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20話 忍び寄る悪意

「なぁなぁ、暁那さんって彼女とかいねぇの?」

「え!? そ、そういうのは、ちょっと……何て言うか」


 勉強会はすっかり雑談に変わっていき、祐介はリラックスモードで暁那に話しかける。

 予想外の質問に暁那は上手く答えられず、しどろもどろになっていた。


「おい祐介! 余計なこと聞くんじゃねぇ」

「そ、そうだよ。アキ困ってるだろ」


 タケシと海星に怒られてしまい、祐介はシュンとしつつも逆ギレのように言い返す。

「なんだよタケシまで! だってさぁ、こんなカッコイイんだから、やっぱ彼女いんのかなぁとか気になんじゃん!」

 祐介の言葉に、暁那と海星はそれぞれに顔を赤くする。

 

「そ、そんなことは、ないけど……」

「ふふん。それはまぁ、認めるけどさぁ」

 

 2人の顔を交互に見て、祐介は不思議そうに首を捻った。

「いや、何で海星が誇らしげなんだよ」

「……別に?」


 その会話を見守っていたタケシは、スマホの時刻を見て祐介に声をかける。

「祐介、そろそろ遅いし帰ろうか?」

「え? ほんとだ、もうこんな時間か」

 タケシに言われて、祐介も慌ててスマホを見る。


「あ、ごめんね。遅くなってるのに気付かなくて」

 暁那が申し訳なさそうに言うと、祐介は帰る準備をしながら笑顔を返す。 

「いや、こっちこそ時間気にしてなくて……ってか暁那さん、連絡先教えてくださいよぉ」

 突然の発言に海星は大きな声を出した。

 

「はぁ!? だ、駄目だよそんなの!」

「何でだよー。いいじゃん、俺ら4人のグループ作ろうぜ? ねぇ、いいでしょ暁那さーん」

 祐介は甘えるように暁那にぐいっと体を寄せる。

「バカ祐介! 近いって!」

 海星は慌てて暁那の腕に抱きつき、自分の方へ引っぱる。 

 そしてふと暁那の顔を見上げると、案の定彼は恥ずかしそうに顔を綻ばせていた。


 (アキぃ……もう絶対喜んでるよ。どうせ、俺の友達と仲良くなれて嬉しい、とか考えてる顔だよ……)


 彼の表情を観察し、その感情を想像しながら、海星はがっくりと肩を落とす。


「ぼ、僕なら構わないよ? ほら2人とも、喧嘩しないで」 

 暁那の言葉からも、海星の想像は大方当たっていたようだ。

 

「もぉ〜、やっぱり」

「やったー! ほら、タケシも来いよ」

「へいへい……海星、悪いな」

 タケシは少し申し訳なさそうに海星へ目配せする。

 ムスっと膨れていた海星だが、暁那の嬉しそうな笑顔を見て困ったようにため息を吐いた。

 

 (はぁ……ま、いいか。あんな嬉しそうにされたら文句も言えないよ)  

 

 海星と友人たちとの交流は思いの外うまく行き、気が気じゃなかった海星を除き、楽しい空気のままお開きとなった。

 その後、玄関で先に2人を見送ってから、海星はリビングで暁那と話をする。


「あーあ、やっとうるさいのが帰った」

 海星は机にぺたっと腕を伸ばし、大袈裟に文句を言う。

「ふふ、こんな賑やかなの。本当に久しぶりで楽しかった」

 彼の隣にくっつくように腰を下ろし、暁那はその顔を覗き込んで笑った。

 

「アキ、今日凄く自然に話せてたよ。教え方も上手いし、本当に先生みたいだった」

 優しく微笑むと、暁那は目を丸くして頬を赤く染める。

 

「そんな……海星の友達が優しいからだよ。けど、自分でも驚くくらいワクワクした。何か教えるって、楽しい」

 暁那は謙遜するように身を引いたが、恥ずかしそうに微笑み頬をかく。

「もしかして、将来学校の先生になったりして」

「将来か……もうだいぶ遅れてるけど、そんな未来があるのかな」

 将来を口にする暁那の表情は少し寂しそうだった。

 海星はその姿を真剣に見つめて口を開く。


「あるよ、絶対……だって、こんなに頑張ってるんだもん。出来ることもどんどん増えて、きっと先生だって、何にだってなれるよ」

「……ありがと」

 そう返す暁那の声は微かに震えていた。


 (でも、僕が頑張れるのは……カイがいてくれるからなんだよ)

   

 暁那は心の中で呟き、涙目で海星を見つめる。

 それを言葉に出すと、涙も一緒に溢れ出してしまいそうだった。

 海星はそれを察したように、腕を伸ばして彼の頭に手を置く。

 優しく髪を撫でると、暁那は気持ち良さそうに目を細める。すると不意に後ろのシュシュに指が当たり、海星は少し意地悪そうに口角を上げる。


「けどアキさぁ……俺が今日どんな気持ちだったわかる?」

「えっ、僕、何か嫌なことしてた?」

 急にかけられた言葉に驚き、暁那は動揺したようにパッと目を見開く。

 

 海星はクスッと声を出して笑うと、暁那の首に両腕を回していく。

 見つめ合い軽く唇を合わせると、暁那は小さく息を漏らす。


「ん……カイ」

「こんな可愛いシュシュ付けて……こんなの皆に見せちゃ駄目」


 そう言うと、今度は強く口を塞ぎながら暁那の髪をクシャりと撫でる。

 冗談めかした言葉とは対照的に、海星の目は射貫くように熱く暁那を見つめる。

 暁那は頭が沸騰しそうになりながらも、その瞳から目が離せない。

 ポロリと落ちたシュシュとともに、満たされたような甘い息を漏らしていた。 

  

 ◇


 その翌日。

 海星はホームルーム終了後、バイトに行くためすぐに教室を飛び出す。


「海星、バイト頑張れよー」

「おう、じゃあな」


 タケシはその後ろ姿に軽い調子で声をかけた。

 そして、いつもうるさい祐介の声がしないことに気付き、ふと彼の席を見る。


「祐介どしたん?」

 ゴソゴソと鞄や机の中を探る祐介に、タケシは不思議そうに声をかける。

「いや、数学の参考書が無いんだよ。昨日暁那さんとこに忘れたんかなー」

「今日数学無かったし、家とかじゃねぇの?」

「いや、鞄の中昨日のままだし、たぶんそれはねぇと思う」

「お前なぁ」

  

 やる気があるのか無いのか、ズボラな祐介に呆れタケシはがっくりと肩を落とした。

「とりあえず、暁那さんに連絡してみれば? 返事があったら、また海星に頼んで取りにいきゃいいべ」

「うーん、そだな。じゃあ早速……」

 祐介はポケットからスマホを出し、ぶつぶつと文面を口に出しながらメッセージを送る。


 ◇


 夕方。

 暁那は机に向かい、ペンを片手に本を読んでいた。

 今まで本を読むことはただの時間潰し。嫌なことを考えないよう逃げるための道具だった。

 ただ何も考えずに活字を目で追い、いつもベッドの上や床に寝転んで読むだけ。


 けれど昨日のことが切っ掛けで、暁那は真剣に学業に向き合いたくなった。

 ただ前に進むため、明確な目標は定まらなくても、目の前のことに取り組もうと決めたのだ。


 (やっぱ、忘れてる部分もいっぱいあるな。今度教える時のためにも、しっかり頭に入れておかなきゃ……)


 集中し何時間も机に向かっていた暁那は、祐介のメッセージにも気付かず、外はすっかり暗くなっていた。 


 〈ピンポーン〉


 突然インターホンが鳴り、暁那はようやく顔を上げる。


「あ、カイかな?」


 そして突然の事に、彼が今日バイトだという事も忘れ、特に警戒することもなく普段通りに玄関を開けた。


 ◇


「すんません、ちょっとトイレいいっすか?」

「大丈夫よ。今ちょっと暇だし、少し休憩したら? 私さっき入ったとこだから」

「あざっす。じゃあちょっとだけ行ってきます」


 バイトの先輩に促され、海星は数分の休憩に入った。

 終了まであと1時間も無かったが、少しでも休憩できるのはありがたい。

 海星はトイレを済ませた後、ロッカーの中のスマホを取り出す。


「あ、祐介じゃん」

 スマホには祐介からのメッセージが届いていた。

 どうせくだらない事だろうと軽い気持ちで開いた海星は、その文面に眉を潜める。 


 ――『昨日暁那さんの部屋に数学の参考書忘れたと思って、放課後にチャット入れたんだけど返事が無いんだよー。うまく届いてないんかな? お前からも聞いてみてくんない?』


 普段なら暁那からの返信はすぐに返ってくる。

 祐介からのメッセージは数分前。今の時刻は8時前、約4時間も返信が無いなんて事は、今までなかった。


 (寝てる、とかかな……けど、今までそんな事無かったし)


 海星は妙に胸騒ぎを感じながら、とりあえず暁那にメッセージを送る。

 ロッカーにスマホを戻そうとした海星はふとその手を止め、ズボンのポケットにスマホをねじ込み仕事に戻った。


「……休憩ありがとうございました」

「おかえり……ってどうしたのその顔」

「えっ」

「なんか雰囲気暗いよ。嫌なことでもあった?」

「べ、別に、大丈夫っす」


 心配そうに首を傾げる先輩をよそに、海星は空いた席の片付けに向かう。

 しかしその間も暁那の事は頭から離れず、数分置きにポケットのスマホを確認する。


 (まだ返事がない……それに、既読にすらならない)


 小さかった不安は時間が経つ程にどんどん大きくなっていく。

 終了まで30分もなかったが、海星は意を決して先輩に声をかけに行った。


「すんませんっ、今日早く上がって大丈夫ですか? ちょっと、急用が入って」

 先輩は一瞬驚いた顔をしたが、珍しく必死な海星の様子にしばし考え込む。

「え? うーん……いいよ。今日店長いないけど、後で連絡しといたげる」

「ありがとうございます! それじゃ、お先失礼します」


 海星は深々と頭を下げると急いでロッカーへ走った。


 ◇


「はっ……なん、で」


 玄関のドアを開けた暁那の顔は、みるみる恐怖に青ざめる。

 目の前の顔を見上げた瞬間、体は硬直し言葉が出ない。

 それどころか、呼吸の仕方すらわからなくなる程に、暁那の心は恐怖に支配されていく。


「やぁ、久しぶり」


 宰斗は黒いコートを羽織り、笑顔でヒラヒラと手を振る。

 しかし細めた瞳の奥は冷たく、その声はあの時と同じ、軽薄で残酷な雰囲気を醸し出していた。



  


数ある中から読んで頂いて

本当にありがとうございますᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ

リアクションや、一言でも感想を頂けると大喜びします(^◇^)


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