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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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コーンブレッドは、お母さんの味

 火龍王のタマゴ探しの話は、京爺に全部伝えたのだけれど、アンナから、無茶な注文が来た。火の魔術師のサミルさんに、コーンブレッドを焼いてほしいという。


 妖精カフェには、立派なオーブンがある。マスターは、カフェをやる前から、ケーキを焼くのが趣味だった。今は、実用も兼ねて焼いている。だけど、わたしは、まだ、ケーキのことを伝授してもらっていない。


 京爺にコーンブレッドの話をしたら、「おふくろの味っちゅうこっちゃな」と、頷いていた。


「千里、すまんが、アンナの言う通りのレシピで、その、コーンブレッドちゅのを焼いてやってくれ。時間がないんじゃ、サミルの説得が、解決の早道なんじゃよ」


「分かりました」


 あの時は、「分かりました」といったものの、自信がない。ただ、味効きしてくれる人に、心当たりがあるので、何とかなるかと思っている。


 アンナが言うには、「プチプチ感が強くて、バターたっぷりのコーンブレッドをお願い」と、いうことだった。だから、コーンミールが多め。問題は、強力粉との比率だろうなという所までは分かる。東京側のカフェに来ているモーリスさんは、アメリカンなので、昔ながらのコーンブレッドを焼いたと言えば、味効きしてくれる。


 そんなわけで、とりあえずコーンブレッドを焼いて、モーリスさんの家を訪ねることにした。東京のお客さんは、みんなご近所さんなので、歩いてすぐそこに住んでいる。



 モーリスさんって、店が開いていたら、毎日来るけど、何している人なんだろ?


 モーリス邸は、一軒家。訪ねていくと、奥さんが、出てきて歓迎してくれた。味効きのお礼に、妖精カフェのコーヒーも持ってきたと言ったら、モーリスさんが慌てて出てきた。


 ピンポン


「ごめんください」


「はーい、ちょっと待ってください」


 私のアメリカ人の奥さんのイメージは、どっしりしていて、ビックマザーみたいな印象。でも、出てきたのは、年相応なのだが、スタイルの良い背の高い人だった。


「なにかしら?」


「妖精カフェの千里です。モーリスさんいますか。ちょっとお願いがあって来ました」


「あら、いい匂い。コーンブレッドね」


「はい、味効きしてもらいたいんです。お礼にコーヒーを持ってきました」


 そう、モーリス夫人に言うと、ものすごく嬉しそうな顔をして、パタパタと、書斎に走った。

 妖精カフェのコーヒーに目がないモーリスさんが、慌てて出てきた。


「千里、コーヒーを持って来たって」


「コーンブレッドの味効きをしてくれたらです」


「もちろんするよ。上がってくれ。メアリー、千里だ。千里、メアリーだ」


 横でニコニコしている奥さんを紹介してくれた。奥さんのメアリーさんに挨拶されて、こっちは、ペコペコ頭を下げたんだけど、力強い握手で歓迎された。そして、そのまま、モーリスさんの書斎に通された。


「マスターがいないと、ケーキが出せないじゃないですか。練習したいって言ったら、アンナさんが、コーンブレッドから初めて見たらって言うんです。昔ながらのコーンブレッドって、こんな感じですか?」


「OH、アンナと博史は、仲直りした?」


「今、新婚旅行で、ロサンジェルスに行ってます。その後はロンドンに行くって言ってました」


 本当は、火龍王のタマゴ捜索。新婚旅行って感じじゃない。


「それは良かった。店を休んでいるのに挨拶に来ないし、心配していたんだ。あれだね、雨降って地固まる」


 慌てて出かけたからだわ。

「ごめんなさい。それで、これなんですけど」

 そう言って、焼き立てのコーンブレッドを差し出した。


「そうそう、コーンブレッドは、焼き立てじゃないとね」


「そうなんですか」


「コーンブレッドは冷めると固くなるのよ。初めて焼くなら、コーンブレッドが正解ね。でも、コーンブレッドは、奥が深いわよーーー」


 奥さんのメアリーさんも同席してくれた。


「昔ながらのコーンブレッドは、お店向きじゃないね。千里の修行は、これからね」


 モーリスさんにウインクされた。げーー、道のり長いんだ。


「モーリスさん、お礼のコーヒーです。メアリーさんも飲んでください」


「あら、美味しい」

「だろ、だから一緒に行こうと言っているんだ」

「だって、エスプレッソでしょう。でも、これなら飲めるわ」


 客さん一人ゲット。


「それで、コーンブレッドの味はどうですか」


「コーンブレッドは、へたくそな人が作ると美味しいんだ」

 コーンブレッドは、強力粉やバター牛乳と混ぜるとき、だまになっている方が美味しい。


「失礼ですよ、あなた。千里さん、コーヒーのお礼に、私が作り方を教えてあげる」


「本当ですか!」


 そんなわけで、モーリス邸に、暫くお邪魔することになった。


 キッチンで、コーンブレッドを作りながら、モーリスさんのことを教えてもらった。モーリスさんは、日本の文化を世界に紹介している人。主に東京のことを紹介している人だった。奥さんのメアリーさんも日本が好き。特に和食が合うみたいで、最近、和食ばかり食べていたそうだ。お子さんは、二人とも成人して独立。なかなか、アメリカに帰ってこないモーリス夫妻をちょくちょく訪ねてくれると言っていた。


「でも、長男は、もうすぐ結婚だから、ちょくちょくとはいかないと思わ。逆に、孫が生まれたら私が行かないとね」


 メアリーさんのコーンブレッドの味をお嫁さんに伝授すると言っていた。


 妹のリリィは、お母さん子で、「私も日本に住もうかしら」と言っている。そういわれて、モーリスさんは喜んでいるが、メアリーさんは反対。せっかくのキャリアを捨てるなんて、もったいないと言っていた。



 メアリーさんとモーリスさんにお礼を言って、モーリス邸を後にした。妖精カフェに戻って、店長代理とユミルさんに急いで相談しなくっちゃいけない。サーシャさんの台所を見せてもらっているから知っているのだが、オーブンがない。コーブレッドは、時間がたつと固くなると言われている。ユミルさんの家に、風竜のシップウに送ってもらって、そこの石窯で作るしかない。

 モーリス夫人に、コーンブレッドは、ピリ辛の豆料理に合うと言われた。それなら、ユミルさんが作れる。



 ユミルさんと火の国に行くことになった私をウィンディとあゆが送りに来てくれた。シップウが、あゆを見つけて、ナンパ?していた。


「よう、お嬢ちゃんは、乗らないのかい」


 長い首をくるんと回して、あゆの鼻先に顔を向けた。


「きゃ、えっと」


「シップウ、あゆが驚いているでしょ」


「その子は、あゆって言うんだ」


「ちょうど良かったわ。あゆは、涼夏堂の跡継ぎよ。明日天空園に挨拶に行くから乗せてあげて。シュラの実をお父様がいっぱい準備してくれたわ。途中食べに帰ってから、千里を迎えに行ってもいいわよ」


「あゆです、よろしくお願いします」


「いいね。あゆは、明日な。千里、準備はできたか。早く乗れよ」


「ごめん、機材が多くて」


「よろしくねシップウ。私の家は分かる?」

 ユミルが私を待っていてくれた。


「龍王城の傍だろ。リザード村側の」


「お願いね」

「行ってらっしゃい」×2


 手を振る私たち。シップウは、悠々と風に乗って、エリシウム山にあるリザード村に向かった。

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