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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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サミルの改心

 サミルは、精霊界に来て一週間。黒鉛門を京爺に閉ざされて5日目。リザードマンに出会って3日目。ずいぶん親切にしてもらっている。リザードマンの長バクバに、火の国を紹介してもらい、火龍王に謁見までさせて貰った。ここまで精霊界のことを理解した者は、一族にいない。逆に、火の国のことを知れば知るほど、一族に伝わっていた話が正しいと思い知らされた。


 バクバは、そんなサミルを腕組みして見ていた。この若者は、我が一族と関係の深い一族であった。彼に何があったのか。サミルと一緒にいる火トカゲに聞いても「自分たち一族は、ずっと、サミルの一族と一緒にいた。これからもそうしたい」と、言うばかり。


 京爺と念話して長い時間話し合った結果、サミルと火トカゲの本人同士で、話をさせるのが一番だろうということに、なっているのだが、いかんせん、サミルの魔力が弱すぎる。そんな中、サミルは昨夜から、エリシウム山の火口付近に一人でいたいというのでそうさせている。なんでも、一族の儀式を途中で逃げ出したので、それを完遂したいそうだ。夕食には帰ってくると言っていた。


 そこに、風竜のシップウが、孫のユミルと千里を連れて舞い降りた。


「シップウすまんな」


「なんてことない。今度、何か旨いものを食べさせてくれ」


「そうしよう」


「おじいちゃん、サミルは?」

 ユミルが、シップウから飛び降りた。千里は、サミルに会わないほうがいいと言われているので、まだ客室に隠れている。


「エリシウム山じゃ。なんでも、一族の修行を完成させたいんじゃと」


「良かった、千里、降りても大丈夫よ」


「こんにちわー」


 ひょっこりかわいいのが、顔をのぞかせた。


「我が家に来るのは、初めてじゃったの。息子のダイオは、リザード村に行って、今はおらんが嫁を紹介するぞ。厨房に行くじゃろ」


「お願いします。シップウ、ありがとね」


「夕方また来る。ちょっと、ウィンディの家に行ってくるからな」


 シュラの実をたらふく食べる気だ。みんなで手を振ってシップウを見送った。


「お母さん、千里が来たよ」

「嫁のヤイカじゃ」


「まあまあ、いらっしゃい」

「千里です」


 普通リザードマンは、暗い緑色のトカゲ肌をしている人が多いそうだが、バクバ家は、みんな色が違う。バクバは錆びっぽい色のトカゲ肌。ユミルは白っぽいトカゲ肌。ダイオはまだ見ていないけど、深緑っぽいトカゲ肌をしているそうだ。でも、ヤイカは、赤いトカゲ肌。背中の緑のストライプがかっこいい。とても魔力が強いリザードマンだそうだ。


「城勤めをユミルに譲ったでしょう。だから、料理が趣味なのよ。パンを焼くのよね。火加減は任せて。私は、火の中を感じることが出来るのよ」


 ヤイカは、龍王城のメイド頭をしていたが、後輩を育てるために、一線を退いている。ユミルと代替わりと言っているが、ユミルは、リクシャン王妃付きになったので、本人は、全くそんなこと思っていない。城のメイドたちも、気が向いたら戻ってくるぐらいに思っている。


「助かります。早速、試作したいです」

 すごい、オーブンより強い味方だわ。


 厨房に入って、自分が小人になったんじゃないかと錯覚した。踏み台がないと、何処もかしこも届かない。それもヤイカに助けてもらった。私は、ユミルのお母さんが大好きになった。


「ユミルは、赤豆のビーンズ煮を作るんでしょう。材料ならあるわよ」

「ありがと、帰りにいっぱい持って帰っていい?あゆに食べさせたい」

「好きにしていいわ」


 バクバ家の厨房が忙しくなった。




 サミルは、昨夜から何も食べていない。本当は、3日三晩何も食べないで、山で一人で過ごす。それが、祈祷師の家を継ぐ儀式だった。まさか、水も三日三晩飲まないとは、思っていなかった。あの時自分は、2日目でリタイヤ。故郷にいるのが恥ずかしくなって、修行するという口実で、バスク魔法学校に入学。イギリスに逃げた。それから、一度も実家に帰っていない。


 昨夜は、精霊界の星空を見て涙したし、火魔法の力を失った喪失感に打ちのめされた。今朝になって、自分の傍に、ずっといる火トカゲに気づいた。それが気になってしょうがない。この火トカゲは、全く自分の側から逃げようとしない。手を差し伸べるとその指を触ってくる。トカゲなのに、全く他人とは思えなかった。


「お前が、我が家を守る火トカゲの一族だ。そうだろ。お前と話が出来れば、いいんだが」


 ピキッ


 話しかけると反応してくれる。この火トカゲの舌が、半分ないのも気になる。我が一族の守護トカゲが、大事な火の舌を半分も無くすわけがない。多分、自分の性だと思う。自分は、ここで、生かされている。そう実感した。


 一族が追い求めた魔法文明がここに有る。人族ではかなわなかった文明。人族の科学文明とどちらに、将来があるのか、今の自分から見たら、一目瞭然だ。


 サミルはすでに、教主様が言っていたことは、間違いじゃないかと思い始めていた。あの、火龍王の圧倒的な魔力。自分は、ここにいる火トカゲの魔力にも到底及ばない。教主様は、科学文明のない精霊界をすくうと言っていたが、助けてもらっているのは、自分の方だ。



 ピキッ、ぴぴー、ぴぴー


「帰ろうって?お前が見えたんだ。修行終了だ。故郷に大手を振って帰れるぞ」


 そんな道はない。黒鉛門は閉ざされた。サミルは、よけい故郷に帰りたいと思った。山を下りると、リザードマンの族長バクバが、自分の父親と同じように、家の前に火を焚いて、ずっと山を見上げて自分の帰りを待っていてくれた。肩に乗っている火トカゲも、嬉しそうに短い舌でバクバを指さしている。


「どうじゃ、何かつかんだか。精霊界に来て日が浅いのに、修業とは、熱心じゃのう」


「火トカゲの友達ができましした」


「トルが見えるようになったんか」


「トルって言うんですか」

 ぴぴー


「トルは、お前さんをずっと守っていたんじゃぞ。舌が半分ないじゃろ。それはお前さんの命と引き換えにしたんじゃ」


「やっぱり・・」


「昨日から何も食っとらんじゃろ。家に入って夕食を食べなさい」


 夕食は、サミルからいわせれば、肉入り豆のチリコンカンに、コーンブレッドだった。故郷の味だ。


「いっぱい食べてね」


 ヤイカが、どっさり持ってきた。サミルは、これにぱくついた。


「美味しいです」

「そうじゃろ、そうじゃろ」


「美味しいです」

 サミルが泣き出した。泣いているのに、食がとまらない。


「泣くほど旨かったか」


 それを、厨房側の陰から、ユミルと千里が覗いて、にっこりしている。


 サミルは、食事を終えて、水を飲み干したかと思ったら、バクバに土下座していた。


 ヤイカが食器を下げながら、わたしに、「彼は、もう大丈夫よ」と、耳打ちしてくれた。

妖精カフェの「火龍王のタマゴ」編ができたいきさつ


 ロードオブ召喚獣第三世代への進化という短編を発表したことがある。ストーリーは、妖精カフェの「火龍王のタマゴ」編のベース。自分で言うのも何だが、なかなかの出来だった。しかし、最後まで、主人公は、一度も召喚獣を召喚しなかった。そこで、この話のベースを妖精カフェにもらって、今の火龍王のタマゴ編ができた。


 この、ロードオブ召喚獣第三世代への進化の世界観で、とても気に入っているところがある。それは、主人公がドワーフ王に、「もし、超巨大で再生能力がとても高いエネミーが100体いた場合。君の世界の核爆弾を使って、これを倒そうと思ったら、どれぐらい水爆がいる?」と聞かれた。主人公は、「そんなのを水爆で倒そうと思ったら、地球が滅亡してしまいます」と、答えた。

 ドワーフ王は、「では、魔法で倒した場合はどうかね」と、更に禅問答を続ける。「それなら、再生アイテムがドロップしますよね。そんなことが出来るのなら、この惑星は、大繁栄します。いったい何のことですか」と、聞き返し、ヒロインの話になる。


 自分で、このシーンを書いていて、現在の科学は、先がないが、魔法には、その先があると確信した。なんせ、この話のギミックは、理の違う世界が、科学の先にあると言う世界観だったからだ。


 素粒子物理学では、我々の世界とは、理が違う世界があっても不思議ないそうだ。さらに、宇宙は一つではないというマルチユニバース理論と結ぶと、理の違う世界と、繋がる可能性があると言うのが現代の物理学。


 ロードオブ召喚獣第三世代への進化では、結局主人公が、召喚獣を召喚しなかったのだ。だから、新たな話にリメイクすべきだと思い、削除して、妖精カフェに引き継がせた。妖精カフェでも、精霊界側で、この思考が生きている。


「火龍王のタマゴ」編、サミルの改心で、サミルが、「一族が追い求めた魔法文明がここに有る。人族では、かなわなかった文明。人族の科学文明とどちらに、将来があるのか、今の自分から見たら、一目瞭然だ」と、思考したシーンには、こういう意味を込めていた。


to: この物語は、アルファポリスに移植しました。


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