番外編 SS
感謝のSSです。少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
ドタバタと、騒がしい音が聞こえてきて私は目を覚ました。窓の外に視線を向けると、うっすらと太陽の光が見える。
「こんなに朝早くからどうしたんだろう……」
一緒にベッドで寝ているもふもふのシルフィとルシアンの柔らかい毛の温もりに、吸い寄せられそうになるが、ぐっと我慢する。そしてあくびを噛み殺しながら、ベッドから抜け出した。
『……はやいな。もう、起きるのか?』
私がベッドから出ようとしたのに気づいたルシアンが声をかけてくる。いつもみたいに撫でないのか? と要求するようにしっぽの毛を押し付けてきた。
(もふもふしたいっ)
抗えなくなる欲求に蓋をして私は言う。
「……うっ、そ、外が騒がしいから、様子を見に行こうかと」
『そうか。朝から人間は元気だな。オレも行く』
「きゃうっ!」
ルシアンが軽々とベッドから飛び降りると、シルフィも行くと、体を大きく伸ばした。
私は上着を羽織って部屋の外にでた。
「ねぇ、そっちにいた?」
「いないわ!」
「もうっ! どこに行っちゃったのよ」
「まあまあ。落ち着いて、慌ててもしょうがないわ。地道に探して捕まえるしかないわよ」
メイド達が慌ただしく走りながら何かを探しているようだ。私は会話を聞きながら、メイド達に近づいた。
「あ、アリスティア様! 朝から騒がしくして、申し訳ございませんっ! 起こしてしまいましたよね?」
私に気付いたクロエが駆け寄ってくる。
「おはよう。クロエ。何があったの?」
「それが……幼獣舎の扉が空いており、中にいた幼獣が夜中に逃げ出したようです。二匹は捕まえたのですが、三匹が屋敷の方に侵入して色々と悪さをしているんです……」
「早く見つけないと! リオン様はこのこと知っているの?」
「いえ、昨晩、遅くに魔物討伐から帰ってきたので、お休み中かと思い伝えておりません」
「そうなのね。疲れているだろうから、あとで知らせましょう」
「はい!」
屋敷の中には少し危険な魔導具などが保管されている部屋もある。そこに入ってしまったら大変だ。横で何やら楽しそうにしっぽを揺らすルシアンに目線を落とす。
「私も探すのを手伝うわ。ルシアンの鼻なら見つけられるでしょ? 一緒に探して」
『できないことはないが……手伝ったらなんかくれるのか?』
(な、生意気なやつ)
私は心の中で毒づきながらも報酬を提示した。
「無事に見つけられたら、赤身肉を食べさせてあげる」
『肉! よっしゃ! 見つけてきてやる』
やる気いっぱいに屋敷の中を駆け出したルシアンの背中を見送り、私もシルフィを連れてまだ、捜索していないリオン様の私室と書庫に探しに行くことにした。
☆☆☆
「うーん。いないね」
「きゃう?」
書庫の方から探すことにしたが、しーんと静まり返っている。本棚の隙間や椅子の上を見て回るが、姿は見えない。
(書庫にはいないかな?)
夜中に脱走して屋敷の中を探検し、疲れて眠ってしまった可能性も考えられる。シルフィも鼻をひくつかせながら探すのを手伝ってくれたが、書庫では痕跡を見つけることは出来なかった。
私はシルフィと書庫をあとにした。
リオン様の私室に向かって歩いていると、吹き抜けの階段の下にルシアンの姿が見えた。ルシアンもこちらに気付いて、得意げにしっぽをふった。
首元を咥え、一匹幼獣を捕まえている。私は一旦、ルシアンのところに行った。
「ルシアン! 見つけてくれたのね。ありがとう」
『ふんっ。そっちのよりオレのほうが役に立つだろ』
ルシアンから幼獣を受け取った私は怪我がないか、触ってて確かめる。どこにも怪我はしていないようで、遊んで満足したのか、腕の中でまったりしている。
近くにいたメイドに声をかけて幼獣を渡した。
「ありがとうございます。アリスティア様」
受け取ったメイドが頭を下げる。そこにクロエがきて、あと見つかっていないのは一匹だと教えてくれた。
書庫を探している間に辺りはすっかり明るくなっているが、リオン様が起きてくる気配はない。
まだ眠っているのなら騒がしくするのも申し訳ないから、シルフィをその場に残して私ひとりでリオン様の私室に行くことにした。
☆☆☆
控えめに扉を叩いたが、中から返事はなくそーっと、リオン様の部屋に足を踏み入れた。
「……リオン様、失礼しますね」
部屋のカーテンは閉められ中は薄暗い。余程疲れていたのか寝息が聞こえる。
リオン様が寝ているところを見るのははじめてだ。
私は近づいて寝顔をのぞきむ。普段とは違う無防備な姿に愛おしいさが込み上げてくる。
(か、かわいすぎる!!)
しばらくリオン様の寝顔を見つめて、つい、触れたくなって手を伸ばす。
リオン様の頬に触れる寸前のところで、枕元に銀色の小さい塊が丸まっているのが視界に入った。
(ふふっ。リオン様のところで一緒に眠っていたのね)
私はリオン様に触れるのは諦めて、幼獣に手を伸ばした。
「……ん」
艶めかしい声が聞こえて、腕を捕まれた。
「…………アリス?」
「すみません。起こして――――」
ぐいっと、強い力で腕を引っ張られて私はバランスを崩す。引き寄せられるようにして、リオン様のベッドに引きずり込まれた。
リオン様の引き寄せる力は予想以上に強く、抜け出すことができない。
「あの、……リオン様?」
軽く身をよじってみるが、びくともしない。それどころから、そのまま眠ってしまったのか、規則正しい寝息が聞こえてくる。
(ど、どうしよう)
リオン様の匂いに包まれてくらくらする。大きく逞しい腕に抱かれて、彼の規則正しい鼓動が近くで聞こえた。
頭が回らず何も考えることが出来ずに、私はリオン様のぬくもりに身を任せた。
☆☆☆
「アリス!?」
耳元で驚きを隠せない声が聞こえて、私はゆっくりと目を開けた。
「ひやっ?!」
鼻と鼻が触れそうな距離に顔があり、私は小さく悲鳴をこぼす。そしてすぐに思い出す。
幼獣を探しに部屋に入ってベッドに引きずり込まれたことを。いつの間にか自分まで寝てしまったのだろう。
カーテンは閉まったままだが、入ってくる光の量が違う。
「……すまん。どう、して……ここに?」
状況を理解できていないのはリオン様も一緒なようで、上擦った掠れた声で聞かれた。
「……逃げ出した幼獣を探していて、リオン様に引きずり込まれました」
「……っ! 私が君を引き込んだのか? す、すまない」
目に見えて慌てるリオン様に私は微笑んだ。
「よく、眠れましたか? こ、婚約者……なのですから、その、気にしないでください」
「ああ。よく眠れた。いつもよりも寝付きが良かったぐらいだ」
「なら、良かったです。起きられますか?」
「…………せっかくだ。もう少し、このままで」
「わかり、ました」
リオン様の手が私の頭を撫でるように動かされる。幼獣のことは後回しにしてもいいような気がして、リオン様とぬくもりを分け合うのだった。
お読み頂きありがとうございましたm(*_ _)m




