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90 私、VIPルームで稼ぐ。

「あれ。おかしいな、ここはどこでしょうか」


 激しい頭痛と共に数分前の景色を思い出してみる。

 虹色、レインボー、スロット。……うん。

 何もわからないに等しいな。

 でもなんでスロットなんかやってたんだろう。

 あれは大敗の未来しか見えないからもうやらないと心に誓ったはずなのに……。

 なんかジーカちゃんがめちゃくちゃ私を呼んでいた記憶が……


「おい。目ぇ覚めたかお嬢ちゃん」


 ギョッとなったのはそこに立っていた黒服のお兄さんだ。

 顔に傷が入っており、口元には火のついてない葉巻が咥えられていた。こわい。

 なんかもうどこからどうみてもそういう人にしか見えない。

 失礼だが、白い粉を元気の出るお薬と称してバラまいたり、人を奴隷貿易船に乗せて他国に密売してる組織の人にしか見えない。

 実際その読みは当たっていたようで、彼は私にとんでもない事実を告げてきた。

 あの日私は偶然注文した水(お酒)の勢いに任せてスロットにゲロし、挙句酔い潰れてマシーンを破壊したのだという。

 まず穴というものがあったら顔面を勢いよくドリル状に突っ込ませたいくらいの恥事だったが、目の前の男はそれを許してくれなかった。


「てわけでさっさと支度しいや。これから稼ぎに出てもらわないかんで」


「ちょ、ちょっと待ってください! か、稼ぎって何を……」


「ついてきゃ分かる。ええから黙って歩けや」


「あ、あの! スロットの事でしたら私謝ります。謝りますしお金持も払いますから!」


「あんさんのどこに払える金があるんや」


「へ?」


 現在――ミランダさんの所持金0G。


 …………すっかり忘れてた。

 魔の100コインスロットに飲まれるだけ飲まれて全財産なくなってたんだ。


「い、いやあのですね⁉︎ コインもありますし!」


「じゃかあしゃ! つべこべ言っとったら脳みそぶちまけるで!」


「ひい!」


 めちゃくちゃ怖い!

 怒られる理由もわかるけど!

 こことんでもない裏カジノだった!

 黒服のマフィアに年中命を狙われてる!

 怯える私を見て彼はため息をついて葉巻を口元から離した。


「この世界ではな。払えなかったら男はコンクリ、女は稼ぎって相場が決まってんや」


 怖すぎるだろそれ。

 ファンタジーの世界で出していい常識じゃねぇ。

 渋々私は彼に連れて行かれるまま、カジノの奥深くにまで誘われて行った。


「ここは――?」


「VIPルーム。金持ち貴族の〝お楽しみ〟の場やな」


 豪華絢爛なカジノの中でも、一段とド派手な極上の世界。

 天上の人間のみが入ることを許されたこの世の楽園。

 まさしくVIPな方々に相応しい一面金と道楽に満ちている夢のような空間だった。

 所々に設置された黄金のライオン像からは金の水が流れており、壁には悪趣味な色できらきらと輝き続けている薔薇型のランプが掛けられていた。

 スロットマシーンも人間ひとりがやるには大きすぎるほどの物がフロア中央にどんと置かれており、虹色の電光掲示板が光ると大量の金をそこら中にバラまいていた。


「とりあえずその服に着替え。ワシの指示があるまでこっから一歩足りとも動くなよ。ええな? 間違っても逃げようなんて小賢しいマネしたらその身体、一生傷モンになると思いや」


 なんというかこの人は発言も全て怖い。

 そんなこと言われなくても逃げませんよ絶対。

 てか逃げたら地の果てまで追いかけてきて殺しにきそう。

 そんな彼も遠くでお偉い方にぺこぺこと頭を下げているところをみると、彼もまた歯車の一部に過ぎないのだと知り、世界の広さと縦長の社会構造をひしひしと痛感するばかりだ。

 とりあえず言われた通り服でも着……


「な、なんじゃこりゃあああ!」


 それはまた、なんとも悪趣味な空間に相応しいドキつい服装だった。

 全部がキンキラキン。目が潰れそうだがそこはいい。

 問題はそれがウルトラスーパーハイレグレオタードなのと、黒い網タイツであることだ。

 さらにお尻の部分には謎の突起物までついており、やたらぶかぶかとでかい。

 地味に胸の部分もめちゃくちゃ薄い。ぺろっとしたらそれこそ全部丸見えになるような。

 なんだこれは。世に言うキャバクラとかはこういう恥辱に満ちたバカバカしくも破廉恥な格好をして客に愛想を振りまくお仕事なのか?

 私だったら耐えかねて1日で辞めてしまいそうだ。

 客に何かされる前に自分の羞恥心で押しつぶされて死んでしまいそうだ。

 やがて彼がまたこちらに走り出してきた。


「なにしとんじゃはよ着りや」


「あ、あのこ、こここれは」


「それは〝コスチューム〟や。ええか? あんさんは今からそれ着てあちらにおわすVIP様方に笑顔でお酒注いだり、注文に応えたりせなあかんのや。とりあえずその借金分、身を粉にして働いてもらうで。自分の不始末は自分でつけりや。なんか分からんこと言われたら即座に近くにおるワシを呼べ。ほら行け」


「わ、わ、ちょっとそんな急に」


 背中を押され、戻るに戻れなくなってしまった私はもう進むしかなかった。

 なんとかこの下劣な装備品を身につけ、早速ご来店くださった太ましいおVIP様のところに向かった。


「あ、あのぅ……い、いらっしゃいませ?」


 右も左も上も下も分からない新米バニー(?)の私は、そんな風に不自然でぎこちないウインクを重ねるしかできなかった。

 太ましいお客様(通称太客様)は、3段腹なんて目じゃない前人未到の6段に腹をぷよぷよとお餅のように蓄えており、ド派手なVIPにお似合いなド派手な真っ赤な光沢を放つスーツ、そしてスーツの色に合わせたズボンとブーツを着用していた。

 頭部はやや先端を湾曲させたナシのような形をしており、髪の毛は潔く一本たりとも生えていなかった。

 しかし中年男性特有の脂ぎった頭ではなく、むしろ乾き切ったサハラ砂漠であったため、幸いキラキラした光に照らされて頭が眩しいことにはなっていなかった。

 顔全体は無毛のドライタマゴだったのだが、長袖のスーツから除き見える腕毛と手の毛はもっさりとしており、正直この1割でも頭に持っていってあげれば見栄えがつくのにと嘆かざるを得なかった。


 私の演技指導もろくに受けてない新米過ぎるダメダメな対応にも、彼はそのふくよかなお腹とお顔を揺らしてニンマリしていた。


「イイ! このコ、すっごくイイよ! ワシの孫娘にするんじゃ。わーっはっはっは!」


「……へ、へっ?」


 すると影から物凄いスピードで黒服のお兄さんが飛び出して私の頭をごついた。


「(アホ! お客様がお笑いになられた時はあんさんも合わせて笑うんや! 何言うてきても『そうですね』か笑顔だけや! スマイル忘れたらあきませんで!)」


「は、ははは、はははは」


 黒服さんは私のぎこちなさ100%満載の怪しげなスマイルに物申したげな様子だったが、それさえ気に入った太客様によって私は肩に手をかけられ、ホイホイとやや大きめのソファーに連れて行かれた。

 ドスンとお尻をソファーの上に軋ませ、私を隣に座らせてくれた。


「おーい。お酒くれんかお酒。ルビー・プレミアムがええぞ」


「はっ。ただいま」


 側にいた店員さん(男性)が、注文を聞きつけると即座にカウンターに向かっていった。


「あ、じゃあ私もおつぎに……」


 そう言って立ちあがろうとした瞬間、しわしわの枯れた手で掴まれ、ソファーに沈められてしまった。


「キミはこっち。そうじゃ。キミここは初めてかね?」


「えっ、あ、はい。初めてです……」


「むほーっ。そうかそうかじゃワシがキミの初めての客になるんじゃね。ええと」


「あっ、みみミランダです」


「ミランダちゃん! もしよかったら是非もない事ワシの孫娘に――」


「お酒をお持ちしました」


 とんでもない方向に話が進みそうになった瞬間、それを遮るように店員さんの真っ赤な飲料の入ったワイングラスが届けられた。

 私的には助かったが、太客様はお楽しみを邪魔された事で大層腹を立てているようだった。

 露骨に男性と女性相手でガラリと態度が違っていた。

 周囲にも分かるほどの音量で舌打ちし、邪魔者扱いをして従業員を追っ払った。

 上客の不機嫌さをいち早く察した黒服のお兄さんが駆け寄り、私の方に小声で耳打ちした。

 いやこの人察するのも来るのも早すぎでは?

 気遣いのATBゲージが常時ヘイスト状態になってるぞ。


「(おいっ! 何してんねんはよご機嫌を取らんかい!)」


「(ご、ご機嫌って……な、何をすれば良いんですか!)」


「(アホ! 女がやれることと言えばケツ振って媚を売ることくらいや! とっととやったれほら!)」


「あっ、えっとじゃ、じゃあ……」


「う〜ん? どうしたのぉミランダちゃん」


 言われた通り私は太客様の前でお尻を突き出し、円を描くようにふりふりと腰を振ってみた。


「おお!」


 太客様は先程の怒りは何処へやら、完全に上機嫌に戻っていた。


「(なんやそのへっぴり腰は! もうちょっと優雅にやらんかいボケ!)」


「(よ、喜んでくれてるんだからいいじゃないですか〜)」


「(たわけが! お客様毎に満足いただけるようにならんでどうする! 相手にせにゃならんVIP様はこの方1人だけやないんやで?)」


 そうは言っても今までこんな恥ずかしい格好で重い装備をつけたままこんな事した経験がないのだ。

 蜂だかなんだかの求愛行動の誘う踊りみたいだ。

 なんかゲームだとボタンマークと一緒に「タイミングを合わせてお尻をふれ!」みたいな最低なアナウンスが出ているんじゃないかな。

 一先ず音楽のリズムに合わせてお尻を右に左に振っていく。


「ブラボー!」


 ますます上機嫌になった太客様は手を叩いて興奮なさっていた。

 黒服さんも「できるやんけ」みたいな表情と腕組みの姿勢で見守ってくれたからこれでいいんだろう。


【特技を習得しました】


「こんな時に⁉︎」


みつばちダンス

効果:虫系モンスターの動きを止める魅惑のダンス。たまに麻痺させる事がある。また、人間相手にも有効。


習得条件:VIPルームで【ダンス】を行いノーミス。



 初めのあれはミス判定にならないのか。

 随分良心的な特技習得だ。

 というか百歩譲って虫系に有効なのはまだ分かるが、人間相手にもってなんだ!

 しかしまだこれで終わりではなかった。

 私は更に太客様と相手に色々させられることになっていた。

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