3.4:Counterattack - 02
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
「ねえ、なんでも用意周到みたいだから、ルミノール液の一本くらい、調達できないの?」
ジョンも、これだけはさすがに予想していなく、ちょっと、その口端が引きつっていた。
「銃の代わりに、ルミノール液を投げ捨てろ、と?」
「それは最初の時だけ。それで、お兄ちゃんの痕跡がたどれるはずだから。時間をかけて部屋を一つ一つ探るより、あの入り口から入り込んで、血の痕跡を追えば、きっと、お兄ちゃんがそこにいる」
その結論に達した亜美を見て、男達は更に言葉なし。
ルミノール液で命懸けの戦いをするなど、前代未聞である。
「私がいた部屋にも、スプレーを吹きかけたから、その場所が知りたいなら、すぐに見つけられるよ。廊下もそう」
「部屋を暗闇にして、すぐに見つかったはずだろうが。痕跡を残しすぎだ」
クインに怒られて、亜美はまたちょっと笑ってみせた。
「でも、あの部屋のは――たぶん、見つかってないと思うんだ。なにしろ、そんな余裕はないと思うし」
「何をした?」
「それは、見てのお楽しみ、かな? 行けば、すぐに判るわよ」
全く、この亜美は、一体、何をしでかしたのか。
あのマッド・サイエンティストの妹だけはあって、突拍子もない発案を出してくるのは、兄妹そっくりである。
「屋敷中を停電させるには、時間がかかり過ぎる。非常用電力が発電すれば、それもオジャンだ」
「大丈夫。このサングラス、光度計が組み込まれていて、明るく光を吸収すれば、サングラスの中に入っている暗幕で、ルミノールの場所が光って見えるよ。これで、停電しなくて済むでしょう?」
ジョンも、すでに言葉なし。
はあ……と、なぜか疲れきったような溜め息を吐き出して、
「――さすが、サトウだ……。突拍子もない――」
「お兄ちゃんの発明は、お兄ちゃんの趣味だもん。本業は、電子工学とAI工学じゃない。でも――まあ、反テロリストのエージェントなんて、そんな副業までやってたけど」
そこら辺は、真実を知らされていなかっただけに、亜美も膨れている。内緒にしないで、亜美にだって、ちゃんと説明しておいてくれればいいものを。
「お兄ちゃんを連れ出してきて、また連れ込んでいった男達の顔も、覚えてるわ。移動中に、誰かがカメラを付けているなら、それで、すぐに私が見つけられるけど。ロシア人だろうが、一回覚えた顔は、絶対に忘れないわ。お兄ちゃんを殴りつけたんだから」
「部屋に閉じ込められていた割には、随分、冷静だったようだな」
「どうして、その話を知ってるの?」
「筒抜けだから」
ふうん、と亜美は素直に納得している。
「窓端からじゃ、全然、見えなくて……。おかげで、鼻が潰れちゃった」
ふっと、ジョンが笑った。
「いい目をしている」
「そうかな?」
「その瞳は何だ?」
「手術をしたから」
「なぜ、光っている?」
「もしかして、この目が目立ちすぎる、って言うの?」
クインに指摘されて、そんなことを言われたのも、亜美が生きてきた中で初めてだった。
「暗闇で潜んでいないのなら、大した、問題じゃないだろう。なぜ、片目だけなんだ?」
「片目だけ、必要だったから」
そうですか、としか言い様のない返答だ。
「コンタクトもしてるのに、まだ光ってたんだ。そんなに、角度が変なのかしら?」
「ガラス玉は、コンタクト程度の反射で曲がるようなものでもない。そのコンタクトとて、度数が入っているのでもないなら、瞳に水を浮かべているようなものだから」
「そうだろうけど」
亜美は、手にしている香水のボトルとサングラスを、またバッグの中に入れていくようにする。
「私の目のことを何回も指摘されたのは、久しぶりだわ」
「それだけ、俺達が暗闇に潜んでいる、ということだろうな」
「そうかもね。でも、そういう生活も暗いわよね」
ジョンの口端が、微かにだけ上がっていた。
ゴトゴトと激しく揺れているジープの中で、猛スピードの速度が落ちずに急カーブをするものだから、その反動で、しゃがんでいた亜美が、吹っ飛ばされていた。
「――きゃあっ――」
シュッと、腕が伸びてきて、ジープの壁に頭をぶつける前に、亜美は掴まえられていた。
「……あり、がとう……」
クインの運転だけで、もう、こりごりである。
あの時だって、必死でしがみついていたのに、ゴツン、ゴツンと、結局は、何度も窓に頭を打ちつける羽目になったのだ。
「随分、冷たい体だな」
亜美を『ブロンディー』 と呼んだ背の高い男が、亜美の腕を掴まえていた。
「寒くないの? 極寒だもん、寒いでしょう?」
「いや」
「どうして、寒くないの? マッチョになると、寒さも感じないの?」
はあ……と、亜美が、なんだかそこで、嫌そうに溜め息とついてみせた。
「それは、なんだ?」
「だってねぇ……。あなた達って、世間では“αMale”とかって、呼ばれてるんだろうけど、私は、マッチョ系は、ちょっとねぇ……」
「“αMale”?」
「そう。テスタスタロンをまき散らして、マッチョな男達が揃って、ねぇ。もう、なんでもかかってこい、って言うやつよ」
ガタイがでかくて、見るからに筋肉質な男達ばかりに囲まれて、ちろっと、全員を見渡した亜美は、また、はあ……と、溜息をついてみせる。
「私は、そっち系はちょっと……」
「差別するな」
読んでいただきありがとうございました。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)
SaQo'laHbe'





