開いてしまっていた門
「京爺、わしは、火竜たちの相手をするよ。なんか王宮、盛り上がってないか」
「すまんな。それにしても、あんまり千里を出汁に使ったら、わし、弟子のカフェを出入り禁止にされるんじゃないか?」
「アンナが怒ると怖いからな。でも、元凶が分かったんだ。納得してくれるよ」
「よう分からんが、門が開きやすくなっとる。自分では、こっちに来れん者が、出入りしていたんじゃろうな。わしゃあ、門の中に、別次元の膜を設けて、迷路にしてから、閉じる。こっちに来た魔術師は、もう帰れんし、出入りもできん。なーにを考えとったか知らんが、考えを改めるじゃろ」
「そうだといいがな」
京爺とサイモンは、龍王城のがあるエリシウム山の頂上に登り、火口付近にある大昔に開かれたゲート跡にいた。ゲートは、術者が死んでも無くなることなく閉じた状態で存在していた。それが、いつの間にか、開きっぱなしになっていた。これは、黒鉛の門と呼ばれる闇の門で、精霊界の魔法が通じないので、遺棄されていた門だ。
サイモンは、竜人族の長だが、まだ若い。それで、どの種族の竜族にも可愛がられている。竜たちは、サイモンにいろいろ教えたり、自分の仕事を手伝わせたり、知識を与えたりしている。周りから見ると、言い様にこき使われているわけだ。みんなが、サイモンを可愛がっているのは、竜人の族長だからではない。サイモンは、魔法が使える。それも、京爺のようにはいかないが、4大魔法全般を使えるのだから、みんな面白がって、教えているという感じだ。
それに最近、京爺に教わった浮遊魔法で、空中に、ぷかぷか浮かぶようになったものだから、自分の背中に乗せて、ついうっかり落としても死ぬことがない。よけい、いろんな竜に連れまわされている。
京爺は、片手をあげて去っていく若者を見ながら、作業に取り掛かった。もし、京爺のオーラを見ることができるのなら、京爺のオーラが、一度大きく膨らみ、手のひらに凝縮されていくのが見えただろう。その手のひらにできた光の塊は、中にソラリゼーションのような反転した光を宿していた。臨界点突破した光は、波長をあげることなく次元の壁を形成し、そこに重力波が流れ込んでいく。
「常夜ルーバ波」
エリシウム山のゲートに、ぽっかり空いた時空間が、波打つように歪んだ。
「はーーー。パォ」
そして、扉の空間全体にその波紋が広がる。
「ふー、ちょっと硬くしすぎたかのう。まあ、ええか」
そうつぶやいて、扉を閉めようとしたとき、後ろから、すごい殺気を感じた。
「貴様、止めろー」
それは、赤茶けた、魔術師のローブを来た人間で、そのマントに火トカゲが見えたから、火の魔術に特化した術者だとわかる。
「その扉を閉めるな。さもないと焼け死ぬぞ」
「ほほっ!やっと姿を現したか。どうせ、さっきまでは、わしが何しとったかわからんかったんじゃろ。悪いが、もう、人間界には帰れんぞ」
「何をばかなことを あの方が開けてくださったのだ。我々でも、そのうち扉を開くことができると約束してくれた」
「あの方とは、誰じゃ」
「貴様に、あの方の名前を口に出させるのもおこがましい。とにかくそこをどけ」
「そうはいかん。扉は閉めさせてもらう」
「貴様貴様ー」
魔術師はトカゲのエレメンタルを赤茶けた魔術師のマントに這わせた。
「火のエレメンタルよ、我に従え。火の業火を持って、彼ものを焼き尽くさん。『ファイア』」
魔術師のマントのトカゲから、火の舌が伸びる。魔術師は、自分が火を起こして、火の玉を京爺に飛ばしたように手のひらを広げて突き出した。
京爺は、そのトカゲの火の舌をサクッとつまんで引っ張った。トカゲは驚いて、引っ張られまいとマントを握りしめ、それを焼いてしまう。
「うぎゃー」
「こりゃ、マントを脱げ。それだけじゃろ。早よせんと、髪に燃え移るぞ。それにしても、このいたずら者」
京爺は、舌を握って、ぶらぶらさせているトカゲをにらんだ。
ピキッ ぴぴー
「お前らの言葉は、分かりにくいのう。どうせ、彼奴の血だか、オーラだかを食らわせてもらっておったんじゃろ。その代償がこれかい。舌を引き抜くぞ」
ぴぴー、ぴぴー
「しょうがない、半分じゃ」
そう言って、舌を半分切り落とした。火のエレメンタルのトカゲは、それでも、律義に主人の魔術師の元に戻った。
「お前は、もう、ここで生きていくしかないじゃろ。火のリザードマンの所に行け。何とかそこで生活するんじゃな」
火蜥蜴が頭を下げている。
「使い魔に礼を言わんか馬鹿もん」
実際は、使い魔の訴えによって命拾いした魔術師。
「くそ、くそ、覚えていろ」
魔術師は、少し焼けた頭を押さえながら、転げるようにエリシウム山を駆け下りた。
「あの人か・・黒幕は、魔法使いじゃな。こりゃまだまだ、終わらんぞ。さて、閉じるかの・・・・、・・・・しもうた。あっちの門を閉めるの忘れた。まあええか、時間事故に遭うのも嫌じゃしのう。そのうち向こうの魔法界で、地獄の門のうわさが飛んだら、これじゃろ。そん時、博史に頼も」
京爺は、頭をかきながら、門を閉じて封印した。空には、風竜の姿が見える。妖精カフェから、エリシウム山は近い。もう、シップウが千里たちを乗せて、火龍城にやって来た。
「飛行機雲を作る風竜か、ありゃ、シップウじゃな」
京爺は手をかざして、それを見上げて、ニコッと優しい顔になった。
シップウは、検問があるのに気づかないふりして、さっそうと地上に降り立った。
京爺は、さっきの魔術師が、欧州人だろうと思ったのだが、なぜか違和感が残る。英語をしゃべっていたようだが、訛っていたし、民族性にも疑問が残った。
あの赤茶けたマントは、なんじゃ?
一応燃えカスを拾って博史に見せることにした。博史は、こういうアイテムに詳しい。
「どれ、千里に、少しついてやったほうがいいじゃろう。ついでに、魔力の痕跡も、もう少し追ってみるか」
そう言って、跳ねるように、山を下って、千里がいる龍王城に向かった。




