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73 打倒、海の怪物さんです!!

 数多の冒険者たちの船を沈没させてきた海の悪魔。

 怪物・クラーケン。

 その実態は巨大なイカであるとも、タコであるとも言われている。

 伝承として共通しているのは、大きくて長い複数の触手を持ち、近寄って来た船を見境なく攻撃し沈めて暴れ回るということだ。

 こいつが出てくる地帯は『魔の海域』とまで言われ、いかにして立ち向かうかではなく、いかにして刺激せず近寄らないかという事が真っ先に議題に上がる程の化け物である。

 デカイ・硬い・足場不安と、それぞれの要素がこいつの討伐難易度上昇に貢献している。

 ビル一軒にも匹敵するほどの高さをもつ巨体で攻められたら、流石にただではすまなかったろう。

 各地でも何度か討伐隊が結成され、戦いを挑んだものの勝利どころか生き残った部隊の方が少なかったという。

 ……それほどの化け物相手に挑むおつもりでいるとは、ギブラル王も大したものである。

 まぁそれは私やスラッシュくんたちの強さを買ってくれているという事なのだろうけど。


「一艘使えそうなものがあったはずじゃ。それに乗って怪物を倒すのじゃ」


「お言葉ですが王様、危険すぎます」


 王の周りを警護していた兵士たちが口を挟んだ。

 確かに彼らの言う通り、たったこれだけのメンバーで挑むにはあまりにもリスクが高すぎる。

 しかし国王の瞳に不安や焦りといったものは見受けられなかった。


「わし1人なら不可能だったやもしれぬ。じゃが共に戦う仲間がおれば話は別じゃ。円滑な航海を阻害する悪しき魔物を討たんとするは世の為人の為じゃろう」


「アテにしてくださってるところ悪いけどよ。オンボロ船で行っても海の藻屑にされちまうだけだと思うぜ」


 マックスさんは言う。

 まあ私たちにはタイラントとの経験があるから。

 伝承が伝わるほどの怪物を相手にするとなると、もうどういうものか分かってきたのだろう。

 それでも国王の意思は固かったようだ。


「しかし誰かが行かねば海は永遠に奴の物となる。それにこうしている間にも奴に挑もうと同じ事を考える同士が各地で船を出しておるのだ。そんな者たちと協力する意味も込めてわしらで向かうべきじゃと思うのだが……どうかね?」


「やるしかないだろう」


「お、おいスラッシュ」


「このまま俺たちが止めても国王は討伐に向かわれるだろう。それに仰ったように、他の冒険者たちが犠牲になるのをみすみす放置しておくわけにもいかない」


 彼は剣を構え、準備万端の姿勢を見せた。


「面白そうなハナシでやがりますね」


 買い物を一通り済ませ、大量の荷物を1人で抱えてきたジーカちゃんが言った。


「そのくらーけんとかいうバケモノと腕試しする良い機会でやがります。ジーカも行くです」


「待ってください。誰か姫様をお守りする人がいないと……」


「それは我々が」


 兵士たちが一斉に集まってクララ様の元を囲んだ。


「皆様はどうか、国王の安全を最優先に願います」


「わかっています」


 ギブラル王を中心としたクラーケン討伐部隊が結成され、全員が揃うと、比較的大きめな帆船を借りて出港していった。

 一応勇気ある討伐隊で出港する場合は是非もないこと――渡航の許可が降りるそうだが、当然命の保証は一切無い。

 無事に生きて帰れるか。


 ……でもクラーケンってタイラントよりは強くなかった気がするけど。


 心地いい船旅――とまではいかなかったが、客船でもないこれでこの乗り心地はまずまずの物だと思う。

 しかし早くも船酔いスキルが発動し、ゲロゲロになっているマックスさんを見て、私は側に寄っていくことにした。


「大丈夫ですか?」


「うう……船乗るたびにこれだぜ……情けねぇうおええ」


 既に結構紫色の顔面になっており、早くも戦力として不安をかかえることになったが、とりあえず寝室で横にさせることにした。


「すまねぇミランダ……」


 あ。でもこれクラーケン来た時激しく揺れたらその時またとてつもなく気分が悪くなるんじゃなかろうか。

 い、いや大丈夫だろ。マックスさんだし、うん。


 マックスさんを置いて甲板に出ると、なにやらジーカちゃんがマストを登って全力疾走しているという見ていてちょっと危ない行為を繰り返していた。


「じ、ジーカちゃん⁉︎ 危ないから降りてきてください!」


「船っておもしれーですね‼︎ あははは!」


 ああもう。子供みたいにはしゃいじゃって。

 あんなに楽しそうなジーカちゃん初めて見たぞ。

 私もジーカちゃんもここまでの状態から船酔い耐性はそれなりにあるようだった。

 これだとマックスさんが弱すぎ問題が浮上してくるが……。


 チーム1の怪力を誇る頼れる筋肉兄貴はこんなところでもギャップ萌え満載であった。


「……そろそろくるぞ!」


 危ないことをしているといえばこの人もこの人な勇者、スラッシュくんが船の先端に立って叫んでいた。

 やがて遠方から黒い渦のようなものが出現し、巨大な触手が海上に顔を出した。


「で、でかい‼︎」


 直撃すれば船なんか消し飛んでしまいそうな程の大きさだった。

 幸いなんとかかわすことができたものの、そのひと振りだけで海が揺らぎ、大量の水飛沫が襲ってきた。

 海水をモロに浴びたジーカちゃんは、ぶるぶるっと犬みたいに毛についた水を払った。


「あれが怪物でやがりますか!」


 触手が累計8本ほど飛び出してくると、ようやく本体の姿が出現した。


「グギャオオオオ!」


 けたたましい騒音を撒き散らし、海の怪物クラーケンが襲ってきた。

 イカといえばイカのような、かと思えば龍のようにも見える『怪物』と呼ぶのに相応しい相貌をしていた。


 まずできることはなんだ。

 とりあえず触手連中をぶちのめすとするか。


「『ブリザード』‼︎」


 海ごと凍りつかせる勢いで触手から本体にかけて固まっていった。

 船から続く氷の道に立ち、本体に向かって直行していった。

 氷属性が弱点で、喰らうと稀に停止することがある。

 ラッキーついでに更なるラッキーダイスを……いや。


「マッスル〜アタック!」


 今や9999のHPから繰り出される7万を超える全体攻撃となった一撃だ。

 海の怪物もこれを喰らえばただでは済むまい。

 凍りついた触手たちは筋肉の波動を浴びると、何本か砕け散ってから本体も激しく湾曲して沈んでいった。


「う、嘘だろ?」


 何事かと様子を伺ってきたマックスさんがたどり着いた時には、既に戦闘が終了していた。

 ははは。まぁこんなものですよ。

 と完全に油断し切っていた私は、奴が最後に繰り出してくるカウンターの一撃の存在を、すっかり失念していた。

 叩きつけられた強烈な一撃を喰らっても、防御力9999のわたしにはもう痛くも痒くもなんともなかったのだが、狙われた船の方はそうでもなく、真っ二つに崩れ割れて触手の巻き起こした渦の方に飲み込まれていった。


「みなさん‼︎」


 そしてかくいう私も足場を失い、抵抗もできずに海中へと沈められてしまった。

 や、やばい――息ができないっ!

 迂闊だった。たとえ一撃で倒しても、カウンターがとんでくるのがこのゲームだった。

 最後の一撃、今生の執念とも言うべき攻撃なのだ。


 そうして私は上がることもできず、ひたすら海の底の方に向かって溺れていった。

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