91 VIPルームへいらっしゃ〜い!
「イイよイイよ〜ミランダちゃぁん。もっとワシのために色々してぇー! ういっく!」
紅酒・ルビー・プレミアムをお飲み干しになり、すっかりテンションフォルテシモな太客様だった。
私も私だ。ノリノリでお尻振りまくってたら時間が停止しちゃったみたいになった。
目にも留まらぬ高速お尻振りで太客様を魅了し続けていたら、なんか稀代のスーパースター的扱い受けちゃったし。
「やっぱあんさんはこの業界背負って立つに相応しい人材やと思っとったで。これからもウチ……いや、世界のVIPに向けて稼ぎ頭になってくれ」
なんでだ。
たとえ世界が平和になっても嫌だぞこんなところでVIPのお方相手にお尻を振って終わる人生なんて。
幸せになりますけども私にだって選ぶ権利くらいありますから。
楽しくなってきたのも事実だけどさ。
あんまりにもみんながお客様・店員一丸となって囃し立てるもんだから引っ込みつかなくなっちゃったけどさ。
第一まだこの太客様お一人様しか相手にしてないからまだゼンゼン器物破損の賠償できてないし。
ダメ押しに無限を描くようにお尻を振りまくってたら、なんかスキルまで入手しちゃったし。
【スキルを獲得しました】
神速のダンサー
効果:【ダンス】系特技を使用する時に限り、必ず最初に行動できる
取得条件:1秒間に5000回ダンスする
備考:【すばやさ】の影響を一切受けない。
なんだこの意味がわからんスキルは。
というか1秒間にそんなに踊ったのか私は。
素早さ9999だとたまに未知の領域に突入するから危険だ。
暴走が始まってる。
私の狂った世界を元に戻さねば。
いい加減この尻振り芸じみた踊りを続けるのも飽きてきたので、そろそろ違う芸を覚えてやってみることにした。
「よし。ほんなら次はボトルドリンクチャレンジや。お客様のお好きなドリンクを注文してコップの中にお注ぎするんや」
程々にやらないとお客様の満足度を下げてしまうらしい。
私もいよいよ疲れてきたのか、とうとうそういうゲージみたいなのが可視化してしまうようになってしまった。
タイミングよくお酒を注げばゲージが伸びていく。
道中、太客様からのお尻触りや急に起き上がりによってグラスが揺れたりうまく注げなくなる事があり、中々に骨太な難易度になっていた。
ちょっとでもタイミングを間違えたらこぼしてしまい、ゲージが下がってしまう。
そんな時は拭いてあげるとゲージがまた上昇する。
しかし最終スコアは評価が悪くなる。
目指すは失敗:0のSランククリアだ。
諦めないぞ。頼んだお酒は客持ちなので、遠慮せずいくらでもお飲みになっていただける。
ただいつ立ち上がったり揺らすか本当に予測できないランダム性なので、これはもう運が絡んできてるんじゃないだろうか。
そんな時――再び私の中の第六感とも言うべき能力が研ぎ澄まされ、解放されていった。
まず目の前の世界とは別に浮かんだのが、太客様が横に揺れる光景だ。
最初意味がわからなくてとりあえず横に合わせて注ぐ仕草をとったのだ。
すると先程見た映像通りに彼が揺れて動くので、無事に溢さずにお酒を注げたのだ。
なんだこれは。
こんなわけわからないイベントこなしてたらいきなり未来視みたいなのに目覚めたぞミランダさん。
超覚醒が発現しちゃったけど大丈夫か。
しかしその後もこの未来視みたいなのに何度か助けられ、私のボトルドリンクチャレンジは初回にして大成功のビギナーズラックで幕を飾ることができただろう。
「うい〜ひっく。もう飲めないヨ〜お星様がひぃ〜」
太客様はすっかりご満足いただけたようだ。
彼の視界には見えちゃいけない虹色のお星様とか、空飛ぶお馬さんとかが見えてるはずだ。
そうなったら黄色信号どころか一発退場レッドカードだ。
すぐさまスタッフメンバーが太客様の暴れる前にVIPルームから連れ出した。
ちなみにそれは黒服さんが率先していた。相変わらず仕事が早い。
「おいっ。ワシはこのお方を外までお連れするが、あんさんはしばらく接客続けよけよ? 絶対やぞ!」
「は、はいっ」
そんな汗だくで重そうな太客様を引きずりながら凄まれても……。
まあいいさ。私もこの数時間で大分本番慣れしてきた。
ダンスも磨いた。お酒も注げる。オムライスにハートでケチャップだってかけられるぞ。
太客様にお尻触られても何とも思わなくなったし、どんな客でも私が一捻りで転がしてくれよう。
すっかりVIPルームの魔王になった私は次なるお客をお迎えすべく、ささっと入り口の前に張り付いた。
お祝いしますよ。せっかくのご来店だ。
心ゆくまでお楽しみいただけるよう力添えしますぞ。
願わくば金を。おひねりをいただければ。
ゆっくりと近づいてくる人影に合わせて、私はお尻フリフリ全開アピールで入店を祝った。
「いらっしゃいませ〜♪ カジノビッグドリーム・777、VIPルームへようこそ! 私はぁ本日やってきた新米ぴちぴちドリンクレディのミランダでぇ〜す! どうぞ楽しんでいってねぇ〜キャッ!」
「…………ミランダ、何をやっているんだ?」
「あぎゃあああああああああっ‼︎」
運悪くそこに立っていたのは我が盟友――勇者スラッシュくんだった。
タイミングはオールバッド。
絶体絶命。今生の終わり。終焉のカウントダウン。
審判は下された。
よりによってこの自分でちょっと考えたシラフでやるにはキツめのきもきも呪文詠唱やってる時に来た。
しかも魅惑で誘惑のけつ振りダンスフィーバーしてるタイミングで。
私の知り合いでなくとも目の前でこんなことやられたらまず店員と店の脳内を疑うレベルの奇行だったろう。
知り合いだったならもう完全にアウトだ。
普段からこういうことやってるやつなら「ヤレヤレ。まったくお前はぁ〜」などと酒のつまみにでもしてもらい、私も「テヘ!」とか頭コツンで舌でも出していればみんな笑って丸く収まったものを。
ミランダさんはお淑やかで心優しい、間違ってもこんなカジノのVIPルームで客引き腰振りなんかやるような人じゃないのだ。
私の悪ノリのせいで彼女の高潔で清純なイメージがどんどん瓦解していく。
数多の血の通う残虐な場面を目にしてきたさしもの勇者くんも、これにはただただ絶句するしかなかった。
ゾンビ映画でゾンビに死肉を食い散らかされる現場を目撃したそれよりも顔がひきつっていた。
いやひきつったまま時間が凍りついているようだった。
すごーい! このダンス麻痺だけじゃなくて【アイス】の状態以上にもできるんだねー!
アハハ!
もう笑うしかない。
何が最悪ってまぁこんな下品なダンスにきもきも客引き媚び媚び台詞も最悪なんだが、愚かにも私「ミランダでぇ〜す」などと源氏名すらなく本名名乗っちゃってるもんだから、これはもう言い逃れができない。
大体なにがミランダでぇすだ。
ミランダDEATHの間違いだろ。何考えてんだ。
ミランダじゃなくてせめてカトリーヌとかエルザとか名乗っていればまだ「声と姿は似てるけど限りなく赤の他人だな」とか思われたかもしれへんのに。
気心知れたパーティの仲間に、それもリーダー相手にこんな姿を晒すなんて。
罰ゲームだとしても重たいわ。
このレベルの罰は世界滅亡の片棒を担いだくらいだ。
穴があったら真っ先に飛び乗りたい。
そして可能ならこの場にいる全員を気絶させて何もなかったことにしたい。
凍ったまま動かなくなった勇者くんの後ろから現れたのは、同じくVIPになったジーカちゃんだった。
そして言葉こそ聞いていなかったが、私の姿を見つめて全てを察したように顔をしかめていた。
「じ、ジーカちゃん……い、いらっしゃいませ」
「……お前、何やってんですか?」
いつものギャグ調というより、大分冷めた態度のマジレスだった。
あああっ‼︎
心の喉がもう枯れたくらい叫んだ。
リセットさせてくれえええっ‼︎
ポーズした後リセットだ! みんなの記憶から抹消だ!
それができなきゃ自分を記憶喪失にしたい。
そうしてそのまま時が止まったように凍りついた空間を引き裂いたのは、太客様を無事お送りなさった黒服さんだった。
「何してんねんミランダ! はよお客様を席に案内せんか!」
「……? なんだこの男は。知り合いか?」
「えっ? あ、いやその。まぁここの人というか……」
「なんやお客さん。ごっつ若いみたいやけど。うちの稼ぎ頭になんか用かいな」
「……悪いが、彼女は俺たちの仲間なんでな。ここで解放させてもらうぞ」
「あぁ? イキがんなやガキが。大体ほんまにあんたらVIPなんか? どー見てもその辺のガキやないか」
早くも気の強い2人が火花散らしあっていた。これはまずい。
「失礼でやがりますねほら! ちゃんとジーカたちはVIPでこのミランダの仲間でやがりますよ!」
「じ、ジーカちゃん……!」
こんな尻振りマシーンの変態に身を落とした私を見ても「仲間」と呼んでくれたことに、私は歓喜の涙を浮かべざるをえなかった。
しかし純然たるVIPの証明を見ても黒服のお兄さんはまだ疑わしげな様子で、私の方に掴みかかってきた。
「あんな。このお嬢さんは借金しとんのや。ここで働いて返さないかんきまりやねん。いくらあんさんらの仲間やVIPや言うてもな」
「ならその金を俺が払おう。いくらだ?」
「笑わせんなや。なんぼコインがあっても払うた扱いにはならへんで」
そうだ。だからここから抜けるには現金を持ってくるしかないのだが、それは私が全部使い切っちゃったからできないのだ。
だから今は私がやっちまった分を稼ぐしかない。
そう思っていた矢先、勇者くんの口からとんでもない発言が飛び出してきた。
「……なら俺たちも一緒になって稼ぐ。3人で働けばその分早くミランダを解放できるだろ?」
「へっ⁉︎」
「ん? なんですか? ジーカここで働くですか?」
黒服さんはぽかんと口を開けた後大笑いをしていたが、すぐにスラッシュくんの真剣そのものな目つきを見て黙った。
こうして何故か私たちは3人で借金を返済すべくVIPルームで一緒に働くことになってしまったのだ。
ほんとどうなるんだこれ……!




