87 私、ポーカーで遊びます!!
「も、もうお金が無くなっちゃった……!」
悪魔のスロットマシーンに30万回以上も金をコインとして食い物にされ、いよいよ私たちは無一文と化してしまった。
僅かに残ったコインもたったの1200枚。
つまりあと12回しかスロットは回せない。
勇者くんからは「スロットからはもう手を引け」というような表情で見られているからもうそれもできない。
「あんさん、蛇に食われたんやな……」
黒服のディーラー・ガンブルさんがにやりと金の歯を剥き出しにして邪悪に微笑んだ。
ま、まさか。
ここまでのあたりも全て店側の誘導工作か!
1コインスロットに当たってホクホクなスロット初心者をはめるために作成した罠なのか!
今思えばあのゆっくり見える台もなんとなくおかしいと感じていた。
罠だった。全ては強欲なカジノ従業員が利用客から金をせしめるための。
私はまんまとその罠に首どころかそのまんま腰あたりまでどっぷり突っ込んでしまったのだ。
嗚呼! コインに溺れ、欲に負けた罪深き私をどうか許してくれ……。
今はディーラーさんの不気味な笑い声といやらしい顔つきが憎い。
しかし過ぎたことを考えていても失った金やコインが帰ってくることは未来永劫ないので仕方がない。
こてんぱんに搾り取られた悪魔のスロットを後にし、次こそは健全にポーカーでも嗜もうか。
ポーカーは最初に賭け金を1〜10枚設定し、配られた絵札の出来た役による倍率に応じた金額が舞い込んでくるというゲームだ。
もっとも出しやすく倍率も最底辺なツーペアが賭け金の2倍。
ストレートあたりで20倍。
天下稀に見る最強の役・ロイヤルストレートフラッシュで100倍だ。
つまり、どう多く見積もっても1WINにつき1000枚しかコインを儲けることができない。
ワンペアが出ないことの方が6割強の時点で、スロットほどではないがこちらも大して当たりにはよろしくない。
――が、ポーカーのみ他とは異なる最大の利点がある。
それが通称『ダブルアップ』というゲームだ。
何でもいいから役を揃えてWINすると、今度は手札にあった左端のカードを一枚所有することを許され、残ったカードを全てディーラーが回収し、シャッフルする。
そして完成した山札の上のカードが、所有しているカードより数字がハイかローかを当てるというシンプルな駆け引きが発生する。
この時見事ハイアンドローを命中させると、勝利して得られるはずだったコインを2倍にし、その後ゲームを続行するか降りるか選べる。
この時降りればそのまんまコインを全額貰える。
続行すると今度はハイかローを言い当てた敵側のカードを一枚所有でき、再びシャッフルされてまたその繰り返しとなる。
勝てば更に倍になった金額がまた倍になる。
しかし負ければそれまで勝っていたコイン全てが0となり、ひとときの夢は水の泡と化す。
欲の出しどころと勝負際を見極めるのがこのゲームで損をしないコツだ。
またこのダブルアップの前提となるポーカーゲームも、役の出なさはスロットほど意地の悪いものではないため、結構な確率でダブルアップの機会には恵まれる。
上手く当て続ければ2倍が2倍になっていき、とんでもない量のコインに早変わりするというわけだ。
どのゲームもギャンブルなので失うリスクはつきまとうが、こっちは魂がひりつく勝負で積み立てていく感じがする。
自分で当てた分を増やせるというのが最大の魅力だ。
ちなみに引き分けの場合はシャッフルしてもう一度勝負となる。
相手にJOKERのカードが出た場合は強制シャッフルとなる。
左端のカードがJOKERだった場合、勝ちの基準はどうなるのかというと、JOKERはあらゆるカードに勝利できるマスターカードという扱いになっている。
よって初手で左端にJOKERを抱えたまま役を揃える事ができれば、初回ダブルアップに限りほぼ確実に勝てる。
さらにそこからKの13など出れば確実に以降の数字は「ロー」か「ドロー」になる。
役の強さは普通にA〜10、そしてJ、Q、Kと順に強さが決まっている。
Aが一番弱いカードで、JOKERを除けばKが一番強いカードだ。
基本的に大きい数字のカードを得たら「ロー」、それ以外なら「ハイ」と言っておけば大抵勝てる。
6〜8あたりは微妙なので降りて安全に金を獲得すべきだ。
完全なる運要素より少しだけ頭を使う余地があるだけスロットより良心的だ。
2枚のJOKERの扱いには気をつけなければならないが、基本的に相手から出ない限りこちらにとって不利な要素は特にないので来たらラッキーと考えよう。
「お願いします」
「ハァーイ! よろしくね子猫ちゃん」
バニーさんが化粧きつめの顔でお色気ムンムンな投げキッスを飛ばしてくる。
やめろ。私にそっちのけはない。
それからその厚化粧に黒いマスカラはやめた方が良い。
鬼婆の不気味な形相に見えてくる。
賭け金をとりあえず最大の10枚に設定し、チップをテーブルに突き出す。
そして彼女のしなやかな細い指によってカードが配布されていく。
右から順にスペードの10、同クイーン(12)、同ジャック(11)、クローバーの6、スペードのキング(13)
これが現状私の手札だった。
配り終えた後、プレイヤーはカードを交換するかしないか選ぶことができる。
交換は各ターンにつき1回のみ。
交換できる枚数に制限はない。
……と、よくよくこの手札見てみたらクローバーの6以外ロイヤルストレートフラッシュじゃんか‼︎
おおおおおお、おいおい。
こんな奇跡あるか⁉︎
と、とりあえずこんなのクローバーの6を交換するか無いじゃんこれ。
大胆にも交換宣言し、再度配布されたカードを刮目した。
スペードのA(1)。
「ハイこれきましたぁあああ‼︎ 私のロイヤルストレートフラッシュをくらえ‼︎」
叩きつけた。それはもうバン!て感じで叩きつけた。
ちなみに配られた順番とかは関係ない。
基準はカードが揃っているか否かだけである。
少々並びが美しくないが、勝利こそ美しい。
スペードのスートたちよありがとう。
これにて獲得金額は1000コイン。幸先が毎度良すぎる。
「ではぁ、ここからダブルアップしますか〜?」
「オフコース!」
しかも左端のカードはK、つまり13。
こいつに勝てるカードはJOKER一枚のみ。
初手でJOKERが来る可能性、2/54。
たった3%じゃないかははは!
同率キングが王国の覇権を争ったとしても、4/54。
合計で6/54。
11%しか勝利できない可能性はないぞ!
89%もあるのに外してたまるかよ!
「ハイ・アンド・ロー?」
「ローッッッ‼︎」
開示されたカードはハートの2だった。
よっしゃ。引き当てたぞ89%。
しかもこの次も同じ確率でほぼ勝ち確。
2000枚となったコインをうっとりしながら舌なめずりして眺めた。
「ハイ! ハイ確定ハイ!」
スペードの2
「いや嘘でしょ?」
勝ち確宣言から虚しく一瞬にして無情なシャッフルの嵐が突き抜けた。
新たに配られたのはクローバーの5。
5ってすごい微妙だしすごい不吉だ。
ええい落ち着け5より強いカードは8枚。59%は「ハイ」で勝てる。
同率と強制リセットのジョーカーを入れれば41%は勝利できない。
だが引き分けを頭に入れないなら29%くらいしか純粋な負けは存在しない。
ここも強気でいかせてもらう!
「ハイ!」
そうして配られたカードは見事、ダイヤの「6」だった。
あ、あぶねー。見た瞬間心臓が止まったぞ。
ぎりぎりじゃないか。
しかしそれで2倍になり4000になったところで、この次またローかハイかを当てるのは至難を極める。
よってここは素直に撤退だ。
安全に4000コインを回収する。
くっ。まぁいい。まだまだ私たちの冒険はこれからだ!




