70 いざ、新たな旅立ちの始まりです!!
「で、オーブはどうなったんですか」
「あ、あぁ。それなんだが……ほれ、ちゃんと長老様からもらってきたぞ」
マックスさんの手には青色に輝く大きな宝玉が握られていた。
まずは一つ目、『龍のオーブ』だ。
残り二つのオーブを集めることで道が拓け、新たなる世界への旅立ちが可能となる。
順不同とはいえいきなり最難関ルートを攻略したのだ。
もう当分私たちに怖いものはない。
――あとは例の未来。ミランダさんがグレイズによって刺殺され、仲間と死別する未来が待つだけだ。
そこさえ乗り切れば安心して暮らせるはずだ。
不安要素はいくつかあれど、それら全てねじ伏せるほど強くなり、最後にはミランダさんとして平穏な人生を手に入れてみせるぞ。
目的のアイテムを入手し、とうとうこの龍人大国ともお別れの時がきた。
長いようであっという間だった。
悪の王が消えた今、この国もいずれより良い未来に向かって突き進んでいくことだろう。
出立の前、長老様と複数の龍人たちが見送りにきてくれた。
「お主らには感謝してもし切れぬ。どうかこれからの旅路に幸あらんことを」
「例を言うのはこちらの方だ。オーブの件ありがとう」
スラッシュくんが先頭に立って頭を下げる。
受け取ったオーブは日の光を浴びてキラキラと輝きを放っていた。
「待つでやがります」
龍人の娘――ジーカちゃんが人混みをかき分けて進んできた。
「ジーカちゃん」
「ジーカはお前らに着いていくです」
「えええ⁉︎」
まさかの新加入メンバー?
い、いやでも彼女って仲間にできたっけ……。
これも新しい追加要素なのか?
「何を言うかマリストロ。この者たちには世界に光をもたらすという大事な使命があるのだぞ」
「ジーカです。じじいの使命は早く名前を覚えることでやがります。止めても無駄です。ジーカもう決めたのです。こいつらと旅をして、もっともっと強くなってやるです。そして誰にも負けねーくらい強い世界最強の龍人になって帰ってくるです」
そう言ったジーカちゃんの目はぎらぎらと燃えていた。
肩にかけられた荷物からも、彼女の意思は固そうだった。
「……やれやれ。すみません勇者様一行どの。言い出したら聞かぬ娘ですから」
「……わかっている。だがジーカは頼りになる戦力だ。こちらとしては是非もない話だ」
「お、おいスラッシュ。良いのかよ」
「あぁ。この子の力があれば、より強大な悪と戦う事もできるだろう」
「見る目ありやがるですなお前」
「……スラッシュだ。そういうわけだ。よろしくなジーカ」
「改めてよろしくですよ、人間」
勇者が差し出した手を、ジーカは両手で固く、強く握り返した。
すごいぞ。まさか龍人の女の子がパーティーに加わるなんて。
うちも結構大人数に……
「ってあれ。あのゴブリン3兄弟は?」
そういえばあいつら、いつの間にかいなくなってたな。
何気に初めて出会った心を通わせる事が出来るタイプの魔族だったので、こうしていなくなられると心寂しいものがある。
ふと着替え直した装備品のポケットに、なにか膨らみがあるのを感じた。
中を見ると手紙のようなものと木の実が数個詰められていた。
『親愛なる相棒たちへ
俺たち相棒や仲間たちの戦いを見てスゲー感動した! 震えてるばかりだった俺たちを守って、敵に立ち向かっていく相棒たちが超カッコいいと思ったぜ! だから俺たち、修行の旅に出ることにした。いつか相棒たちと肩を並べられるくらい強くなって、それからまた一緒に戦おうと思うぜゲヘヘ! 勝手に居なくなっちまって悪かったが、どれだけ離れ離れになっていても同じ空の下、俺たち親友だもんな! 相棒のベスト・フレンドゴブとそのくーるな兄弟より』
「………………なんかまたえらい事になってる気がしますけど……」
ま、まぁいい。
どうせまた行く先々で出会う事になるんだろう。
あいつらも中々濃ゆいキャラだ。
あのまま助けなくても、自分たちだけで脱獄してそうな勢いだ。
私たちは私たちで旅を続けよう。
「よーし、じゃあ新しくジーカちゃんも仲間になった事だし、そろそろ出発しますか!」
「おう!」
「そうだね!」
「……フッ行くか」
「そんならお前ら、ジーカに着いてくるですよ」
早速新加入のルーキー・ジーカちゃんが先走って案内してくれた。
ここから戻るにはまた例の魔窟――絶壁の登山道をくぐり抜けていかねばならないのだが、ジーカちゃんはガルガンドラ側から侵入できる隠し通路の存在を知っているようだった。
それまでは西軍の龍人が邪魔をしていて入れなかったというその穴から滑り落ちていけば、一気に第一層まで到達できるという画期的な通路だ。
すごく高い滑り台みたいな感じだったが、入り口は狭く、1人づつしか通り抜けられそうになかった。
「これ大丈夫ですよね? 途中で詰まっちゃったりしないですよね?」
「心配すんなです。ケツくっつけて丸まってりゃ絶対下まで降りられますです」
「よし。じゃあまず俺から失礼するぜ」
一番体格の良いマックスさんがやや狭そうにしていたので、いきなりつっかかりそうで不安になったが、滑り始めると意外にもスムーズに進行していったようで、やがて彼の声も姿も確認できなくなってしまった。
「じゃあお次はスラッシュさんからで……」
「……では先を失礼する。下で落ち合おう」
そうして勇者さんもさーっとスライダーを降りて行った。
残るは私とジーカちゃん、それに……
「高いのいやだぁああっ!」
……高所恐怖症のトラウマを発症させたレイブンさんだけだ。
さっきロープで生命宙ぶらりんにされたばかりだというのにこの追い討ち。
心中察してあまりあるが、自業自得なので観念して欲しい。
「とっとと降りろです。後ろ控えてるです」
「うわぁあ何で今蹴ったの? ねぇなんでうわあああ」
ついにそんな彼の態度に豪を煮やしたジーカちゃんが、思い切り彼を背中から蹴飛ばして無理やりコースターに乗せた。
そんな彼の激しい悲痛な悲鳴も、段々と聞こえなくなっていった。
お、おいおい。
「さっ。いくですよ……ミランダ」
「は、はい」
ていうかさっきミランダさんとか演技で出来てたんだから、今更名前呼びで躊躇う必要もないだろう。
わざとだったのか、迫真の演技力と褒めるべきところなのか。
とりあえず私は3人の後を追って滑り台に突入した。
お尻が擦れていく感覚がしたが、熱くはない。
ものすごい勢いで降下していってる感じがした。
楽しい。
滑り台から滑るのって何年振りだろう。
やがて楽しいスライダーの時間も終わり、私たちは本当に第一層入り口付近にまで降りてこられた。
「よぉミランダ。楽しかったろ?」
「はいとっても!」
仲間がそこで全員集合していた。
とりあえずほっと一息安心するも、床に伏せたまま崩れ落ちているショタが目に入った。
「殺して……殺して……」
「ったくやれやれなヤツだな」
「は、ははは……」
完全に意識失ってるみたいだった。
あとはジーカちゃんが降りてくるのを待つばかり――
「うわ! な、なんだ地震か⁉︎」
その時、絶壁の登山道の洞窟全体が激しく揺れ動いた。
周囲はばらばらと崩れ始め、壁や岩が瓦解して押し寄せてきた。
「――ここは危険だ! みんな早く外に逃げろ!」
「で、でもジーカちゃんがまだ――」
「急げ! あいつなら大丈夫だ!」
こういう時、スラッシュくんは頼りになる。
大声で仲間たちを集め、ヘタレ込んだレイブンさんを抱えて崩壊していく洞窟の外へ駆け出した。
最後に私が出切ったところで、入り口は岩と瓦礫で塞がれてしまい、揺れは完全に収まったものの再入窟することは敵わなくなってしまった。
「そ、そんな……ジーカちゃん!」
「うるさいですね。なんでやがりますかそんなでけー声だして」
「じ、ジーカちゃん⁉︎」
生き埋めになるどころか、ジーカちゃんはどこからともなく突然背後から現れてきた。
「で、でもどうやって――」
「ったく。突然の地殻変動で通路ごとおじゃんになりやがったので空から飛んできたですよ」
「と、飛んでっ……て……まさか……」
見たところジーカちゃんには羽がない。
設定集などによると、龍人は本来翼の生えた龍が知恵や人の姿を手に入れた進化の過程で、翼を失ってしまったとされていた。
つまり彼女は上からそのまんまダイブして足で着地したという事。
ここから見上げてもガルガンドラどころかてっぺんさえ見えない。
そんな遥か高みからジャンプして飛び降りてきて無傷なのだ。
さ、流石は200年以上生きてる龍人……とかってそんな問題なのかこれ。
化け物じみてないか龍人の脚力。
筋肉中が断裂不可避だと思うんだけど……。
まぁこんな高さから飛び降りられるメンタルとフィジカルがあるんだから、レイブンさんなんかほんと鼻で笑うレベルなんだろうな。
「さっ。行くですよ。これでもうジーカはしばらく後戻りできねーんですから」
「お、おう……」
見かけによらずその余りにも勇ましい彼女の一歩と背中を見て、私たちは恐る恐る着いていくことになった。
さぁ目指すは新天地だ!
どこに行くのかな。楽しみです!




