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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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魔術師サミルの父親

 アンナとマスターは、ニューメキシコの山奥に来ていた。ここにいるリザード族が、今、精霊界にいる火の魔術師サミルの故郷だ。ドナルドは、道なき道をJeepで踏破する。


「酷い道だな」


「車で部族がいるところまで行けるだけでましだぞ。前は、車から降りて、2日も歩いたんだ」


「未だに昔の生活様式を守っているのね」


「ちがうちがう、各テントに太陽光発電機が付いている。みんなテレビを見ているぞ。訛っちゃいるが、英語を話すし、コーラだって飲む」


「収入はどうしているんだ。国の援助か?」


「それもあるが、他部族がインディアンカジノを始めたんだ。彼らもそれに賛同した。そんなわけで、お金持ちだよ。そんなにお金は、いらないらしいけどね」


「根っこは、精霊信仰か?」


「そんな感じだ。分かるのか」


 マスターが、火の国ので聞いた古い話を話し出した。


「昔は、原始的な召喚術があったんだ。人が精霊を自分に降ろす儀式みたいなもので、裸で、3日間何も食べないでいると、精霊がやってくる。たまにその精霊が部族を助けてくれるんだ」


「火の信仰でしょう。サーシャの好きな話ね」


「そうだね。火を使って、悪いものを断ち切るんだ。普通に考えても、煮炊きした方が、安全な食事になるからね」


「生の方がビタミンが取れていいんじゃないか」


「医者的発想だな。当然野菜も取るように導く」


「火トカゲは、果実や野菜が好きなのよ。」


「肉も食べるけどね。いずれにしても、穀物を育てるタイプじゃない」


「へー、面白い。異世界の話を本にしてくれよ」


「そうする?」

「そのうちね」


「さっきの話って、リザード族そのままの生き方だよ。こんなところに起源があったんだ」



 赤茶けた土の道を永遠と進んで、山の中に入って行くと、突然前が開けて、盆地になった。中央に小川が流れている。人が住むのに適した環境だ。


 この盆地の入り口に、車で入るなという看板がある。ここで降りて、村に行くことになった。


 ドナルドは、「せっかくこんな片田舎に来たんだ。医者のボランティアをさせてくれ」と、言って、機材を一式持って外に出た。博史が、薬品の詰まったデイパックを担がされた。


 ドリトルは、ここに初めて来たと言っていたが、医者の必要というのは、何処も変わらないらしい。部族の者がドリトルを見かけて駆け寄ってきた。


「医者のボランティアか?」


「そうだ。病人はいるか」


「病人はいない。でも、ケガ人がいる。崖から落ちた。昨日のことだ」


「その人を見せてくれ」



 怪我人のテントに行くと、祈祷師が、情けない顔をして彼のために拝んでいた。足を二本とも骨折している。ドナルドの、医者とは、思えない荒療治が始まった。


「こりゃまた、綺麗に折れたな。このままじゃ骨がずれたままだ。位置を治そう」


 そこからは、ケガ人が可哀相なぐらい叫んでいた。ドナルドは、強い麻酔薬を持ってこなかったそうだ。部族の若者が、ケガ人の口に布を入れて頭を支える。二人が両脇。一人が、ドリトルの補助だ。


 アンナとマスターは、見ていられずテントを出た。そこに、先ほどの祈祷師が、がっくりとうなだれていた。テントの中の叫び声を聞くたびに目を瞑っている。


「おつかれさまです」

「大変でしたね」


「わしゃ、何にもしとらん。あれは、火トカゲ様が怒ったせいでそうなった。そんな祟られた怪我をどうせいというんじゃ」


「じゃあ、あの人は、山に入っていたの?」

「精霊と交信していたのですか」


「そうじゃ」


 現在、精霊界の火の国は、荒れている。ありそうなことだった。


「あの、すいません。ここにサミルさんって人がいたと思うのですが、どうしているか知りませんか。確か火の魔術師になったはず」

「彼の怪我ってサミルさんと何か関係があるのではないでしょうか」


「サミルを知ってなさる。あれは、もう、此処にはおらんよ」

 祈祷師が、パッと目をあげて、マスターたちを見た。


「精霊様と繋がったんでしょう」


「わしらと違う方法でな。それは、邪道なことなのじゃ。この村には、置いておけん。せっかくイギリスまで留学させたのにサミルは・・・すいませんな。愚痴でした。サミルがわしの後を継ぐとばかり思っていたものですから」


 すべては、リザード魔術教団に繋がっていく。


「私、バスク魔法学校の卒業生です」


「道理で、話がすんなりいくと思った。サミルを訪ねてくださったのかな」


「噂を聞いただけです。リザード族は火の魔術師に繋がりそうじゃないですか。ここにいると思っていました」


「ありがとう。留学は、そんなに間違っていなかったのかもしれないのう」


「彼は、何年卒業なのでしょう。もう少し聞いてみます。会えたら、ここに帰っていいと言ってもいいですか」


「5年前ですじゃ。部族としては、迎えられんが、家族としてはそうなる」


 この人が、サミルの父親だ。 


「何か証しになるものを貰えませんか。会えたら、必ず伝えます」


 そう、マスターに言われた祈祷師は、自分の髪飾りに使っている大きな赤い髪留めを差しだした。マスターは、これを宝物のように受け取った。アンナは、博史の、こういう仕草が大好きだ。



 テントの中の大怪我をした彼が、死んだんじゃないかというぐらい静かになった。治療完了だ。ドナルドが、「ふー、いい仕事をした」と、さっぱりした顔で、テントを出てきた。


「あれは、すぐ治るよ。骨が綺麗に折れていたからね」


「本当ですかな」


「医者の私が言うんだよ。間違いない」


 祈祷師の顔が穏やかになった。


「さて、村長に会いに行こう」


 二人は、にっこりして、祈祷師に別れを言った。後は、此処の歴史を聞くだけだ。リザード村での目的は達成した。



 ロサンジェルスに帰る車中で、ドナルドが、情報屋との定期連絡が取れなくなったと、訴えてきた。


「まいったね。難しい仕事だとは思っていたけど、つい、良さそうな立場にいたみたいだったから、話に乗って、雇ってしまったんだが、困ったね」


「その情報屋について詳しく聞かせてください」

「ぼくたちは、この後、イングランドに行くんだ」


「助かるよ。博史なら安心だ。みゆき横丁のジャッキーだよ。知っているかい」


 アンナの顔が真っ青になった。


「ええ、よく知っています。私の親友です」 


「彼女は、土属性の魔法使いだよ。最近、土属性の蛇の一族に、リザード魔術教団がアプローチしているというんだよ。同属性じゃないか。いいと思ったんだ。そこに博史の火龍王のタマゴの話だろ。それで、少し調べてもらうことにしたんだ」


 急ぎの案件ができた。今日中に、飛行機に乗る。アンナは、リザード魔術教団の話と、サミルの父親の話を急いで千里にメールした。

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