82 私、お使いです!!③
マギアージュの魔法使いお姉さんに頼まれた3つのお使いアイテムのうち、最後の【フィロソフィーソイル】はちょっと険しいグランデ火山にある。
しかもその辺の土で良いわけではなく、よりによって一番危険な火口付近の土なのだ。
炎系モンスターによる攻撃は無効化できるから良いとしても、踏み外したら最後――マグマの海にドボンかもしれない。
何故賢者様はこんなところのに土をお作りになられたのだろうか。
それとも賢者みたいに魔法のような用途があるからそう名付けられたのか。
土だけでなく、この火山にはさまざまな鉱物が拾えたりする。
その辺に落ちている【灼熱の火山岩】は投げつけるとグループ敵に爆発ダメージを与えられる。
一見使い捨てのクズアイテムに見えるが、用途はそれなりにある。
例えばこの先のストーリーで登場する魔法が一切使えなくなる地帯にて、よりにもよって物理耐性がえらい高い化け物が嫌がらせのようにひしめいているので、そいつらに向けて投げつけてやれば楽々進めたりする。
設定ミスなのかなんなのか、相手さんも守備力9999とかじゃなかったっけ。
今の私でも楽勝にはならない硬度を公式エネミー(しかも雑魚)が採用するとか頭おかしい。
代わりに属性攻撃耐性はゼロ。なおそういう敵に属性付与物理の『火炎斬り』とか使ったらどうなるのかというと、属性付与分の増加ダメージ-敵防御力値(9999)が割られたり引かれたりするので結局魔法以外ではダメージがほぼ1か0になるという寸法だ。
『魔法』都市マギアージュが一番目立つ地方なのにそういうことしてくるのだ。
ここでダメージソースとなり得る資源を集めておくのも一興だ。
「熱ぃな……しっかし」
まだ活火山一階のフロアだというのに、もうそこら中から熱波がムンムンと漂っていた。
ちなみに実際の火山の内部ではありえない構造になっているが、そこはファンタジー特有の魔法理論謎理論でご理解いただきたい。
突っ込んでたらキリがない。
炎耐性はあっても熱いものは熱いということだろうか。
私もなんだか蒸し暑くなってきた。
汗で防具とか張り付いて気持ち悪い。
「誰か水持ってねぇか……?」
「ポーションならありますけど……」
「よしミランダ、それくれ」
「いや何でですか冗談ですよほら」
ダメージも受けていないのに、喉が渇いただけでポーションを一気飲みしようとするとは。
ファンタジーといえど一応マックスさんたちは人間なので、定期的に水分を補給しないと死んでしまう恐れがある。
反対に火なんて火山なんて何のそのな龍人ジーカちゃんは、むしろマグマ石を食べようとしていたくらいだ。
「火傷すんぞ……」
「こんなの昔みんなで入ったお風呂に比べりゃ温いです」
ああそういえばお風呂でそんなこと言ってたね。
肌が焼けるような熱風こもる地獄にいても、彼女だけはピンピンしており軽快にステップを踏み鳴らしていた。
そこへ地面からこれまた暑そうな敵、炎を纏し百足『ファイアーセンチピード』が複数で顔を出してきた。
「ミランダさーん。ブリザードよろしくー」
「『ブリザード』」
周囲は炎天下から氷河期を迎えたように凍りつき、炎百足たちは1匹残らず砕け散った。
ちなみに炎属性と氷属性は互いに互いが弱点となっている。
氷なんかはそれこそ絶対零度以下になれないため、無限に温度が上昇していく太陽なんかに代表される炎には一生勝てないと私なんかは思ってしまうのだが、この世界では相互作用らしい。
炎は氷を溶かし、氷は炎を固める。
弱点がわかりやすいのは非常にありがたい。
ブリザードのおかげか心なしか涼しくなってきた火山を、足取りも軽やかに登っていった……。
「ぜ、ぜんぜん涼しくならねぇぞ!」
上に行けば行くほど、マグマやら火の海やらが流れ出るフロアに変貌していった。
すでに全身がとろけるように熱い。
私たちから溢れ出る汗が地面に当たってジュージュー蒸気を立てている。
焼け死にそうだ。
ジーカちゃんはそれでもマグマに片足突っ込むという世界トンデモ百景じみた奇行を繰り広げていたが。
「なんでぇこの火山ちっともあったかくねーですよ。もう冷え切っちまってるんじゃねぇですか?」
「ど、どうなってるんだよお前の身体……」
「てめーらだらしねぇですよ。それでも勇者とその仲間たちでやがりますか」
ごもっともな意見だが、無茶を言うなと思ってしまう。
こんな時スライムとかどうなるんだろう。
一瞬で溶けて蒸発するんじゃなかろうか。
そんなこと考えてたら本当に生きた溶岩『マグマスライム』が襲ってきたのでびっくりした。
でろでろの灼熱のボディを擦り付けてきたが、耐性故見た目ほど熱くはなかった。
しかし何故だか知らないがめちゃくちゃ汗をかいてしまった。
後半から私、スライムに身を蝕まれすぎて身体半分以上マグマスライムの真っ赤な液体に浸かっちゃってしまったし。
耐性が無いものには地獄であるに違いない。
そうして見るからに熱そうなフロアを超えていくと、ようやく目的地たる火口の付近にまでやってこれた。
ここから落ちればすぐ目の前がもう火山の深部なので、放たれた熱気も今や最大級のものになっていた。
マックスさんが夏場に放置されたアイスクリームみたいになってる。
とっとと土壌を掘り出して帰れねば。
あの女性は内部と言っていたが、厳密な内部にあるわけではなくこの火口付近に存在する。
光り輝く土……もう目に入った汗がきらきらしてんのか土が光ってるのかわかんなくなってきたぞ。
「あっ……ねぇねぇあれじゃない?」
マックスさんに負けず劣らず溶けているレイブンさんが指差した。
その先に少しだけ周囲と色が違い、きらきらと輝いてる土があった。
「あれですね……ぜぇぜぇ」
「お、おいミランダ。気をつけろよ。落ちたら洒落になんねぇぞ」
「は、はい……わかってます」
暑さでやられ、どっからみてもふらふらな足取りをしていたのでそう不安を与えてしまったようだ。
一応まだ歩ける。
これを手に入れてとっとと帰路につき、冷たいもので一服してやる。
【フィロソフィーソイル】を手に入れた!
ふぅ。これでようやく長い長いお使いの旅が終わ
そう気を抜いた途端――
踏み出した味が地面にめり込み、そのまま滑るように大地が崩れていった。
突然起きたその変化についていけず、バランスを崩してしまった体が火口に向かって落ちていく。
「ミランダ‼︎」
やばい。死ぬ。
スラッシュくんがそこへ走り込み、必死に私の方に向けて手を伸ばしてきてくれた。




