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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
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宝石貨

 日没とともに精霊界側のカフェは閉店だ。いつもだと、朝が忙しくて、お昼から、暇なのだそうだ。朝はともかく、お昼からの時間、アンナは、東京側にずっといるのだが、今日は、ちょくちょく精霊界側に手伝いに来てくれた。


「千里、疲れたでしょう。今日は、上がっていいわよ」


「こんなに忙しいのを いつも、3人でこなしていたんですか」


 ウィンディは、へばっていたが、それでも、口は元気。

「今日は特別よ。京爺の魔法を見に来たお客さんの数を見たでしょう。普通あり得ないわ」


「千里君は、実施訓練だったね。まあ、習うより慣れだよ」

 マスターは、魔法雑貨が、大いに売れて、高笑い中。


 私の場合は、お茶、コーヒー、紅茶を淹れたり、その後の皿洗いをするばかりで、びっくりするほど忙しくなかったが、ウィンディは、飛ぶようにというか、本当に店内を飛びまくっていたという感じだった。大きくて重い物でも、風の魔法で軽々という感じだったが、さすがにがっくりしている。


「サラや、アクアや、ヒイラギは、来ないのかな」


「みんな、親に絞られているところじゃない。さすがに、ここには来れないわよ」


「東京側の閉店は、20時なのね。だから、自分の部屋に、荷物を置きに来てもいいわよ」


「私、そんなに荷物を持ってません。でも、寝袋いるかなって思ってます。妖精のハンカチって、作るの大変なんでしょう」


「それじゃあ、うちの布団をあげるわ。和布団だけど、それでいい?私は、ベットじゃないと寝れないから余っているのよ。良かったらずっと使って」


「マスター私たちも」

「そうだね。妖精用のも貸し出すか」


 やっぱりハンカチ作りは、大変なんだ

「ありがとうございます」


「それじゃあ、夜の仕事は、当分、無しでいいわ。その代わり、頑張るのよ。また、朝の10時に来てね」


 バイト2日目終了 いつもじゃないと思うけど、今日は、東京側のリビングで、夕飯をご馳走になった。最初は、アンナがいてくれたが、お客さんが来たので、そそくさと夕食を済ませて、食器を流し台の上に置いて帰宅した。

 本当は、涼夏堂のあゆに頼んで、ご主人から、妖精のハンカチの作り方を聞く予定だったが、銭湯で、ゆっくりお風呂に浸かって、帰るころには、また、眠くなって寝てしまった。銭湯代って、バカにならんと、思いながら、寝たと思う




 う~ん、今日も天気だ。いつもの時間に出勤するとマスターが東京側にいたので驚いた。なんでも、昨日、マスターお手製のケーキが飛ぶように売れて、調子に乗ったマスターがいつもより余分にケーキを焼いてしまっているそうだ。「多分売れ残るわ」「マスターは商売向きじゃあないのよ」と、女二人にののしられているのに、ニコニコだ。「焼かない焼かない。ぼくはケーキを焼いているけどね」と、年相応のダジャレまで出てくる始末。おいしいと言えば美味しいのだけれど、どうするんだろ。この量。結局、私が、夕方から東京側で、ケーキのバーゲン売り子をすることになる。3時ぐらいから、みんなとハンカチ制作の打ち合わせをしていたから、仕方ないか。



「今日は、しっかり研修しましょうね」


 マスターを東京に残して、妖精界側で研修が始まった。掃除を済ませた後、接客対応やあいさつ、掛け声をひと通りやって、レジになった。


「まずはお金ね。妖精界は、宝石貨幣になるのよ。でも、水妖精は、クリスタル。火妖精は、ルビー。土妖精は、プラントオパール。風妖精は、風硝石とみんな通貨が違うのね。一見さんは、仕方ないけど、常連さんには、月末払いにしてもらっているわ。そうすると、宝石の大きさが違うのよ。人間界だと全く価値が変わってくるのよ」


 そう言って、クリスタルやルビーを並べて見せてくれた。


「これが、1ルピーで、価値は一緒。なんだか、大きさがバラバラでしょう。でも、10万ルピーになると金貨になるのよ。これが、1ゴールド」


「ちゃんと並べるね」

 ウィンディが、宝石貨を並べてくれた。


 単位は、どれも同じ単位だ。通貨が違うだけだから、これって、国が違うってことなんだろうなと思った。人間界のように為替の変動がないそうなので、実際は、とても使い勝手がいいのかもしれない。


「100ガゼルは、1ルピー。100ルピーは、1マルス。10万ルピーが、1ゴールドよ。海の中だけだけど、エルス単位って言うのがあるわ。これは巨大生物用ね。じゃあ、詳しく行くわよ」


 ガゼルは、妖精より小さな生き物が使用している単位。100ガゼルが、1ルピー。

 ルピーは、妖精と擬人化人が使っている単位。1ルピーが日本円と同じ単位になる。

 エルスは、巨大竜族以上の生物が使っている単位。100ルピーが、1エルス。


 惑星パグーで、ルピーは、殆どの生物が使える単位。


 1ルピーが日本円の1円。10万ルピーが、1ゴールドなので、1ゴールドが10万円になる。


 やっぱりわかりやすい。どの1マルスにも、宝石貨に穴が開いている。一番持って歩く宝石貨だし、なくすと困る単位なのだろう。逆に、ルピー通貨は、とても小さい。喫茶店の商品は、擬人化人だと、1マルスからだから、取引した気になるが、妖精用だと10ルピーからで、出来れば、いちいち取引したくない大きさだ。いずれにしても、金貨以外は、妖精でも持ち歩ける大きさ。


「じゃあ次ね。この光玉豆は、その人の魔力を記憶する媒体よ。常連さんは、ここに喫茶した品物を記憶するのよ。それで、月末に、この光玉豆を持って行くと、まとめて支払ってくれるのよ。千里だと、クレジットカードみたいなものね」


「私は、銀行のですけど、プリペードカードぐらいしか持ってません。ここは、銀行、あるんですか」


「あるわよー。ゴッズ銀行。パグーで一番安全な場所じゃあないかしら。一応、うちも、そこに金庫を持っているわ。光豆も、ここに持って行って清算するのよ」


「私の家もここよ。金貨1枚から、金庫を持たせてくれるから、1ゴールド溜まったら、行ってみる?」


「いつのことかなー」


「常連さんは、20人いないから覚えてね。ここは、文化じゃなく映像文化って言えばいいのかしら、文字より、ビジョン継承が先に進んだところだから、数字は使っているけど、ほとんど、文字を使っていないのよ。だから、光玉豆に触ると、お客さんの顔が浮かぶようになっているの。昨日、千里が、オーダーから、商品出しまで全部やったのは、ムシキングさんと龍王さんよね」


「ひゃー、デビットさんと、サイモンさって、そんなに偉い人だったんですか」


「そうねえ、世界樹は、ここにしかないし、サイモンは、森の大樹の龍王だから、二人とも、村長みたいなものよ」

「でも、二人とも、偉そうに見えないんですけど」

「二人とも、若いから、他種族の族長に呼ばれまくっているわ。だからじゃない。じゃあ、はい、二人の光玉豆よ。触ってみて」


 光玉豆に触ると映像が鮮明に浮かぶ。

「本当、デビットさんの顔が浮かびました。すごい、32マルス20ルピー。数字も浮かぶんですね」


「奥さんとよく来るのよ。東京との通貨価値は、掛ける10よ。だから3万2千2円ってことね。1ヶ月は、28日。まだ、20日なのに喫茶店で、3万使うなんて、普通は、ないでしょう、これは、雑貨も買ってくれているからよ」


「風水晶のミニチュア買ったんだ」


「正解。詳細は、念じないと出てこないけど、ちゃんと記憶されているのよ。数字部分をさらに凝視すると出てくるわ」


 デビットは、12マルスで、風硝石のミニチュアを買っていた。


「こんな小さな光玉豆に、映像がいっぱい。すごいです」


「私たちの文化もすごいけど、妖精の文化もすごいでしょ。逆にこんなことまでできてしまうからここは、人の世界のテレビみたいな文化は、進んでいないわ。いろいろな映像がダイレクトに来るのよ。人の死なんかダイレクトに感じたくないでしょ」


「それは、いやです」


「種族内だと広域映像って流すのね。でも、あんまり見たくないかな。政治的な物ばかりなのよ。私たちにだってギャグとか、芸能とかがないわけじゃない。特に音楽は、すごいのよ。本当は、みんなと、そう言う文化を共有したいけど、悪い映像の規制が難しいのよ。だから、人で言うと、まるで、中世みたいな時代の状態なのよ」

 ウィンディが暗い顔をする。


 そんなの私たちの文化を導入すればいいのにと思う。でも、理が違う世界だから、難しいことがあるんだろうなと思い至る。そう言えば、電気の妖精の話を聞かないなと思った。4大精霊に電気ってないから当たり前か。じゃあ余計、人間文化を導入すればいいのにと思った。


「今日の研修は、ここまで。接客は、明日にしましょう。3時ぐらいに、サラたちが来るから、打ち合わせしていいわよ。博史さんに言っとくね。雑貨は、喫茶に慣れてからでいいわ。もうすぐ11時。開店よ。後は、やりながらね。ウィンディお願い」



 こうしてバイトの3日目が始まった。

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