表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/64

1部 12芒星魔方陣 編  4章 追跡の陰

 先週の偶然発見した成神高校の近くに在った廃墟ビルでの一斉検挙から1週間が過ぎた4月21日、金曜日の午後。

 俺の行動を不審視する綾香の詮索にそろそろ俺がブルーバンドに所属している事を隠し通す事が難しくなってきたと感じている。

 ブルーバンドの事務所へ向かう道一つにも細心の注意を払って進んでいる。

「お疲れ様ですー」

 俺は何とか事務所にたどり着いた。先週からずっとここまでの道中で綾香らしい視線を感じる。自意識過剰なだけなら良いんだが・・・。

「先輩遅刻ですー」

 浅野が訴える。

「わりー、先週から綾香を撒くのに時間が掛かって」

「もう、そんなんならバラしちゃえば良いじゃないですか」

「まあ、そう言うなよ、久田や藤井先輩は?」

「真沙子ちゃんは渡邊先輩とパトロール中です」

 俺は椅子に座った。返事が無かった藤井先輩が事務所の奥の給湯室からマグカップを持って出てきた。

「あ、朝倉君お疲れ様ー」

「先輩、お疲れ様です」

「今日も中野さんに後を付けられたの?」

「それが、よく分からないです。気配は感じるのですけど・・・どこに居るのかサッパリで」

「それが中野さんって確信は有る訳ね」

「ええ、俺が家に帰った後を見払ったように俺の家に押しかけて来るし、『今日、何処行ってたの?』ってここのところずっと訊いてきますし」

 俺は椅子座ったまま背伸びをして椅子をくるっと回転させた。

「え、綾香さんって朝倉先輩と一緒に住んでいるんですか?」

 浅野はパソコンから顔を上げてこっちを見ている。

「いや、隣に住んでる。幼馴染みだからな」

「じゃあ、つき合ってるんですか?」

 女ってのはこういう話には目が無い物だ。浅野も例外で無く目をきらきらさせながら訊いてくる。

「そんなんじゃ無いよ、ただの幼馴染み」

「そこから恋に発展するって話有るじゃないですかーぁ」

「そんな2次元な話有るか!」

「そんなにムキになってー怪しいぃ」

「お前がつまらない事訊いてくるからだろ」

「へえーぇ」

 浅野は一応引き下がったが面白そうな顔をしている。ほんとに女ってやつは・・・。どうにかしてくれ、と藤井先輩を見ると先輩も興味が有るような顔をしながらこっちを見ていた。

「先輩?」

「あっ、結花子ちゃん、朝倉君にも事情が有るのだから程々にしなさい」

「先輩、それ、余りに注意になっていないような気がするんですけど」

「あら?そうかしら」

 藤井先輩はわざと可愛らしく謝った。

「そういえば、先輩、先週からずっと聞いてるあの廃ビルに居た連中の事分かりましたか?」

「そっちはまだ学研警備隊から連絡は無いわ、銀行強盗事件の方は分かったわよ」

 銀行を襲ったのは『高倉大夢(ひろむ)』と『栗須煌(くおん)』の2人、20年前から今も続く振り込め詐欺の出し子で、当銀行員が2人を行動を不審に思い職質を掛けばれそうになった2人は苦し紛れに強盗事件を起こしたそうだ。

「煌?なんて読むんですか?」

「『おん』って読むそうよ、最もIMEでは『こう』って入力しないと出てこないみたいだけどね」

「随分変わった名前ですね」

「まあ名前って当時に流行(はやり)があるからそんなものじゃない?」

「その時の傾向だった訳ですよね、でも他のみんなはそんなの無いですよね?先輩も『麻未』だし『結花子』だし俺だって『裕貴』だし」

「まあ、多様化していった頃だって聞いてるし、ふりがなが無いと読めない程の難読漢字を当て字の様に使ってたそうよ」

「へえー、じゃぁ、私のは難しい方?」

「浅野のは簡単な方じゃ無い」

「もう、なんで先輩はそんな事言うんですか」

 俺が即答した事よりも「簡単な方」に非難してると思う。

「名前は親が色々考える所有って付けているのでしょうからからかうのはいけないわよ」

「ですね」

 窓の外に何気なく目が行った。

「!!」

 俺は咄嗟に机の下に隠れた。

「どうしたんです?先輩?」

 浅野が伺う。

「窓の外、誰か居る!」

「え?」

 浅野は窓に目を遣った。藤井先輩の席は窓を背にしているので椅子を回転させて窓の方を向き、立ち上がって窓の外を覗く。

「居る?」

 浅野は椅子から立ち上がって藤井先輩の所まで向かう。

「居ないわね」

「居ないですか?」

「居ないわよ」

 俺はようやく机の下から体を出しそっと立ち上がった。

「綾香がここを覗いたのかと思った」

「いくら何でもそこまでは出来ないでしょう」

「そうですよね」

 2人の言葉に安心した俺は窓を見る。

「!!」

 俺は窓の影に隠れた。

「何?何か居るの?」

「正面のビルの屋上に誰か居る」

「何処よ」

 浅野が窓の向こうをのぞき込む。

「ほら、あのビル」

 俺は窓の影から指を指した。俺の言っているビルは2キロ先の高層ビルの屋上、学研都市は高低差が大きくこの事務所は丘の上になるので窓からの景色は意外と見晴らしが良い。その屋上には確かに誰か居る。藤井先輩が双眼鏡を棚から持ってきて覗いた。

「確かに誰か居る。あっ」

 藤井先輩は窓から体を乗り出しそうな勢いで前のめりになってガラスに双眼鏡ぶつけた。

「どうしたんですか?」

「逃げられた」

「やっぱり居たんですね」

「すぐに居なくなったけどね、あの感じからするとこちらの様子を伺っていた可能性が有るわね」

「朝倉先輩はどうして分かったんですか?」

「俺、視力2.0なんだ」

「勉強してないからですか?」

「してるわ!それよりどうやってあの距離から俺達の行動を把握出来るたって事だろ」

「相手も望遠鏡か何かで覗いていたって事かしらね」

「とりあえずブラインド下ろしますよ」

 浅野は椅子から立ち上がりブラインドを下ろした。右側の窓のブラインドは藤井先輩が下ろした。

「今のも綾香だったのかも知れないな」

「そんな事は無いでしょう」

「でも、ここの所ずっと綾香が尾行しているみたいだし」

「でも朝倉君が15支部に居るなんて確証は無いのでしょ?」

「でも、渡邊が15支部に所属している事を知ってます。そして俺は今まで帰りが遅くなると渡邊に家に居た事にしていたからここに目を付けてもおかしくないです」

「何だかものすごい推理力」

 浅野は俺をからかっている。

「まあ、浅野はほっといて、もし、本当に綾香に尾行されているとしてそれから逃れる方法は無いですか」

「それは・・・」

 藤井先輩は声を詰まらせ考え込んだ。

「バラしちゃう?」

「それじゃ浅野と一緒じゃないですか」

「だって・・・ねえ?」

 藤井先輩は浅野に同意を求めていた。

「つまり諦めろって事ですか?」

「あらー」

 藤井先輩は笑って誤魔化していた。


 ブルーバンドの仕事が終わり、綾香への言い訳を考えながら家に帰った。

 渡邊も久田も中野へバラしてしまえって言っていた。レベル4のテレキネシスの綾香が本気になったら太刀打ち出来ないと言うところが俺にバラせって言っている理由だ。

 マンションの扉を開けると部屋は真っ暗だった。今日はまだ綾香は俺の部屋に来ていないみたいだ。

「うわっ」

 電気を点けると綾香が居た。ベッドの上に座りシーツを被ってまるでお化けの様だ。

 俺はそーとドアへ後ずさりして部屋を出ようとした。

「裕貴!」

 綾香のその言葉と同時に俺の体はふわりと浮き綾香の方へ引き寄せられた。綾香の居るベッドの前に引きずり出される。

「今まで何処行ってたの!」

「ちょっと買いたい物を探しに行ってたんだ」

 俺は何故か廊下に正座して答えた。

「へえー」

 綾香はベッドの上で立ち上がり俺を見下ろす。

「分かった」

 部屋を出ようとする綾香の手を掴もうとしたが届かなかった。

「綾香!」

 俺は咄嗟に綾香を止めた。

「じゃあ、明日どっか連れてって」

「何処に?」

「何処でも良いから連れてって!」

「分かった分かった」

 悪かった機嫌が少し直った感じがした。綾香はくるりと振り返り人差し指を俺へ向けた。

「明日だからね、絶対だからね」

「分かってるって」

 俺はそう言うと一応は安心した様子で部屋に戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ