3.5:Vengeance - 02
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ラディミル・ソロヴィノフの屋敷は、高級住宅街の一角である。ほとんどの敷地や住居が大きく、高そうで、昔からある豪邸が続いている場所も多い。
それでも、通りは閑散としていた。
晃一の救出・奪回作戦の一つとして、まず、第一陣での攻撃は、モスクワ市内の一時的な停電から始まる。
モスクワでは、真冬に停電が起きたり、ヒーティングシステムの不運転や故障などで、真冬の極寒の中、寒さに凍えて悲惨な時間を過ごさなければならない状況は、そう稀なことでもないらしい。
そういった問題が毎回で、頻繁というのでもないが、それでも、稀ではないらしい。
それで、市内に供給する電源は、広範囲に渡る電力ネットワークに、2万個近くの変電所を含んでいると言うのだ。そんな数の変電所がある事態、ものすごいことだ。あまりに変電所があり過ぎて、それぞれの家に供給される電力が均等に分けられているのかも、疑わしくなってくる。
市内を中心として、ラディミル・ソロヴィノフが居住している住宅地の電源供給を混乱させる為、そこへ電力を流している変電所で、一時的に、電力をカットするという作戦らしいのだ。
その話を聞いている亜美にしてみたら、一体、あんな短期間で、モスクワ市内の電源や電力の情報を知り得て、おまけに、特定の変電所まで探し当てるなんて、“組織”の情報網はどれだけのものなのか、ものすごい不思議になってしまうものだ。
だが、真っ黒なコンバットスーツに身を包む男達は、一切、その手の説明をしてくらない。
クインだけが、毎回、いつも、情報の出し惜しみをしているのだと思いきや、どうやら、“組織”のエージェントは、全員、クインと同じ傾向があるらしかった。
なんて、非協力的な男達だ……。
停電を起こしても、停電が長く続けば市内がパニック状態に陥り、民家でも住民達が眠りから覚めて起き出したりと(あまりに寒すぎて)、人質救出のOpどころではない。
それで、一時的な停電を起こし、すぐにまた、電力を回復させるのらしいのだ。
一時的――その時間は、約10分間ほどだけだ。
その間に、亜美はラディミル・ソロヴィノフの屋敷の裏側にある敷地に忍び込まなければならない。
上空から映した屋敷や敷地内の映像から、亜美も屋敷の電源が供給されている可能性がある場所を、何か所か推測してみた。
その映像はサテライトから撮られた映像の一つで、“組織”はサテライトまで所有・運営している事実をそこで知った亜美だった。
(なんなのかしら、この“組織”? ちょっと、異常じゃない?)
とは口に出されない。
シリアスな雰囲気をまき散らして、シリアスな顔をしている“真っ黒”集団にそんなことを質問しても、答えが返ってこない。またも、シーンと、無言だけ返されるに決まっている。
停電が起きたその時に、屋敷の角の4辺を全部回っているのでは、時間がかかり過ぎてしまう。
それで、渋々、二か所だけに絞り、そこに忍び込むのが亜美の仕事だった。
それでも、5分ずつ。4分を過ぎれば、次の移動場所に駆け足で移動しなければ、到底、間に合うはずもない。
人質救出作戦には、大抵、隠密行動が要求される。テロリストの屋敷に忍び込むにも、隠密行動が要求される。
要は、隠密行動が必須のOpなのだ。
あれだけ大きな屋敷なのだから、セキュリティーカメラはどうするのか、という亜美の質問に対し、
「今回は、セキュリティーカメラを破壊する時間も余裕もない」
それだけの説明にもならない返答だ。
口を曲げて、不満顔見せる亜美にそれ以上の説明はない。
「あのね、私は素人なんだけど。素人が一緒にいるのに、あたかも、自分達は作戦を理解しているので、全く問題ありません――なんて憶測を立てるのは、あまりに危険でしょう? 素人なんだから、下手に動かれて、救出作戦に影響を出したり、Opに支障をきたしたらどうするのよ」
「邪魔をしないように」
あまりにムカつく発言に、亜美だって完全に不満顔だ。
それで、亜美が更にうるさくぶーぶー文句をこぼすので、仕方なく(不承不承に)、マークが簡単な説明を付け加える。
「今回のOpは、先制攻撃を仕掛けると同時に、正面突破のFrontal Attack(正面攻撃) だ」
「Frontal Attack……? でも、それって……、隠密行動どころか、敵に自分達の姿を見せるから、狙われる確率も増えるし、相手の防衛体制だって増援される可能性があるんじゃないの?」
それで、なぜかは知らないが、マークが一瞬だけ亜美をジッと観察した。
「なに?」
「今回のOpは、時間もなければ、余裕もない」
「エージェントをリクルートするのが大変だから、人員不足なんでしょう?」
マークはただ皮肉げに口端を歪めるだけだ。
「正面突破……って、自分達を狙ってください、って言ってるようなものじゃないの?」
「仕方がない」
「それ……以外に、方法がないから?」
「そういうことだ」
それで、ある程度の状況を理解した亜美だったが、理解してしまって、その顔が暗く翳ってしまう。
「皆……危ないでしょう?」
「Opは危険がつきものだ」
「危険……の度合いが増えてしまっても……?」
「では、サトウを見殺しにするか?」
「それは、絶対にない」
「だから、今回はその作戦だ」
「そう……。危険、なのに……お兄ちゃんを助けにきてくれて、ありがとう……」
ものすごい真剣な顔つきで、少し青ざめているようにも見えない亜美は、それを本気で口に出しているようだった。
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
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