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4.1 : My Dearest Brother - Epi65

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 冷たい、それでいて呆れたような呟きを聞いて、亜美が、晃一の腕の中から、その声の主の方を振り向いてみた。


「うるさいな。いいじゃないか。大事な妹との感動の再会を済ませている所なんだ」

「食事だ。いい加減にして、さっさと済ませろ」

「あれ? チームで一番偉い人そうに見えたのに、クッキングもするんだ。若いのに任せて、椅子に座って、ふん()り返ってないのね」


 あまりにひどい形容のされ方に、フライパンの火を消して、ジョンは微かに口を曲げてみせる。


「そのボランティアが少ないんでね」

「そうなんだ」

「食事だ。いつまでしがみついているつもりなんだ。兄妹揃って危ない奴らだな」

「ええ? でも、感動の再開だもん。昨日――って、いつなのかしら? 今日かな? ――でも、お兄ちゃんも傷だらけだったし……、感動の再開どころじゃなかったんだから」


 あっちこっちを移動させられているせいで、一体、今はいつで、何時になっているのかも、もう、ほとんど覚えていない。


 しっかり眠ったような記憶もないし、中途半端な時間に、いつもご飯を食べているような記憶もあるし、体内時計も滅茶苦茶だった。


「食事だ。さっさと済ませろ。その後に、ブリーフィングだ」


 はーい、と(一応) 行儀よく返事をした亜美は、仕方なさそうに、兄の晃一の腕の中から離れることにした。


 少し離れかけた亜美を晃一がまた押さえるので、亜美は不思議そうに兄の顔を覗き込む。


「亜美、ヘアドライヤーは、どこなんだ?」

「ちゃんと持ってるよ。でも、クインに取られちゃったけど。返して、って言っているのに、勝手に持っていったままなのよ」

「そうか」


 亜美を見下ろしている晃一は、やるせなさそうに溜め息をつき、

「亜美……、お前にそんなことをさせるつもりはなかったのに……」


「どうして? お兄ちゃんが、全部、用意万端にしてくれたから、全然、困らなかったんだよ。心の準備ができてると、できてないでは、すごい大差があるもんね。だから、全然、困ってなかったのよ」

「そうか……。済まない……」


 済まなそうにしょぼくれていく兄を見上げながら、亜美は、にこっと、笑う。


「誤らないで。あのね、全然、気付かれなかったのよ。空港のゲートを通過する時も、ドキドキしたけど、全然、気付かれなかったんだから。お兄ちゃんの言った通りだよね。だから、全然、困ってなかったのよ。大活躍で、お兄ちゃんに感謝なんだから」

「そうか……。お前は本当にいい子だ」


 にこっと、更に、亜美は嬉しそうに笑う。


「お兄ちゃんのおかげだよ」

「そうか」


 はあ……と、完全に呆れたようにジョンは溜め息をついて、もう、この二人に指摘する気もない。


「お前達、いい加減にしろ」


 信じられない、この兄妹――と、ぼやいているのは間違いなかった。





 亜美の渡された食事の乗った皿を持って、またシート側に戻っていくと、全員がすでに揃っているようだった。


 中央に置かれたテーブルを囲うように、それぞれが座席を回転させて、丸く取り囲むように座っている。


 ほとんど食べ終えかけている皿もあるし、まだ半分食事中もあって、亜美は晃一の隣に腰を下ろして、みんなを真似るように、椅子のサイドからテーブルを引き出していた。


「よう、ブロンディ」

「この金髪、いつまでつけてないといけないのかしらね。汗臭いし、頭もかゆくなってきちゃう」

「もうしばらくは無理だな」


 ジョンも座席に腰を下ろしていき、自分の食事を取るようだった。


「コンタクトはどうした?」

「目が乾いて、もう無理」

「だったら、次のを用意させよう」


 と言うことは、まだ亜美は変装していなければならないらしい。


 やーっと、大好きな兄の晃一の身柄を発見し、兄を救出できたのに、まさかとは思うが……まだ、テロリスト排除――なんて、危ない仕事を継続するつもりなのだろうか。

 嫌な予感というものは、対外、外れないものなのだ。


「別に、次のなんていらないんじゃない?」

「いや」


 そして、そのたった一言だ。

 あまりに短い一言だ。

 説明の一つもなく、その一言だ!


 その一言が全てを告げているかのように、亜美がふくれっ面をする。


 ブスッと、手に持っているフォークで、乱暴に目玉焼きを突き刺してしまった亜美だ。家に戻れるのはまだまだ先のようで、仕方なく(本当に仕方なーく)、亜美の食事をアタックし始めることにした。


「じゃあ、私も参加させてくれるんだ」


 昨日(昨夜なのか、今朝なのか) は、亜美を除いて、男達で作戦会議だった。

 亜美一人だけがヘッドフォンを被らされて、音楽を聞かされたのは記憶に新しい。


 なのに、今朝は、亜美を交えて、作戦会議になるらしい。人手が足りなさ過ぎて、素人の手も借りたい――と、多少の気が変わったのだろうか。


 あんなに、素人が作戦に絡んでくると邪魔だ、なんて豪語していたくせに。


「そうだな」


 ちろっと、隣の兄の晃一を亜美が見上げる。

 晃一はあからさまに嫌そうな顔をして、その顔をしかめていく。


「でも、これは遊びじゃないんだよ」

「うん、わかってる」



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


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