81 私、お使いです!!②
第一の関門【マンドラゴラの根っこ】を入手し、順風満帆の帰路についた私たちだった。
もうすっかり夜になってきたので、洞窟の外でキャンプをすることにした。
今回の具材は……やっぱり苔?
「なかなか味があってうめーですよ。食うですか?」
「いや……いらないけど……」
とうとう抑制を振り切って苔を口にしていたジーカちゃんだった。
そこそこいけるというようにむしゃむしゃと苔を食べていたが本当に大丈夫なんだろうか。
腹痛になっても責任は取れないぞ。
私たち人間は、レイブンさんが波止場で購入していた海の幸をふんだんに利用した海鮮シチューを味わっていた。
まろやかな牛乳のクリームが、貝の身の渋みと合わさってなんともまた上品で贅沢な味わいとなっていた。
もうすっかり母親の味がレイブンさんの手料理の味に早変わりしていた。
……将来結婚するならこういう男がアリかもしれないな。
苔を食っていたジーカちゃんもいつの間にか食事に参加し、美味しさで身震いしていた。
食事を終えると、焚き火の火を消して全員が眠りについた、
翌朝になると、いよいよ私は庭園のドーピングアイテムたちを集めて、攻撃力と魔法力を『9999』に上昇させることができた。
これで攻撃面・防御面において一先ず最強のミランダさんが完成した。
だがこれで彼女の旅路が終わったわけではない。
むしろ始まりに過ぎない。
死別の未来を回避するためには、まだまだやらねばならぬことが山のようにある。
次は耐性と回復魔力、それからMPだ。
特技もあるだけ充実させておけば今後の戦いで有効活用できるし。
金のなる木は一本900億になり、これで全額合わせて2700億Gになった。
絶対城くらいは余裕で建てられる。
というかこれどんだけ持てるんだお金。
インフレも行き過ぎたほどゼロの桁を間違えている所持金だが、これを1000億埋めてまた次回に回収する。
つまりこれで6時間後に一本3兆G……?
それが3つで9兆……ひええええ。
なんか段々お金の感覚が麻痺してきた。
100億と言わずいっそ1000億払って船を従業員ごと買うか。
凄まじい総資産を抱えて、私たちはいよいよ妖精の滝壺まで歩いていった。
そこは普段霧に覆われて隠されているスポットだが、妖精さんなら生憎こちらにもついているのでね。
《こっちですマスター。こっちから他の妖精の気配を感じます!》
同族レーダーが優れているリーフルさんについていけば、霧だろうとなんだろうと迷うことはない。
なんて素晴らしいナビなのだろう。
私たちが滝壺に近寄ると、水回りで遊んでいた妖精さんたちがびっくりして飛び去っていった。
「なんでやがりますあいつら」
「この滝壺を守る自然の妖精さんなんだと。なんかの本で読んだことがあるぜ」
この手の知識も意外と豊富なマックスさんが語ってくれた。
マギアージュから始まったとされるこの西大陸は、それこそ魔法のような現象が多々あり、他の大陸には無い妖精や幻想生物がひっそりと生息しているらしい。
飛び回るカラフルな妖精さんとか見ると、確かにいよいよファンタジーじみてきたぞ。
気にせず私たちが滝壺から【神秘の聖水】を汲み取ろうとすると、真っ赤な妖精さんが立ちはだかってきた。
《待ちなさい貴方たち。ここの水はとても神聖なものです。貴重な聖水をおいそれと人間に渡すわけにはいきません》
「そこをなんとかお願いできないでしょうか……私たち今これがどうしても必要なんです」
《帰ってください。貴方たちにあげるものなんて何もありません》
えらく突っぱねた態度だったが、ここの妖精さんたちは人間に対してあまりいい印象を持っていないのだ。
魔法に力、更なる富や資源の発掘に燃えた人間たちが次々と自然を破壊していったので、ここの妖精たちは住処を追われていってしまったのだ。
そりゃあこんな態度にもなったりする。
《マスターが必要だと言ってるんですよ⁉︎ この人は他の欲に塗れた人間たちとは違うんです!》
妖精さんに対抗できるのは、薬草のだけど広く言えば同じ妖精のリーフルさんだけだった。
赤色の妖精はちょっと驚いたが、すぐにまたピシャリと冷たい閉じた態度を取っていた。
《人間に飼い慣らされた妖精なんて、殆ど人間と同じだわ。出て行って。汚らわしい》
《むきー! なんなのよこいつらー!》
「リーフルさん落ち着いて……とにかくここで言い争ってても仕方ないです。ここは一旦帰りましょう」
「……すまない。俺がちょっと話してもいいか?」
こういう時、率先して話してくれるのが勇気あるスラッシュくんだった。
彼は聖なる光を解き放つと、自身が勇者であることを証明した。
「俺たちは、世界を闇から救うためにオーブを探して旅している。そのためにもここの聖水が必要なんだ。決してあなたたちの住処を荒らしたり、欲のために欲しているわけではない」
光に満ちた勇者さんを見つめて、赤い妖精さんは口をつぐんでいた。
やがて彼女の周りに、さっき逃げ出していた他の妖精たちが集まってきた。
《ランジー。この人たち嘘はついてないみたいよ》
《それに私たち大地の妖精は光の勇者と共にあれ――そう女神様に教えられてきたじゃない?》
《…………そうね。仕方ないわ》
赤い妖精さんと仲間たちは、勇者さんの力と私たちを信頼して水汲みを許可してくれた。
「…………恩に着る」
【神秘の聖水】を手に入れた!
「なんとかやりましたね……!」
《……ゆめゆめ忘れることなかれ。あなたがもし、世界に牙を剥く欲望に満ちた存在に堕ちた時、私たち妖精は全力をもってあなたを始末しに行くと》
「……あぁ。ありがとう」
そうして妖精さんたちは光に包まれて消えていった。
そして私たちも知らぬ間に、さっきまであった霧の中の滝壺から追い出されており、周囲のどこを探しても妖精さんやそれらしき場所は消えてなくなっていた。
住処をまた移したのだろうか。
……しかしそれにしてもこんな入手難度高そうものを、彼女は一体どうやって今まで調達していたのだろうか。
それとも彼女こそ『欲深い人間』の前例なのか?
だとしたらとんだ迷惑な話である。
ともあれ、これで二つ目のアイテムも回収に成功した。
残るは最後の一つ、賢者の土壌を冠するアイテム【フィロソフィーソイル】だけとなった。




