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3.5:Vengeance - Epi56

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投稿が遅れてしまいました。ここしばらくひどい風邪に当たり、3週間も一家全滅でした……。

「おい、マジか……」


 クインは手渡された物体を手にして、あからさまに顔を引きつらせている。


「カッコいいぞ、クイン。随分、サマになってるじゃないか」

「うるせーな」


 余計な外野のからかいに、更に顔をしかめていくクインだ。


 クインの手の中には――プラスチック製の水鉄砲が抱えられていた。

 水鉄砲の部分は青色。お水を貯めるタンク型のボトル容器は黄緑色。そして、発射させるノズルは赤色である。


 おもちゃ屋などで、子供がすぐに見つけやすそうな色合いで、目につく色合いで、そして、なにより()()()()()()()の水鉄砲だ。


 小さなピストル型ではない。

 両手で抱えて、噴射式のかなりの大きな水鉄砲だった。


 クインだって、両手で水鉄砲を持ってみるが、体の幅ほどの長さはある。だが、この年にもなって、まさか自分が水鉄砲を抱えて走りまわる日が来るなど、一体、誰が想像できようか。


 まして、テロリストを相手にしたOp最中に、()()()()()()()の噴射式水鉄砲で敵を撃ち落とせ、なんて状況がやって来るなど、クインとて、絶対にそんな光景を予想したことがなかった。


 別に、プラスチック製が悪いと言っているのではない。今では、かなり高度で精度も高い銃型の水鉄砲だって、おもちゃ屋で売られているものである。電動型の水鉄砲だってある。

 大人だってゲーム感覚で楽しめる、大型の水鉄砲とてたくさんあるものだ。


 だから、プラスチック製の水鉄砲が悪いと言っているのではない。


 それでも、危険に溢れ、残虐非道のテロリスト相手に、プラスチックの水鉄砲だ。

 こんなシリアスに欠けたOpがあるのか。


 試しに、クインも噴射式の水鉄砲を抱えながら、トリガーを引いてみた。

 シュッ――

 長く弧を描いた水が噴射された。


「ちゃんと動くじゃないか」


 新品で買ったばかりの水鉄砲が故障していたなど、その商品を取り寄せる羽目になったエージェントの努力も報われないだろう。


 更なるからかいを無視しているクインでも、さすがに、あまりにふざけた武器を手に取りながら、こんなOpに参加する羽目になって、かなり顔をしかめずにはいられない。


 水鉄砲の中身は、ただの水ではない。

 亜美がリクエストしてきた通り、薄めたルミノール液が入っている。


 そして、クインはこれからテロリストがいる屋敷に侵入して、水鉄砲でルミノール液をそこら中に振りかけなければならないと言う任務を押し付けられている。


 なんて悲惨なOpだろうか……。


 対する亜美と言えば、今は、エージェントの一人であるマーク・コルトに付き添われて、ラディミル・ソロヴィノフの屋敷の周辺を徘徊している最中だ。


 亜美の兄である晃一救出・奪回の作戦が決まり、それぞれのポジションや役割、正確な時間帯など、その話し合いも終えていた。


 深夜深く、北風が冷たく体に染みる寒さの中で、男達は真っ黒なコンバットスーツを身に着けているだけで、それ以外には何かを着込んでいるのでもない。


 用意してきたであろう武器を身に着け、確認し、それぞれがOpに向けて集中し出している中、クインは派手な色をしたプラスチックの水鉄砲を与えられた。


 一目見た瞬間から、クインの顔が嫌そうにしかめられていた。

 そして、周囲のチームメンバーからのひやかしとからかい。



「それ、役に立ちそうね。ルミノール液もたくさんもってきてくれたし。なんでもござれ、よねぇ」



 そんな風に素直に感心して喜んでいる亜美の隣で、冷たい眼差しを向けるクインだ。


 一体、誰のせいで、こんな――ふざけたOpに参加する羽目になったというのか。そのあからさまな非難を映した冷たい眼差しで睨まれても、亜美は知らん顔。


 兄の晃一を助け出す為なら、プラスチックの水鉄砲だろうが、プラスチックのおもちゃだろうが、役に立つのなら、何でも使えばいいではないか。


 それで、ジープに乗り込んで、いざ、モスクワに出発である(亜美には、出戻りになってしまったが)。


 大きにジープの後ろに乗車している亜美達は、要は、トラックの後ろに座っているようなものだ。座席があるのでもない。


 それで、ただ、カバーだけがかかっているジープの後ろ側で、吹きさらしのまま、ピューピュー冷たい風を受けて、凍え死にそうな寒さを体験していた。


 なのに、真っ黒な集団は、特別、文句を言う様子も、気配もない。


 亜美一人だけが、ブルブルと寒さで震えながら、寒さと冷たさを我慢して、ジープの中で悪戦苦闘していたのだった。


 数時間ドライブすること、やっと、モスクワに戻って来ても、周囲は閑散とした静けさだけが残っていた。


 もちろん、時間帯で言えば、午前3~4時近くになっている。

 真冬のモスクワは、日の出も遅い。だから、暗闇が続く通りは多い。真っ暗な暗闇を通り抜けていくと繁華街に到着して、ストリートを照らし出す電灯やイルミネーションが反射して、真っ白な雪の上できらきらと輝いているような神秘的な世界を映し出していた。


 これが、兄の救助・奪回作戦などという緊張した状況でなければ、冬のモスクワ市内を歩きながらイルミネーションをエンジョイして、しんしんと優しく振り落ちてくる真白の雪を見上げながら、昔ながらの建物が照らし出された光景を楽しみ、どんなに素敵だったことだろうか。


 本当に……残念なことである。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


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