第九話 前編 追憶令嬢7歳
ごきげんよう。
座右の銘は目指せ!!平穏、穏やか、気楽な生活を!!を掲げるレティシア・ルーン7歳です。
久しぶりに日記を開きます。
目標
第一は監禁回避!!
第二は王家に関わらない!!
第三脱貴族!!
婚約者候補を思い出す。
正妃様に近づかない。
殿下の恋。
成績・評判ほどほどに。
自衛能力。
生活能力。
お金を稼ぐ。
刺繍を磨く。
伯母様と仲良くする
料理、洗濯、掃除、整理整頓、裁縫、園芸。
孤児院のお手伝いか行儀見習い。
大道芸、バイオリン、フルート。
よくよく見るとこれは日記ではありませんわ。
メモ書きですわ。まぁいいでしょう。
日記を始めて、2年経ちますが、中々実行できていませんわ。
でも前世の自分と比べれば、できることは増えてますわ。
ちゃんと前進してますわ。日記は片付けましょう。
7歳になった私は困ったことが起きてますの。
去年のアリア様主催のガーデンパーティで第一王子殿下に会いました。
それから不幸の手紙が止まりません。
令嬢達からの嫌がらせの手紙は燃やせばいいのですが、クロード殿下からの手紙は返事をしないと不敬にあたります。
まだ社交デビュー前ですのにどうして王家に振り回されるのでしょうか。殿下が私を見初めたという噂も消えません。
不幸の手紙の所為ですわ。
生前は殿下のことをなんとも思っていませんでしたが、今は嫌いですわ。
陛下はわかりませんが、王子は腹黒と変態ですよ。フラン王家って……。うちの王国は将来大丈夫なんでしょうか?
亡命も視野に入れたほうがいいでしょうか?
「シア!!シア!!大丈夫か?」
肩を叩かれて思い出しました。
ここはリオの部屋でしたわ。
「リオ、お疲れ様。大丈夫ですわ」
「どうした?」
「うちに殿下から不幸の手紙が届きますの。私が嫌がるのを楽しんでるんですわ」
書き物が終わったリオが横に座り呆れた顔をしました。
「間違っても外で言うなよ。不敬罪になる。殿下も粘るよな。パーティ以来一切会ってないんだろう」
「勿論。全部お断りしてます。贈り物も開けずにお父様経由でお返ししていただいておりますわ。社交デビューまでは、行事関係はお母様が許せば不参加でいきますわ」
「社交デビューは大体8歳から10歳だよな。いつ?」
「伯母様と伯父様に泣きついて10歳まで待っていただけるようにお母様達を説得していただきました!!社交デビューをしても良いことなんてありませんもの」
「令嬢の憧れの社交会をそこまで嫌がるなんてな。令嬢は婚約者を見つけるために早めに社交会デビューを飾ることが多いのに令嬢方と正反対だな、相変わらず」
苦笑しているリオの腰にギュッと抱きつきます。
「社交デビューをしたら、淑女の一員ですもの。こんな風にリオ兄様と過ごせなくなりますわ。まだまだリオ兄様なしでは生きていけません。従兄離れできないシアをお許しください。リオ兄様」
「仕方ないなぁ。うちの小さいお姫様は」
優しく頭を撫でる手がある生活はずっとは続きません。男女の友情を認めない頭の固い貴族社会は切なくなりますわ。
「少しずつ自立を目指しますわ。従兄妹じゃなくて、兄妹に生まれたかったですわ」
「俺は兄妹じゃなくて良かったと思うけどな。自立・・しなくていいよ。シア、一人だと暴走するから。会う場所を選べばいいだけだ。これからもちゃんと相談して。頼むから」
「失礼ですわね。わかりましたわ。もう山籠もりでもするしかないのかなぁ」
「山に籠っても手紙は届く。やるなよ」
頭を撫でる手が止まりました。
「冗談ですわ」
「冗談に聞こえないよ。最近のお前の愛読書、植物図鑑だろう?どこに逃げようと手紙は届くよ。殿下の命だからな。お前が受け入れるか、殿下の興味が他に移るのを待つか」
「今は、これであなたも毒博士!!ですわ。断ってばかりいるのが興味をひいているとわかっていても、殿下に会いたくないんです。もし応じて殿下に会ったら屈服した私を見て優越感に浸って笑ってるお顔が目に浮かびますわ」
「愛読書に二重のカバーを忘れるなよ。読んでる本の内容ばれたら、ルーン公爵夫人激怒ものだ。お前の殿下のイメージ酷いよな。それも外で絶対に言うなよ」
たしなめられなくてもわかってますよ。
「お母様の読めない異国語ですから大丈夫ですわ。もちろんリオとセリアにしか話せませんわ」
「いつも本をどうやって手に入れてる?」
「リオと行く市場か伯父様におねだりですわ。あとはダンやケイトが遠方に仕入れに行くときに、字がたくさん書いてある読めない本を買ってきてって頼んでますわ」
「すごい博打だな」
「私用の予算余ってるから問題ありません。時々はずれもありますが、勝率4割で当たりですわ」
「はずれってどんなの?」
「ちょっとリオにはまだ早いですわ。刺激が強すぎますわ」
「ケイトとダンに頼むのをやめろ。もしくはきちんと欲しい分野を伝えろ」
「分野って国によってとらえ方が違うから難しいですわ」
「あとで手紙を書くから、ケイトとダンに渡せ」
「ルーンの使用人はリオの命令は聞きませんよ。私が優先です」
「アドバイスするだけだよ。この事実を知ったらあいつらは、もう買ってこないと思うけどな」
「私達の友情は不滅ですわ」
「そう思ってんのお前だけだから」
「友情は当事者にしかわかりませんわ。リオに伝わらなくても仕方ありませんわ。話が逸れましたわ。殿下の興味を他に移したいんだけど、恋のお手伝い作戦が難しくて・・・。」
「・・・・。は?なにするの?」
「殿下の好みの女性と殿下がうまくいくようにお手伝いしたいんだけど。王家の使用人を買収するしかないかな」
「却下。殿下の好み?」
「可愛くて、素直で、純粋で、優しくて、誰とでも仲良くなれる子ですわ」
「心当たりは?」
「未来で出会う予定ですわ」
「無理だ。実際そんな人間いないだろう。もしいたとしても、役者かただの馬鹿だよ。貴族社会じゃ生き残れない。そんな信用できない人間が王妃になったら国がやばいだろ」
「王子殿下もなかなかやばいから、王妃様がやばくても問題ありません。滅びるときは滅びますわ。殿下好みの女性を育てることも考えましたが、どうやって育てたらいいかわからなくて」
「無謀だ。あきらめろ」
「セリアにも言われましたわ。セリアの情報だとまだ殿下と親しい令嬢もいないそうですわ。私に嫌がらせをする時間を殿下の誘惑に回していただきたいですわ」
「嫌がらせ?」
「不幸の手紙ですわ。こないだは焼き芋の役にたちましたわ」
抱きつく私を放置してクッキーを食べていたリオの手が肩に置かれて引き剥がされました。じっと顔を見られてますわ。
「は?シア、それは証拠だからちゃんと保管しないと。きちんと令嬢ごとに並べて」
「面倒ですわ」
「俺が見て問題ないなら、俺が管理するから持ってこいよ」
「結構読むに堪えないものが多いですわよ。リオの教育によくありませんわ」
「それなら俺より年下のシアが読む方が尚更問題だ。大丈夫だから、任せろよ。面倒なんだろ?リオ兄様が管理してやるよ」
ニヤリと笑ったリオが企んだ顔をしてますわ。
正直面倒ですしリオが望むなら任せましょうか。
私は令嬢ごとに並べて管理なんてできませんもの。
シエルに任せるわけにもいきませんしね。
「わかりましたわ。お願いしますわ」
「素直なシアに免じて遠乗りでも連れて行こうか?天気もいいし、母上もいない」
「名案ですわ!!リオ兄様大好きですわ」
遠乗りの準備をしましょう。
一気に落ち込んだ気分があがりましたわ。
久しぶりの遠乗り楽しみですわ。




