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play("epilogue/鴉、再びビルの上");

 今日も夜に沈んだ街の上を、鴉が一羽飛んでいく。

 仮想世界の街は、短い夜も我慢ならないと今日もネオンを光らせて、リディアが飛ぶのに十分なだけの光量を発していた。

 リディアは街の上空を滑空した後、地上十五階のビルの上に辿り着く。商業施設のその場所は、店の名の書かれた大きな看板を光らせて、営業時間外でもその存在をアピールしていた。

 その看板の手前、ビルの縁で、リディアは人の姿に戻る。細い肩ベルトの黒革のビスチェに、同素材のショートパンツ。その上には膝丈のチュールスカート。膝下を覆う革のブーツでコンクリートを踏みしめると、三角帽子からはみ出した栗色の髪がビル風に靡かせた。

 少女がす、と手を出すと、革手袋の指先に一羽の鴉が生まれた。カァ、と一鳴き。少女の朱唇がわずかに弧を描く。


「じゃあ、今日もよろしくね」


 鴉がまた一鳴きして飛んでいく。

 少女は縁に腰掛けると、(おとがい)を上げた。満月が浮かぶ先に、この街一番の高い建物が聳え立つ。地上三十五階から北と南の二つの塔に分かれたアカシャ・タワー。彼女は赤い瞳を懐古の色で塗りつぶし、建物を見上げていた。

 やがて、遣いにやった鴉が戻ってくる。


「それじゃ行こっか。お仕事しに」


 再び鴉を放した彼女は、両腕を大きく広げて宙空へと身を踊らせた。

 虚空を切り裂きながら、頭から落ちていく。ネオンの光に沈まんと、彼女の身体が沈んでいく。その途中、彼女の身体は、ネオンとは違う青白色の光に包まれて――

 光が消え去った頃には、少女の代わりに一羽の大鴉がそこに居て、もう一羽の鴉とともにビルの合間を駆けていった。

 目指すは、副都心の交通拠点――駅ビルの上。バグの発生したその現場。

 仮想世界にしか存在しない彼女は、今日もその役目を果たしにいく。

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