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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
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5/96

大失敗

 サラとアクアとヒイラギに手を振ってお別れした後、また、元のお店に戻って研修を再開することになった。朝やった接客を復習した後、メニューに入った。ここは喫茶店なので、メニューは大した量じゃない。でも、自分で作らないといけないから、大変。


 ドリップ式コーヒーや紅茶は何とかこなしたのだが、問題は、エスプレッソだ。エスプレッソは、カプチーノやカフェラテの原型だ。ここから自分でいれる。スチームミルクはさすがに機械だが、なら、全部機械にしてほしかった。


「ごめんなさい。実は、簡単なものなら、機械で全部できるのよ。でも、たまにしか来ないくせに、みなさんうるさいのよ。そう言う人は、顔を覚えるほどしかいないけど常連様。後は機械でいいわよ」


 結局全部覚えないと危険だ。特に、エスプレッソだけ注文するお客さんは、豆にうるさいそうだ。エスプレッソは、私にとって濃すぎるので、試飲するのが大変。豆なんて全部真っ黒で、同じように見える。結局、覚えるのに、時間が、かかるとわかった。


「いざとなったら私を呼んでね。でもね、絶対モーリスさんは、自分で淹れてみろっていうわよ。自分好みの味を覚えさせたいのよ。私の時もそうだったから、千里も鍛えられると思う」


 これが、妖精カフェの試練かなって思った。だって、エスプレッソって、炭の飲み物よ。そりゃあミルクをたっぷりいれたカフェラテは美味しいけど。


「ごめん千里。奥のお客さんに呼ばれたわ。せっかく千里がお店にいるし、お店の空気を入れ替えてね」


 それは、窓を開けろということだったが、私は、玄関も空けてしまった。閉店しているお店の玄関を開けるのは、よいことではないと、後で、思い知らされた。特に、ここは、普通ではないものを売っているのだからなおさらだ。



 玄関を開けていると、スーツに高級そうな外套を着ている二人のイギリス紳士が、流ちょうな日本語で、アンティークを見たいと言ってきた。


「よかった。今日は、お休みなのでしょう。店が開くとは思っていませんでした」


「いえ、これは・・」


「私たちは、今日、帰国なのです。どうか、品物を見せてください」


「あ、あの!」

 私が、断る間もなく。二人は、さっさと入って、アンティークを物色しだした。紳士たちは、重そうな磨石を見ながら、失望している。


「やっぱり、田舎には、これと言ったものがないね」


 磨石とは、石を研いで、石器の強度を上げるものだ。日本では、1万年前から使われている。


 田舎って、ここは東京よ。そう言うのは、英語で話して私に聞こえない様にしてよね

 そう思って、強引な二人にあきれて腕組みした。

 砥石を見て何が楽しいんだか。イギリス人の考えることはわからない


「おおっ、なんだこれ」

「魔石だろ。やったな」

「店員さん、この魔石はいくらですか」


「300万じゃないですかね、ちょっと聞いてきます」

 冗談のつもりで吹っ掛けて、舌を出しながら奥に磨石の値段を聞きに走った。値段を聞いたイギリス紳士は、頭を抱えて悩んでいるようだった。ざまあみろだわ。東京のことを田舎なんて言うからよ。


「Oh NO」

「何とかするよ」



 アンナに玄関を開けちゃったと、謝り、磨石の値段を聞いた。


「いいわ、私が対応してあげる」

「磨石って言っても、石器時代の日本の磨石を再現したレプリカだから、3万でいいぞ。珍しい物が売れたね」

 マスターは、大喜びだ。


 しかし、店に帰ってみると、高級そうな服を着た英国紳士はいなくなっていた。かわりに、喫茶店のカウンターの上に、300万の小切手が置いてあった。アンナは、これを見て、真っ青になった。


「この小切手って、多分本物よ。こっち側には、魔法雑貨を置いていないはずなのに」

「すいません、300万なんて皮肉を言ったのは、私です」

「でも大金よ。そんな冗談を真に受ける人はいないわ」


 私たちは、慌てて、磨石コーナーに走ったが、違和感がある物はない。


「その人たちは、どんなものを買っていったの」


「えっと、平べったい小さな磨石でした。でも、透明がかった緑色で、それで、宝石と勘違いしたんじゃないですか」


「平べったい緑の透明がかった磨石?他には?何でもいいから思い出して」


「透明がかっていたせいでしょうか、石の中に泡のようなものが見えました。もしかして、魔法アイテムですか」


「分からない。でも、300万も置いて行くなんて普通じゃない。私は、マスターに、このことを報告するわ。千里は、玄関を閉めてちょうだい」



 私は、初仕事の日に、とんでもない失敗をしたのかもしれない。なんだか、ドーーんと、気が重くなった。


 カウンターの中で、落ち込んでいると、マスターに付いて来てくれた京爺が、肩をたたいて元気づけてくれた。


「ほれ、落ち込むな。何も知らんちゅうのは、たいへんじゃの。お前さんが売ったのは、生命の緑石じゃ。こっちの値段で、300万ちゅうのは、牛6頭分ぐらいじゃそうだな。その数なら一家を支えることができる。そりゃあ魔法雑貨と思って買ったに違いない。値段自体は、正当じゃぞ」


「私、東京に出てきたばかりで、何も知らなくて。もし、悪い魔法使いに売ってたら、どうしよう」

 急に涙が出てきた。


「心配すな。悪い魔法使いなら、そもそも金など置いて行かん。だからって、魔術師じゃあ、あれを使いこなせん。それ以外なら、問題ないじゃろが」


 京爺は、泣いた私を心配したけど、私は、泣いて、すっきりした。


「千里君。今日は、帰りなさい。ゆっくり休んで、明日も10時にいらっしゃい」


「私、まだここで働けるんですか?」


「当たり前じゃないか。こっちの店に、魔法雑貨を置いていたのは、ぼくの落ち度だ。君の性じゃない。でも、ちょっと勉強が必要かな。店を手伝いながら、勉強しなさい。明日は朝からは、精霊界の方に来てくれないか。先に魔法のことを説明するよ」


「ゆっくりお風呂に浸かって休むのよ」

 アンナも、早退に同意してくれた。


「しょうがないの。わしが、明日いいもんやるから、絶対来るんじゃぞ」


 京爺・・・


 ものすごく頭を下げながら、お店を後にした。番台のおじさんに裸を見られるのも忘れて、銭湯の1番風呂に入り、その日は、なんだか疲れて、すぐ寝ることができた。この後、お店では、アンティークショップの棚卸を徹夜してやったそうだ。東京側には、もう、魔法雑貨がないことが分かり、みんな、ホッとしたと言っていた。

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