3.5:Vengeance - 03
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「理由もなく仲間を見殺しにすることはない」
それを言いかえれば、状況が許さなければ、理由があれば、そうすることを余儀なくされることもある、という意味だろう。
今回は――と、ジョンだけでなく、マークまでも繰り返している言葉だ。
ということは、今回のような状況でなければ、前回のOpや、次のOpでは、また違う攻撃方法や、作戦を立てる可能性があって、人質救助をすることになる。
今回は、益々、晃一に不利になる状況ばかりだと、改めて、実感してしまった亜美だった。
「アミ、お前の役目は、特定の場所に忍び込み、時間内に屋敷内を停電させて、その場を退散する、だ。時間内に仕事を終わらせなかった場合、そのまま引きずり戻すからな」
「うん、わかった……」
亜美は、なにも、我儘を言って、自分の能力を見せつけたいのではない。停電することができなければ、その場でしつこく居座り続けるつもりだってない。
「忍び込んでいる時に、敵に遭遇した場合は?」
「まあ、ある程度は面倒を見てやるが、状況次第で退散させる」
「うん、わかった……」
マークは亜美の護衛を買って出てくれたが、だからと言って、命を懸けて亜美を護衛しなければならないのではない。危険と判断したのなら、仕事を捨てて退散せることを優先するのも、エージェントの仕事だと理解できる。
亜美は、ただの一般市民だ。エージェントでもなんでもない。
一般市民を危険にさらすことはできないはずだから。
モスクワ市内の通りは閑散としているだけに、ジープで走り込んでいく亜美達も、すでに目立ちまくっている状態だろう。
ラディミル・ソロヴィノフの屋敷の傍にやって来た時も、車や人っ子一人、見当たらない。
ジープのエンジン音で、民家が起き出したりしないかどうか……、亜美だってずっと冷や汗ものだ。
「目立つ……んじゃない?」
「仕方がない」
「歩いてきた方が、良かった?」
「時間を無駄にする」
本当に限られた時間しか許されていないから、ジープを屋敷側に近づけなければならない状況も、亜美は理解できる。
だが、真っ黒なジープが一台、通りに停まっているだけで、目立ってしまうこと間違いなし。
「目印はなんだ?」
クイン――達、残りの男達は、真っ黒な覆面を被っていて、ほぼ、その瞳以外、顔全部が隠れてしまっている。
全身真っ黒で、本当に異様な光景だ……。
「ここから、あの部屋の窓を覗ける? ――って言うか、確認できる」
クインの視線がジョンに向けられる。
ジョンの視線が後ろのエージェントの一人に向けられる。
そのバッグから、真っ黒な大きな双眼鏡が出てきた。
クインが双眼鏡を受け取り、屋敷を囲う高い塀の傍に隠れて、亜美が監禁されていた部屋の場所辺りを探してみる。
そして、その動きが、一瞬、止まっていた。
「あんまり、良く見えないかも。周囲が暗いしね。部屋の電気がついてないと、ちょっと難しかなぁ……」
「これは夜行性だ」
「え? そうなの?」
「じゃあ、私が残した目印、見える?」
「お前は、一体、どういう性格をしているんだ」
なんだか、笑いを堪えているような口調だったのか、それとも、あまりに呆れている口調だったのだろうか。
「なんだ?」
マークも、不思議そうにクインをせかす。自分にも双眼鏡を寄越せ、と。
マークもクインと同じように、屋敷側の部屋を探しながら、その動きが止まっていた。
ぶっ、とマークは簡単に吹き出していた。
「アミ、お前、いい性格だな」
「だってぇ、腹が立つじゃない? 赤の他人なのに、おまけに、まだ未成年の少女なのに、無理矢理、同意もなく、勝手にさらって行って、もう、ひどい犯罪行為でしょう? ロクデナシじゃない」
「確かにな」
それで、くつくつと、マークが肩を揺らしている。
実は、亜美が残した目印とは――窓側に大きく描かれた亜美のメッセージだったのだ。
“Fxxx YOU!!”
亜美が持っていた真っ赤な口紅で、窓一杯に描かれたメッセージだ。
それも、わざわざと、人差し指を上に上げている絵まで残して。
部屋から出て行ったラディミル・ソロヴィノフが、亜美の確認に部屋に戻ってきた時に、最初に目に入るメッセージだ。
窓一杯に、それも、真っ赤な口紅で描かれた巨大なメッセージだ。
そう簡単に消え去りはしない。
それを見たラディミル・ソロヴィノフが、怒りに震えて大爆発していたなど、誰が知り得ようか。
その場面を見ることができなくて、本当に、亜美も残念である。
「大体、か弱い女子高生を人さらいするなんて、一体、どういう神経してるのよ」
「まあ、確かにな」
なんだか、笑いこけているマークは、親切にも、他のチームメンバーのエージェント達全員に双眼鏡を回してやるようだった。
そして、全員が全員、亜美がくっきりと残したメッセージを確認することになる。
「……………………」
「あんなもの、全然、仕返しにもならないわ」
「あれを見て、憤慨していたであろうラディミル・ソロヴィノフの顔を拝みたいものだな」
「そうね。見逃してしまって、超残念だわ」
無理矢理、連れ去られてしまい、見知らぬ部屋に閉じ込められた恐怖で怯えているはずの亜美だったはずなのに、亜美の行動を見ている限りでは、そういった状況ではなかったらしい。
むしろ、連れ去られた事実に腹を立てて、しっかりと仕返しをしてくるほどの根性はあるらしい。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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