86 魔の100コインスロット
【お詫び】
何故か所持金60億になってたので修正しました。
100コインスロット。
それは多くのものが夢破れて花散った魅惑と破滅の世界。
なぜならこのスロットは賭けられるコインが最高金額であり、得られるものも多いが、失うものも多いからだ。
ハイリスクハイリターンとはまさにこのことで、今日も100スロの前には「ふざけるな!」と怒り混じりの大泣きで台パンするおじさんがいるのだった。
火中の栗を拾わば身までの勢いで投資していったある者は破れ、ある者は勝ち残って笑う資格を得る。
欲望の果てに行き着く先は敗北の苦渋か勝利の美酒か。
それは運という名のスロットの神に選ばれた者のみぞ知る。
「お客さん。100コインスロットは初めてでっか?」
えらく怪しげな男がぬらっと私の隣に顔を出した。
胡散臭い声と顔つきとは裏腹に、服装及び左胸にかけられたネームプレートから彼も歴としたカジノ従業員だということがわかる。
左右に細く伸びる狐のような目がより一層怪しさを醸し出している。
「え、ええ。一応……」
「そうかそうか。そらえらいハナシや。なんせここは一攫千金の大チャンスが待ち受けとるごっついマシーンやからな」
「何でやがりますかこいつ」
「おっと。自己紹介が遅れましたわ。ワシはディーラーの『ガンブル』言います。へへっ。ギャンブルちゃうで似とるけどな。あんじょうよろしゅうたのんますわ」
「……なんか変なやつでやがりますね」
ガンブルさんはここでスロット初心者に色々なことを教えてくれるナビゲーターのような人だった。
こんな強烈な個性のネームドモブは見たことがない。
100コインスロットだけやってなかったか、新規追加NPCか。
「このスロットには蛇がおる……油断しとると呑まれてまうで」
「中にモンスターがいやがるですか! やっぱりインチキしてやがったですかてめーら!」
「わ、わわおお、落ち着きや嬢ちゃん。今のは例えや! そんくらい覚悟しとかんとあり金ぜーんぶ食われちまうちゅー意味や!」
「じゃあ中開けて確かめさせろです。中に金食う蛇がホントにいねーかどうか」
「へへっ。お嬢さん。いくらあんさんらがVIPになろーと、大事な大事なビッグ・ドリーム777のお客様やろーとそれだけはあきまへん。企業秘密やゆうてですね。ご理解のほどをよろしゅうたのんますわ」
「やっぱこいつ怪しいですよミランダ」
「じ、ジーカちゃん。ここで暴れるのはまずいですよ。とにかくご忠告ありがとうございました」
そうして私は慎重に100コインを投下していく。
専属ディーラーが付くだけあって台も1スロとは比べ物にならないほど豪華だ。
金に縁取られた絵柄が火を吹くように飛び回る。
さっきまでゆっくりに見えた奇跡も、ここ100コインスロットでは発動しなくなってしまった。
夢を見る時間はここで終わりという意味だろうか。
鈴やスイカに葡萄の柄が乱舞するものの、3つの当たりはなかなか起こらなかった。
すごい。さっきまで大量にあったコインがあっという間に半分切ったぞ。
「それが沼や。あんさん、蛇に睨まれたらもうその沼からは抜けられへんで」
何をバカな。
まだ10000コインもあるのだぞ。
ほらみろ。ようやくスイカが揃ったぞ。
これで300コインも獲得だ。やったね!
あと3回もできるよ!
ほれほれまた揃ったぞスイカちゃん。
やっぱりツイてるんだ今日の私。
この調子で負け分を取り返せるぞ!
◇ ◇ ◇
「ざ、残コインが尽きた……?」
投入に投入を重ね、幾多もの「当たり」と「ハズレ」が交差し一喜一憂を遂げていた頃、すっかり夢が終わってしまった。
え、なんでだ。何でこうなった。
さっきなんか倍率高め(20倍)のバナナまで揃ったんだぞ⁉︎
だいぶ負けを取り返していたはずなのに……!
おかしい。こんなはずない。
「どうするですか。もう金ねーですよ」
「ノープロブレム。追加金しますから」
受付のお姉さんに話して今度は10万コイン(5億G)を手に取った。
なぁに1700億のうちほんのはした金ですよこんなもの。
あと34万回もできるんだぞ。
これで外す訳がない。また777を揃えてフィーバータイムで次のコインは500万だはーっはっは!
金に糸目はつけぬ。ジャラジャラとコインを投入していく私を見てガンブルさんはほくそ笑んでいた。
「そうやって何人もそのマシーンに夢を喰われていったのをワシは見とんや……ここにきてずっとな」
ふふ。何を寝ぼけたことを言っている。
敗者たる彼らなくて私にあるもの。
それは金だ。金と多少の運命力。
これまで多くの化け物、負けイベント級の怪物と渡り合ってきたのだぞ。
こんなスロットマシーン如き敵でもなんでもない。
それを証明するように開幕からスイカが3つ揃った。
幸先がいい。失った20000なんてすぐ戻る。
「アハ!」
存分にコインを吐き出すといいね。
リーチやリーチ!
私は勝つ。勝ってアイテムを手に入れる。
いや、アイテムなんかではない。私が手に入れるのは勝者たる消滅。
一握りの強者で照射たり得る人物だけが味わえる栄光。
私は勝つ。勝つために打つ。
「連チャンだ! 連チャンの大当たりだ!」
バナナが2回連続で揃ったぞ!
ほれみろ。これでマイナス15000から11000だ!
こんなものは株の初期投資にもならない痛手だ。
むしろこの程度のマイナスで根を上げていては逆に当たった時申し訳ない。
ジャンジャン金を吐き出せー!
全ては夢と野望のためじゃあああ‼︎
「お、おい。もうそろそろやめるです。ミランダ目が変わってるです。血走ってやがります」
「今いいところなんですから! 7が呼んでるんですよ⁉︎ 私を手招きしてるんです‼︎」
「いや。どこ見てるですか本当。早く戻ってきやがれですこのこの!」
ジーカちゃんは初心者だから。
大局を見るという経験がまだ浅い。
勝負というのは気長に、されどそれでいて敏感に、機敏隙を伺ってチャンスを掴み取るもんなのだ。
さあさあ千両万雷、私は全てを手に入れる!
他の何を犠牲にしても勝つ!
勝ってみせるぞ‼︎
《コインが無くなりました》
「なにぃ! 10万投入したはずなのにっ。くそ! まだまだはした金を使い切っただけのこと! 狼狽えるなぁ! ここから逆転ですよぉ!」
大金を抱えて私は更なるドリーム実現に向けてスロットを回した。
「あー。もうあきまへんですわ。この姉ちゃん、沼にハマってしもうたみたいやわ」
タバコを指に挟み、ガンブルさんは息を漏らした。
「二度と這い上がることの出来へん沼の底に沈んでもうたんや」
その後も不幸が続きに続いてしまい、あっという間にあり金全てコインに変わってしまい、その変換したコインもたったの1500枚までに落ちぶれてしまった。
「は、は、破滅だあ……!」
何故だ。何故こうなった。
1700億だぞ! それが一瞬で……。
背中の筋からざわざわと寒気がする。
全てが終わりに向かってガラガラと崩れていく。
「だ、だめだぁやめられない……! 抜けられない!」
破滅! 地獄!
この世の終わりに、沼の底に沈んでしまった。
待っているのは勝利などではない。
むしろその真反対の、もう取り返しのつかないところまで来てしまっている。
あああ止められない! 止まらない!
許してくれぇ。こんなダメな私を許してください!
「いや。スロットマシーンを止めれば良いだろう」
スラッシュくんの渇き切った声でようやく私は負の沼からの脱出に至った。
現金はとうとうすかんぴんの0G。
残コインは1200枚。
商品を得るどころか、下の下の地の果てにまで落ちてしまった。
ど、どうすれば……!




