら、そんなに偉い人なら、陰陽師の何とかって人みたいに歴史に名前が残るはずよね。でも、1万年以上前の人か
「帰れなかったわ。だから、私たちの一族になったのよ。私たちは、人とも交われたのよ」
「そうね。だから他人に思えなかったのかも。私たちの中に明星様の血も受け継がれているはずだものね」
「でも、京爺の時も、博史の時も、そう、思わなかったじゃない」
「本当、不思議ね」
私は、急いで、ウィスキーのロックと、はちみつたっぷりのカフェラテを作ってカウンターに置いた。さすがに、ウィスキーは、おごれないが、後は、何となく私のおごりだと言おうと思う。
「じゃあ、狸さんや狐さんもそうなんですか」
「あー。あれ。」
「彼らは、新しい種族よ。2300年ぐらい前からああなったのね。でも、猫族や龍族は、聖戦士族(世界樹を守る虫族)と同じように、古いわよ」
「あの人達は、仲が悪くて、よく諍いを起こしているわ」
「ここじゃあ、そんなことできないけどね」
「理由が、あまりにつまらない話だから、仲裁に入る気もしない」
ターシャが、ため息をつく。
「猫族が仲裁しているみたいよ」
「偉いわー」
私は従業員で、ターシャたちは、お客様。私は、ウィンディのオーダーで、紅茶をいれたり、ケーキを出したり、食器洗いで忙しくなり、姉妹は、そのまま話に夢中になった。食器を洗いながら、こぼれ話を聞くところによると、ターシャの旦那さんは、4大竜?の長と面識があって、最近よく呼び出されているそうだ。それで、家をよく空けるので、手持ちぶたさで、暇で暇でしょうがないと言っていた。どうやら、姉妹とも、新婚さんらしい。ナーシャの旦那さんの仕事は、細かく言うと森の大樹と言うより世界樹のガーディアン。いずれにしても、ずっと、ここにいるので、イチャイチャしているみたい。
「お代は、暮れに払うからつけといてね」 暮れとは月末のこと
「近いうちに、遊びに来てね」
「光玉豆はどこだ」
「まだ教わっていません。ウィンディを呼びましょうか」
「いい、雑貨店側でつけとくよ。デービットも寄っていくだろ」
「あれだけ、大きな魔法を見せられたんだ。風水晶のミニチュアぐらい見とくか」
「まったくだ」
「ありがとうございました」
さすがは、近所で常連。そう言えば、支払方法が違うって言ってたけど、付けってことかな。多分カフェラテ代も払ってくれるんだろうな。今度、おごろう
擬人化人は、私たち人と同じ大きさ。近所のお客さんって感じがした。彼らが守ってくれているのなら、森の大樹の守りは盤石な気がするのに、あの武装した妖精たちは、何なんだろう。妖精カフェを守るって言うのも、変な話だし。一度に、多くのお客さんを見たものだから、また、いろいろな疑問がわいてきた。聖戦士族は世界樹で、竜人族は自分のテリトリーだから、なんとなく納得だけど、妖精の兵士は4種族ともいた。そもそも、こんなにいっぱいの種族で、森の大樹を守る理由って何?敵がいるのかな。そんなことを考えていたら、注文の第3波が来たので、仕事に追われて、考えるのを止めた。




