第八話 追憶令嬢6歳
ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。
王家主催のガーデンパーティも無事?に終わり、マール公爵家にお泊りしています。
パーティのお話をしたら、伯母様が固まっています。
やはりパドマ令嬢の件ですかね。放置はいけませんでしたか?
「伯母様?」
「レティ、確認だけど、王太子殿下の婚約者にはなりたくないのよね?」
「もちろんですわ。殿下と辺境伯なら辺境伯に嫁ぎます」
伯母様が手を額に当てて下を向いています。
「伯母様?」
「殿下はレティのことを気に入っていると思うわ。殿下からお手紙がくるかもしれないわね」
「ありえませんわ。伯母様」
「信じたくない気持ちはわかるけど、いつか後悔するから自覚なさい。自覚できなくても頭の片隅には入れておきなさい」
殿下に気に入られた可能性?
興味深いと言われましたけど、私は殿下の好みではありません。
ルメラ様とは正反対ですし、伯母様は知らないから仕方ありませんね。
「パドマ令嬢の件はお母様にお話したほうがいいですか?」
「私が伝えるわ。パドマ嬢も困ったわね。シオン伯爵令嬢を侮辱した者達も。王宮のパーティで側妃の姪を貶めるなんて。しかもシオン一族のご令嬢なんて・・。アリア様の思惑通り。
彼女達は殿下の婚約者候補から外れたわ。自分達より、明らかに幼い娘を攻撃対象にするとは許されないわ。教養以前の問題です。無礼講とはいえ社交に出たら、貴族令嬢として相応しくあるべきです」
正論ですがそうすると私もまずいですわ。婚約者候補から外れるなら大歓迎ですが、ルーン公爵令嬢として醜態は避けなければいけません。
「伯母様、私は正妃様にご挨拶していませんが」
「大丈夫よ。もしかしたら謝罪の手紙がくるかもしれないけど」
「勘弁してほしいですわ」
「手紙が来たら相談にのってあげるわ」
「お願いします。伯母様、今度セリアの家に遊びにいきたいんですが、どうすればいいですか?」
「最近、お願いが上手になったわね。伯母様がお母様を説得してあげるわ」
「ありがとう。伯母様、大好きですわ」
「私もよ。明日は家まで私が送ってあげるわ」
「ありがとうございます。お願いします。伯母様、リオ兄様はお忙しいですか?」
「もうお稽古が終わってるはずよ。部屋か書庫にいると思うわ」
「ありがとうございます、失礼します」
一度部屋に戻り荷物の中からとっておきを持ち出します。
書庫に入るとリオはいません。自室でしょうか?リオの部屋に行きノックします。
「どうぞ」
「失礼します。リオあげる」
椅子に座っているリオの前にとっておきを差し出すと無言でじーっと顔を見てきますわ。まだ怒っていますのね。書類を駄目にして仕事を増やしたことは反省しているので頭を下げましょう。
「こないだは書類を駄目にしてごめんなさい」
無言に耐えきれず、顔を上げるとリオが頭を抱えて机に突っ伏してます。
様子がおかしくありませんか?
声をかけますか?
出直しますか?
伯母様を呼びますか?
意識はありそうなので、国内一の治癒魔導士のお父様は呼ばなくて平気そうですね。
出直しましょう。しばらくして様子がおかしいなら伯母様を呼びましょう。
「失礼します」
「いや、大丈夫。落ち着いた。ここにいて」
リオがゆっくりと顔をあげました。
顔が赤いリオの額に手をあてると熱はありませんね。
「体調悪いんですか?」
「色々事情があるんだよ。こないだの本当に冗談?」
「こないだの?」
「いや、気にしてないならいい。これは?」
「昨日作りました」
「シアが?」
「はい」
「どこで?」
「厨房です。マドレーヌなら危なくないからって。焼くのだけは、ケイトがしました。でもあとは全部、自分でやりましたわ。シエルも見てましたよ。お料理を教わってるのお母様達には内緒。でも初めて作ったものはリオにもあげたくて、こっそり荷物に入れてきました。驚きました?」
リオが口元に手をあてて、ブツブツ言ってますが・・。
「リオ、聞こえません。何ですか?ちゃんと食べれますよ」
「いや、ありがとう。シアが作ったなら、なんでも食べるよ。すごいよ。ちゃんと美味しい」
顔は赤いですがマドレーヌを二口で食べました。食欲はあるんですね。
「よかったです。内緒にしてください」
「わかったよ。ちゃんとシエルと一緒にやるんだよ。一人でしたら駄目だからな」
「シエルとも約束しました」
「秘密を守るかわりに俺とも約束な」
リオの機嫌が直りましたわ。もう怒ってませんね。これならお願いできますわ。
「わかりました。ね!!リオ兄様、王都に大道芸が来てるんですよ」
「最近好きだなぁ。明日は母上が家にいるから、駄目だな。またそのうちな。そういえば、パーティどうだった?」
パーティの話をすると、リオが驚いたりプルプル震えたり、ため息をついたり百面相がおもしろかったですわ。
一度、セリアに会いたいって言ってましたが、リオに春到来ですかね。
「俺はロリコンじゃない」って叫んで固まってましたわ。今日のリオはおかしいですわね。
やっぱり体調が悪いんでしょうか・・。
ガーデンパーティが終わってからは穏やかな日が続いています。先週の憂鬱だった日々が嘘のようですわ。
私はルーン公爵家使用人宿舎の庭にいます。
この庭には野菜畑があります。
お野菜を育ててみたいと呟いたら、ダンがここを教えてくれました。
この庭は誰も管理していないので自由に使っていいそうです。
ダンがくれた割烹着と帽子を被り、草むしりをしています。
割烹着と帽子はダン達の荷物置き場に置かせていただいてます。
シエルに初めてこの姿を披露したときは泣かれました。シエルが泣いたのを初めて見たので驚きましたわ。そしてダンを暗殺にいこうとしたので必死に止めました。
この割烹着は洋服を汚さないために大事です。
お気に入りですわ。洋服に愛着を持ったのは人生で初めてですわ。
「お嬢様、来てたんですね」
「ねぇ、ダン、この抜いてる草は食べられますか?」
「あんまり美味しくないですが、これは食べれますよ。これは駄目。お嬢様、食べちゃダメですよ」
「わかりましたわ。どうしたら、わかりますの。」
「必死に覚えるしかないですね」
「ダンは山に捨てられても、生活できそうね」
「勘弁してくださいよ」
「捨てないですよ。私も山で生活できるようになりたい」
「お嬢様、たくましいですね」
「もし、山で生活する時は誘ってくださいね」
「生活しませんよ。お嬢様をお連れしたらシエルと師匠に殺されます。先ほど奥様が帰られましたがここにいて平気ですか?」
「まずいですわ!!」
「お嬢様、先に手を洗って。脱がすの手伝うから」
「何を脱がすんですか?」
「シエル、いつの間に!!」
「お嬢様をお迎えに。ダン、お嬢様に不埒な真似はゆるしませんわ」
「服が汚れないように割烹着を脱がせてやろうとしたんだよ。俺はロリコンじゃない!」
「シエル、手伝ってくれる?」
「かしこまりました。お嬢様」
「変わり身早すぎるだろ」
手を洗いシエルに身だしなみを整えてもらいました。本邸の庭園を目指しましょう。庭園で散歩をしているなら怪しまれませんわ。
「お嬢様、奥様がお呼びです」
庭園を散歩していると執事に声を掛けられ、案内されるままに足を進めます。
お説教の予定はありませんし、アリア様のお茶会で何があったんでしょう?
「失礼いたします。お母様。お帰りなさいませ」
「ええ、貴方に手紙を預かってます」
「手紙ですか?」
「殿下からですって」
「私以外にもお手紙を渡された方はいますか?」
「お茶会では貴方だけでした」
無表情のお母様から受け取った手紙を開封すると流暢な字で綴られてます。
親愛なるレティシア・ルーン公爵令嬢。
要約すると前回のパーティのお詫びに庭園を案内したい。お菓子を用意するのでお茶会の仕切り直しを?絶対に行きたくありませんわ。
「お母様どうぞ」
お母様が無表情で読まれています。
「レティシア、どうします?」
「もし許されるなら、ご遠慮させていただきたいです」
「わかりました。返事はどうしますか?」
「自分で書きます。お手紙はどうしますか?」
「旦那様に預けなさい。貴方が殿下に見初められたという噂が出回っています。身辺に気をつけなさい」
「わかりました。ありがとうございます。失礼しますね」
恐ろしい言葉に引きつりそうになる顔に無理矢理笑みを浮かべて退室しました。
自室に帰りベッドに飛び込みました。
ありえませんわ!!お母様に絶対に行きなさいと言われると思っていたので驚きました。
殿下からの嫌がらせですわ。しかもアリア様経由なんて・・・。
噂が出回ってるのも困りましたわ。
今は幸せなのに、全然平穏な生活を送れる気がしませんわ。
殿下へのお返事は心遣いありがとうございます。遠慮しますと丁寧な言葉で書きました。
追伸に遠回しに関わらないでくださいとも書きましたわ。きっと殿下には伝わると思います。
真面目に魔力を隠す方法を考えないといけませんわ。
お先真っ暗感がありますが、監禁を回避して平穏で気楽な生活を送るために頑張りますわ。




