シップウの客室は、大騒ぎ
シップウの客室は、大騒ぎになっていた。到着があまりにも早い。サラとアクアは、謁見用の正装に着替え中。メイド3人がかりでてんてこ舞いしていた。
「そりゃあ、女しかいないからいいけど。殿方には見せられないわね。その姿」
頬杖ついているウィンディが、手を広げて身動きできなくなっているサラに皮肉を言った。アクアは、貴賓室の中。水龍王に謁見するときは、反対にサラが貴賓室を使う。
「これ苦しい。なんで、コルセットがいるの?どうせ、おじさまには、分からないよ」
「何をおっ謝います。ここには、駐留している列国の大使が大勢いるのですよ。龍王様だけがいるのではありません」
メイド長に睨まれ、サラは、余計金縛りにあったように背筋を伸ばした。
「やっぱりこれ、十二一重だよ。着ぶくれしないためのコルセットじゃないかな。妖精用の薄い生地でドレスに見えるけど。物凄い量着るのね」
千里は、感心して、サラを眺めている。
「正解です。いまはありませんが、千里様がサラ様達と作ったガラスの生地を使いますと、もっとシンプルに見えますよ。もしかしたら、コルセットが不要になるかもしれません」
「千里、頑張って作ろ。これ、着苦しいよ」
「サラは体育会系だもんね。やっぱり軽装がいいんだ」
「あたりまえだよ」
「その言葉遣いは、火龍王様の龍王城だけですよ。竜宮城ではダメです」
「はーい」
「サラは、火龍王様を知ってるの?」
「小さいころから良く遊びに行っているんだー。いつもは、しのと二人だけだけど、今日は友達いっぱいで楽しいね」
「そうですね。リクシャン様に自慢できます」
「リクシャン様って?」
「おじさまの奥さん」
「王妃様です」
「姉さんみたいで、優しいんだー」
「へー、会いたい」
「リクシャン様って、真っ白だから、謁見室に入ったらすぐわかるわよ。竜族の中でも、一番美しいんじゃない」
「ウィンディは、会ったことあるの?」
「実は、初めて。ちょっと楽しみね。謁見室の映像をピンナップにしたら儲かるかも」
「やあねえ」
「多分、誰も怒らないと思うけど、今回はやめよ」
「そうです、正式な謁見ではないのですよ」
「そうね、自粛する」
ウィンディって結構、怖いものなしなんだ。生写真って、私たちの世界だと、訴えられたら、おとがめ有りなのに。
「皆さん、御着替えは、お済になりました?」
アクアの方は、ネル素材をふんだんにつかったフワフワした感じのドレスを着ている。これは陸上用で、水中用は、また別にあるそうだ。それは、サラも一緒。
「やっぱり、扇子は、アクアのトレードマークなんだね」
「当り前じゃぁありませんこと」
そう言って、扇子を広げて、ちょっと高笑い。
「アクア様、謁見の間では、扇子を広げないでください」
「わかっています」
こっちも、メイド長がしっかりしている。
「ごめん、もうちょっと待って」
「サラさん可愛いわ。わたくしも、これにしましょうか」
「無理です。そうですね。妖精のガラス糸をベースにした服でしたら、水陸両用となります。サラ様に近い服も作れるでしょう」
「マーナ本当!千里、絶対作りますわよ」
「あれ?マーナさんって、首の回りに水流が回っていませんか」
「よくお分かりになりましたね。この方が落ち着くのです」
「わたくしは、陸でも淡水でも海水でも、環境に適応できますけど、普通は、エラなどの呼吸器官の周りは、少し湿っていた方が落ち着きますのよ」
「そっか、鼻の中が湿っているのと同じね」
ウィンディが鼻の頭をこすりながら感心する。
「ウィンディ様は、水中の空気を取り込める力をお持ちだと思いますよ。そうすれば、空気シェルで、体を覆わなくても普段通り活動できると思います」
「本当!今度マスターに教えてもらう」
「そうですわね。その方が自然ですわ」
サラが、しのにパンパンとスカートの上あたりをはたかれている。
「はい、完成です」
「みんな、お待たせ」
みんなで、シップウの客室を出ると、「おおーい」と、京爺が手を振りながら大声を出して、山から下りてきた。
「みんな行ってきな。次は長いフライトだぜ。ここで、よく休んでいきなよ」
シップウの見送りで、私たちは、エリシウム山から流れ込んでいるスミネ川の巨大な滝の傍にある龍王城に、てくてく向かうことになった。途中から火竜飛翔隊の護衛が加わり、ちょっと怖いんですけどと思いながらも、荘厳な感じの中で、見上げるような門から入城した。




