1部 12芒星魔方陣 編 不採用文章「相生港の攻防」
当初、朝倉裕貴編で14章「伏犠の狙い」の次話がこの「相生港の攻防」でした。
岡本浩子編の執筆した際、話のつじつまが合わなくなり
岡本浩子:「魔方陣の攻防」→「相生港の攻防」へ
朝倉裕貴:「相生港の攻防」→「魔方陣の攻防」
に話を変更しました。
朝倉裕貴編の「相生港の攻防」がまるまる没になった本章を公開します。
不採用文章「相生港の攻防」
崩壊した廃倉庫を出た俺とシルビアは、少し立ち止まり意識を集中した。
「ヤツは車で移動しているようね、この道ってこの先どうなってるの?」
「車ってあの両手両足が無い状態でどうやって車を運転するんだ?」
「そんなのどうでもいいわ、早く」
「あ、ああ、この先は学研都市の東の端を通り抜けている」
「この道は直接学研都市の中には入っていないって事?」
「そう、学研都市の周囲はバリケードが有って都市との入り口にはゲートが在る」
「じゃあこの道はそのゲートを通らないと学研都市の中に入れないって事」
「その筈だ、倉庫の裏だってバリケードが在るだろ」
シルビアは振り返り崩壊した倉庫の方を見た。後ろにコンクリート製の高さ4m程度の壁が在る。
「なるほどね、やられたわ」
「何が『やられた』なんだ」
「このバリケードはこの学研都市を一周全て繋がっているの?」
シルビアは俺の質問を無視して聞いた。
「その筈だけど」
「ちゃんと答えて!繋がってるの?」
シルビアは強い口調で訊く。
「ああ、一周繋がっている。だけど、南端の港が在ってそこで途切れていたかも知れない」
「港?」
「ああ、学研都市が出来る前から港が在って今はそこからも物資の搬送をやっているって聞いた事が有る」
聞き返したシルビアはまた俺の話を無視して目を閉じて、じっとしてる。
「相生港?」
「そう、相生港ってどうやって分かった?」
「確かにそこはバリケードが途切れているわ、後他に途切れている所は」
「俺も学研都市を全部知っている訳じゃないんだよ、だけど知ってるのはそこだけだよ。もしかしたら高速道路や新幹線で途切れているかも知れないけど」
「ちょっと見てみるわ」
シルビアはそう言うとまた目を閉じてじっとしていた。
「そんな事していて何が分かるんだよ」
「黙ってて、今監視衛星とリンクしているから」
「監視衛星って」
俺は思わず声が大きくなったが直ぐに口を閉じた。
「私には出来るのよ」
シルビアはそう言うだけだった。
衛星とリンク?アンテナや端末も持たずにどうやってそんな事が出来るのか、そこからして理解が出来なかった。
「途切れているのは港だけね」
「一体、それをどうやって調べたんだ。それに衛星とリンクって何だ」
俺は質問したが、シルビアは無視した。
「飛ぶわ、掴まって」
「お、おう」
俺はとりあえずシルビアにしがみついた。またシルビアの頭上と足元に魔法陣が現れる。
「さっきの説明はこの件が片付いたら説明するわ」
シルビアはそう言った。やがて上下2つの魔法陣が腰の辺りで1つに重なった所で場所が変わった。
目の前の景色はコンテナの並ぶ港に着ていた。少し宙に浮いていた足が地面に着くと直ぐにコンテナの影に隠れ周りの状況を把握しようとシルビアはしていた。
俺は何処かも分からないまま周りを見回した。腕時計を見ると午後4 時20分くらいになっていた。
「こっちよ」
シルビアは俺を手招きした。俺は直ぐにシルビアの後に続いた。
「裕貴、おかしいと思わない?」
「何がだ」
「伏羲の動きよ、派手すぎる思わない?」
「魔法陣の儀式の事か?」
「つまり伏羲は囮って事よ」
俺は気が付いた。
「バリケードを結界に使うって事か?」
「そういう事よ、そしてこの港は唯一そのバリケードが無い、つまり結界の線が切れている所」
「つまりここでその線を描いている者が居ると言う事だな」
「これからそいつを探すのよ」
「でもどうやって?」
「そいつは他の作業員とは明かに違う動きをしているものよ、それにここは研究開発が主体の街だから余りこの港も余り大きい方では無い、直ぐに見つかるわ」
「分かった、それであんたとの連絡手段はどうする?」
「あら、忘れていたわ」
シルビアはそう言って携帯電話を取りだした。俺もスマートフォンを取り出し電話番号とメールアドレスを交換した。
「電話はマナーモードにしておきなさい。追跡中に音が鳴ったら気づかれちゃうでしょ」
「分かった」
「見付けたらGPS情報を発信して頂戴、そしてもし相手に見つかっても慌てずにGPS情報を発信して直ぐに駆けつけるから」
「ああ、分かった」
俺はシルビアに不信感を抱いていた。おそらくシルビアが先にターゲットを見付けると一人で相手するだろう。それを承知の上で俺とシルビアは二手に分かれて不審な行動をする者を探し始めた。
学研都市の港は元々漁港だったが研究機材や実験サンプルの搬入など搬入を目的に大型の埠頭が整備された。しかし通常の貿易で使う港では無い為クレーン等の設備が少なく、税関が他の港よりも数段強化されている。それでも見渡す限り数千個のコンテナが有るように見える。
埠頭には今、大型のタンカーが接岸しているが何をしているのかはこの距離からは確認出来ない。
「怪しい行動をしているヤツなんて何処に居るんだ?」
むしろこんな所に俺の様に制服を着た学生が居ることの方がよっぽど怪しい。
そこに黒いパンツスーツ姿の女が居た。俺はすぐにコンテナの影に隠れた。
茶色く背中までの綺麗なロングヘアで比較的スタイルが良い方だ。だがこの場所に居るには違和感が有る。
「こんな所で何をやってるの?」
俺に気付いたか?と思った。俺は息を潜めた。
「お前か、デジタル魔法使いの小娘にやられてな」
「キングローズ社のエージェント」
「だろうな。かなりの使い手だ」
コンテナから出てきたのは伏羲だった。だが以前と姿が随分違う。体格がさらに一回り大きくなり両腕は機関銃の様な砲身が付いていて、足の形も犬の後ろ足の様な関節構造になっている。
「それで、そんな対戦車装備で戦うつもり?当初の目的を忘れたの?」
「それはお前がやれば良い、元々俺が引きつける役周りだったしな」
「お陰で随分楽に出来たわ、後はここだけよ、ここの監視体制も何年も立てばほころびが出るものね」
「まあ、未完成の都市だからな、だからこそ完成させる前に潰してしまうのだがな」
伏羲は高笑いをする。だが顔色を変え女に言った。
「俺をここまでした女を殺す」
「伏羲をここまでするのはどんなヤツよ」
「デジタル魔法使いの女だ。それもかなりの手練れだ」
「なるほどね、小さな武装でも十分戦えるってわけね!」
息を潜めてシルビアにGPS情報をメールした俺に気付いていたらしく女が俺に向かってUZIを構え撃ちだした。
「!!」
俺はとっさにコンテナから離れ奥へ逃げたが行き止まりだ。コンテナとコンテナの隙間は空いてはいるが人が通れる幅が空いていない。俺はコンテナの扉のレバーにしがみつきながら上に登っていった。他の場所はコンテナが5段位詰んで有る。
「逃がさないよドブネズミ!」
俺はやっと2 段詰んであったコンテナの上に手が掛かった所で女に追いつかれた。
女はロケット砲を撃ちだした。
ドーン!
「うわ!」
俺はロケット弾の爆風で辛うじてコンテナの屋根の上に登ると体を横向きに転がり距離を稼いだ。
目の前の空間がユラユラと歪んで見える。それに足の感覚が無くなっていることに気付き顔を起こした。
太ももからしたが血まみれになっている。ロケット弾の散弾が当たったのだろうか。
「M-72LAWは携帯に便利だけど単発なのが問題ね、それに手応えが無かったし」
女はロケット砲をその場に捨ててUZIを取り出した。
「任せろ」
伏羲はそう言い残すと一気にジャンプして2段に詰んであるコンテナに飛び乗った。コンテナの屋根に足形が付くほどの衝撃、俺は寝込んだままデリンジャーを構え伏羲の顔を狙い撃った。
ガキン!
目の前が歪んでいる中でも確かに手応えがあった。しかしヤツには効いていなかった。右目の丁度上辺りに命中した俺の撃った弾丸はそのまま跳ね返りそれていった。
「そんなおもちゃが俺に効くわけがねえだろ」
しかし声は狭い部屋で反響している様に聞こえ俺には何を言っていいるのか分からない。そして爆風の衝撃で体が思うように動かない上に足がもう動かない。
「全身サイボーグの俺の唯一生身の部分に見える顔を狙うという着眼点は褒めてやるよ、だが顔の下も強化外装の上に人工皮膚が覆っているんだよ」
耳の聞こえなく成った俺の事は関係の無い伏羲はそう吐き捨てながら右腕で俺の頭を掴み持ち上げた。
「ぐわー」
俺は痛さの余りうめき声を上げた。頭を掴み足が宙に浮いている分、首が引っ張られ息が苦しい。それより頭を捕まれていることの方が痛い。
頭から「グキ」とも「ミシ」とも聞こえる音が鳴る。
伏羲は俺の頭を掴みあげたままコンテナの端へ行き俺を地上へ放り投げた。
俺は既に痛さに声が出なかった。
『俺、死ぬのか?』
「ぐわー」
俺の頭を掴んでいる伏羲の腕を右腕で掴もうとした時、伏羲は腕を放した。首から「グチャ」とも「ボキッ」とも聞こえる音が同時に鳴り激痛が走った。
目の前で伏羲の腕はバラバラに砕けていた。砕けたと言うより何かに切断された様になっている。
「なっ、おま・・・、何を?」
俺はコンテナの上から墜落して行くその一瞬がスローモーションの様に映った。
伏羲の胴体も斜め真っ二つに切断され体がずれ始めた後、何かに吹き飛び爆発、炎上した。
俺は15m下の地面に墜落するかと思ったが風が舞い体は静かに地面に降りた。
コンテナの下に居た女はすぐに体勢を低くし辺りを警戒しながら走り去った。
「裕貴!大丈夫なの」
しばらくしてシルビアが駆けつけてきた。
「首の骨が折れた」
もう痛みの感覚すら無い。体は地面に付いているのかさえ分からない感じだ。
「また治癒魔法をかけるわ」
「伏羲はどうなったんだ?」
「破壊したわ」
シルビアは銃を顔の前に構えながら言った。俺の足元にまた魔法陣が現れた。そういえば耳が聞こえるようになっている。治癒能力だろうか?
「ナイチンゲール?」
「良く知ってるわね」
「そんな事より、もう一人仲間が居たんだ女の」
「見たのね、何処へ行った?」
「まだ近くに居るはずだ」
「分かったわ、でも、貴方の治療が先よ」
「言わなかったか?俺の能力は『治癒』だ。しばらくすれば治る」
「そんな事を言っても・・・」
「普通なら死んでる筈の重傷でもこうやって生きているんだ。大丈夫だよ、だから先に行ってくれ」
「分かったわ、後で追いついてきて」
「ああ」
シルビアは女を追いかけていった、一人になった俺はまだ明るい空を見て。
「幾ら『治癒能力』と言っても限界が有るだろう」
薄れ行く意識の中で声に出した。
俺が目を開けたその場所は硬いコンクリートから柔らかいベッドの上に変わっていた。




