ゴールドヘクロディア
ウィンディの友達は、とっても個性豊かだけど、みんな女の子で、なんだかほっとした。
「はぁい」
「きゃー、ゴールドヘクロディアじゃないですの」
「・・・」
「ぼくは、サラだよ。火のエレメンタル。アンナに、燃える女ってキャッチフレーズ貰ったのよ」
「この子は、おせっかいなだけ」
「ウィンディ、ひどいなー」
「私は、アクア。水のエレメンタルですのよ」
「まだ研修中ですけど、今日から妖精カフェで働くことになった宵野千里です」
「そして、この、ぼーっとしている子が、ヒイラギよ。みんな、良家のお嬢様ばかり。だから、とっても強い魔力を持っているわ」
「よろしくお願いします」
そう言って、手のひらを少し上にして差し出した。サラに触られると、やけどをするかと思ったけど、そんなことはなく。ぼーっとしているヒイラギには、顔をコチョコチョしてあげてというので、本当にそうした。
「ふわー、ちさと、好き」
ヒイラギが、ニコニコ、フニャフニャしていると、彼女が持っている小さなコップから、蜜があふれてきた。
「ヒイラギ止めて」
「まーまー、こんなに食卓を汚して」
私たちは、慌てて、布巾を取りに走った。蜜が溢れたと言ってもカップが小さいので、すぐキレイになったが、ウィンディは、あきれ顔だ。
「ヒイラギは、千里のゴールドヘクロディアに、魔気を当てられたのでしょうけど。そんなことではダメ。気をしっかり持ちなさい」
「仕方ないよ。ごろごろしているところに急だったんだから」
「そうですわ」
「はー、みんな、うちに帰らなくていいの。蜂蜜一杯で、粘られても、商売あがったりよ。お昼なんだから、昼食をとりに、お帰りなさい」
「えー。ここで、ごろごろする」
「久々の休みなのですから、ゆっくりしたいですわ」
「学園の優等生たちがこれじゃあ、後輩に示しがつかないわ」
「いいでしょ。私たちを置いて飛び級して、卒業した人には、言われたくない」
「みんな、もしかして、ウィンディと同い年?」
「そうよ。こいつは、学校が嫌いだったのよ」
「マスターに、教えてもらった方が、面白いからさっさと卒業しただけよ。アンナも優しいし」
「ぼくもそうすれば良かったー」
「わたくしも」
「あの時は、ピンと来なかったけど、わたしも」
ぼーっとしているヒイラギまで、手をあげて同意した。私は、ゴールドヘクロディアだとか、私の魔気がどうとかと言われて、はてなマーク一杯だ。
「だからって言って、ここを溜り場にしないでよ。あーーー、千里が、聞きたいこと満載って顔してる。アンナに、基礎知識を教えてからじゃないと、千里のことを教えるのは、まだ早いって言われてたのに、あんたたち、責任取りなさい」
「えー、アクアが説明してあげてよ」
「基礎知識が、全くないのですよね」
「なにがなんだか」
「分かりました。わたくしが、説明いたしますわ」
「千里が魔術を使ったのは、私が最初でしょう。友達に、なろ」
「でしたら、ヒイラギも手伝うのですよ」
「ふぁーい」
「じゃあ、私は、仕事に戻るわね。みんな、後はよろしく」
3人の妖精は、ふわふわと手を振って、ウィンディを見送った。
アクアが、羽の扇子を広げて、本気モードに入った。考え込むときは、顔を半分隠し、話すときは、その反対側に扇子を振った。
「そうですわね。さっきのような力を魔力と言います。私たちの魔力は、とっても強いです。それは、千里にも言えます。千里から、とても強い魔力を感じますのよ」
「私から?私は、魔力なんて感じたことないし。使ったこともないなー」
「どう言えばよろしいんでしょう。千里は、魔力回路を持っていますのよ」
「千里は、妖精の魔力を現実の力に変えることができるのよ」
「それ、いいですわね。妖精の魔力を引き出す力と申しましょうか。さっきは、無意識に、ヒイラギの力を引き出してしまったのですわ」
「私は、土のエレメンタル。増殖魔法が得意」
「こういうのを魔術って言うんだ。自分の魔力を使って、何かをするのは、魔法だよ」
「実は、私たちの言葉は、みんな違うのです。千里は、ここに来たばかりです。本当だったら、わたくしたちの言葉を理解できないはず。ですが、話している。それは、ウィンディがサポートしているからですわ。これも、魔術ですのよ」
「そう言えば、アクアが話すとき、「ポコポコッ」とか「タップンタップン」って、音が一緒に聞こえるし、サラだったら、「ボッ」とか「ボーーー」って聞こえる。じゃあ、このタップンタップンって音とか、ボーーーって音が、ほんとの声なの」
「わたしは、わたしは?」
「ヒイラギからは、ガラガラとか、キーンとか、岩とか金属の音が聞こえるよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
アクアが、顔半分を隠していた扇子を開いた。
「この、現実の音と、ウィンディがサポートしている音を意識して会話していると、いつの間にか、風の魔術を使わなくても、わたくしたちと、普通に話せるようになりますの」
「そうする。実際は、みんなの言葉を覚えることもできるんだ。すごい」
「これは、相互に作用しますから、わたくしたちの間では、千里は、千里の言葉で話して結構よ。頭の中で、わざわざ、言語を組み替えて、その言葉を発する必要はありませんわ」
「魔法が使えるようになると、ヒアリングだけじゃなく、他の人にも、ずっと、自分の言語で話せるよ」
「その方が、表現が自然」
「その魔法、覚えたい」
「急には、無理ですわ。まず、己が内の魔力を感じることが先決です」
「そうよね。う~ん。あーーーダメだあ、全然感じない」
「急には無理」(ヒイラギはのんびり話しているように聞こえる)
「焦らない」(サラは、体育会系って感じかな)
「魔術から入る方が簡単ですわ」(アクアは、お嬢様)
多分、みんな、私と年が近いと思う。すっごく話しやすい。
「次が厄介ですわね。ゴールドヘクロディア。これは、わたくしたちの惑星、パグーの闘争の歴史と、果ては、わたくしたちと、人間界とのかかわりを話さなくてはいけません。長いですけど、お聞ききになります?」
「お昼休みは、1時間だけだから、無理かな。今度教えて」
「じゃあ、逆に一つだけ質問です。コールドヘクロディアのゴールドとは、金色と、赤金、青金があります。どの色が目の中に見えます?」
「目の端に見える光の粒のこと? 赤と青よ。その粒が流れるように見えるわ」
「素晴らしい。千里は、偉大な魔術師に成れるわ」
「私たちと組まない?」
「そーそー」
「でも、ずっと、みんなに頼ることになるんでしょ。魔法を覚えたいかも」
「その心意気や良し。じゃあ、お友達の印よ。手を出して、あなたたちも」
私の差し出した指に、各々、みんなハイタッチしてくれた。ウィンディの時もそうだけど、なんだかみんなの力が流れ込んできた気がする。とっても嬉しい。
「それで、みんなから見ると、私の目ってどういう風に見えてるの?ヘクロディアだから、右目と左目の色が違うってことでしょう。右は何色で、左は、何色?」
「千里の場合は、一つの目の中に2色だよ。角度によって、青みがかったり、赤みがかったりかな。でも、印象は、猫の目と一緒」
「ちょっと見せてくれます?」
アクアが目の前に飛んできた。
「綺麗ですわー。実物を初めて見ました」
「わたしも見たい」
ヒイラギも飛んできた。
「わぁ、きれい」
「ぼくにも見せてよ。本当、綺麗。目の中に宇宙があるみたい」
サラたちに、ちやほやされていたら、アンナがすまなそうな顔をしてやって来た。気が付いたら、もう、お昼休みが終わりそうだった。