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3.4:Counterattack - Epi52

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 ジープに乗り込んだ全員が、いざ、モスクワに向けて、また猛スピードで逆行していた。


 ガタガタと、スピードに負けずに、激しく揺られるジープの後ろに乗り込んだ男達の中に囲まれて、懐中電灯に照らされた場で、サテライトで撮られた屋敷の上空写真を亜美も一緒になって覗きこんでいた。


「この地点から、右側の屋敷と言えば――」


 クインが指で大体の屋敷の構造を説明しながら、亜美が捕獲されていた部屋の位置から右側の屋敷の建物を指して、少し考えるような素振りをみせる。


 亜美の言う通り、本邸と繋がった屋敷の一角は右手にあったのだが、その連なり方がアパートらしき羅列のされ方で、本邸とは違った質素な屋根の造りだ。


 それをみても、ラディミル・ソロヴィノフの屋敷の一角として扱われているような場所ではないことが、確かだった。


 そうなると、使用人棟かもしれないが、そんな場所に晃一を捕獲して、訊問しているなど、クインにも想像し難いものがある。


「あのね、男達がお兄ちゃんを連れ込んで、ここの入り口から、屋敷に戻って行ったの。入り口が小さいから、ただの、庭用のドアかなぁ。でもね、窓から覗いていたけど、入り口のドアから、すぐに消えちゃった感じだったわ。だから、上にも行かなかったのかな? ――もしかして、地下室かも」


 なにしろ、亜美と晃一の家にも、たくさん地下室が作られているので、秘密の地下室が存在しようが、亜美には全く驚きはしない。


「お兄ちゃんを囲んでいたのが4人いて、全員が銃を持っていて――お兄ちゃん……撃ち殺された、と思う……?」


 亜美の説明と共に、床に置いた写真を見ていたジョンが顔を上げた。

 心配そうに瞳を揺らしている亜美は、泣いていなかった。


「サトウは、情報を掴んでいる可能性がある。それが何かは俺、達も知らされていない。だが――」

「生かされているから、まだ、殺されてないと思うの?」

「そうだな」

「そうだよね。重要な情報なんだろうけど……」


 判っていたことではあるが、そこで、亜美はまた、自分を納得させるようにする。


 兄の存在を確認した時点から、殺しもせずに、ただ拷問され続けているであろう兄のあの様相を見た時点から、亜美は、兄の晃一が生きている、生かされている理由か事情を、自分ですでに憶測していたのだ。


 だから、この場に集まった男達も、まだ死んでいないであろう兄の晃一の救助に向かうことを、同意したのだろう。


「銃を確認したのか?」

「ほぼ、全員がサブマシンガンを携帯しているようだ。その他は、大したものじゃない」


 黙りこんだ亜美を目の片隅で見やりながら、クインは話を続けていく。


「本邸の警護が少々薄いのが、納得いかない。サトウを捕獲しているのなら、もっと、重装備の警護がされていてもおかしくはない」

「確かに。もしかすると、サトウは移動中に、あの場に移されただけかもしれない」


 そうなると、次の居場所に移動させられたら、男達には、もう、手のつけようがなかった。

 刻々と、時間が迫ってき過ぎている。


(しるし)はなんだ? この屋敷図から、大体の構造は把握できた。あんたは、もう必要ない」


 まだそれを繰り返すクインに、亜美はちょっと笑ってみせた。


「大丈夫だよ。邪魔はしないから。(しるし)は――別に、部屋の居場所だけを残す為にあるんじゃないよ。とっ掴まえたら便利だから、だから、私が必要になるの」

「どういう意味だ?」


 亜美は、どんな状況でも、決して手放さなかった自分の大きなバッグを、後ろから取り上げるようにした。


「女の子には、やっぱり、バッグが必要でしょう?」


 そんなことを言って、男達に自分のバッグを見せびらかす亜美を見ても、さっぱり男達には事情が判らず、むしろ、この状況でバッグを持ち歩いている亜美の気が知れないほどだ。


 そんな男達の無言の非難を受けても、亜美は全く気にした様子もなく、バッグの口を開けて、ゴソゴソと、中から何かを探し出していた。


「これ。これが、必要になるから」


 そう言って、全員の前に差し出したのは、携帯用の香水のボトルに、サングラスである。


「これが?」


 印を残したから、などと、大層、大袈裟に話すものだから、一体、どんなものなのかとそれぞれに慎重になっていたのに、出てきたものが香水のボトルにサングラスである。


 肩透かしをくらったクインも、すぐに呆れて文句を言う。

 ちっ、ちっ、ちっと、亜美が舌を鳴らしながら、その男達に指を振ってみせた。


「今時の女子高生を、甘く見ちゃダメよ」


 亜美は携帯用のボトルの蓋を開け、シュッと、自分の手に香水を吹きかけた。


「明かり消して?」


 すぐに、亜美の隣にいた男が、懐中電灯をOFFにした。


 それで、全員に自分の手を見せ付けている亜美の――手の平が、ぼんやりと薄い青紫色に光り出したのだ。


 パッと、また懐中電灯がつけられた。


「ルミノール液を忍ばせているの。これは携帯用だから、薄めてあって、大した効力はないけど、でも、一度流れた血は、絶対に消えないものね。お兄ちゃんを殴りつけた男達。お兄ちゃんの血がついている。絶対に、見逃さないよ」


 一瞬、その場の男達は、言葉なし。


 一体、どこの世界に、ルミノール液を、香水代わりに携帯している女がいるというのだろうか。

 おまけに、一介の高校生の亜美が、だ。



読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


ही कादंबरी वाचल्या खातीर उपकार

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