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68 私たち、やりました! そして宴です?!

「が……わ、私はまだやれる……! さ、さぁ……更なる力を私に……私に寄越せぇえええっ‼︎」


 ログレスは死にかけの状態でグレイズに向けて手を伸ばした。

 その目はまだ執念の炎に燃えたぎっていた。

 グレイズは振り返り、しがみついてきた彼を救わんと手を取った。


「させるか!」


 直後に割って入ってきた勇者の剣は、グレイズの放った闇のバリアで弾かれた。

 威力を上げていたからか、勇者の剣を以ってしてでも割る事がかなわなかった。

 衝撃で大きく後退し、剣を地面に落とした。


「ふ、ははは! お前たちごときゴミクズの人間が、崇高なる闇の力に敵うはずがないだろうバカどもがぁああ! さぁああ! 早く私に力を! 力を寄越せぇえええ! 早くしろぉおお!」


 既にボロボロの肉体で、必死に力に縋りつく様は狂気そのものだった。

 グレイズはそんな彼に対して、哀れみか同情の目を向けていた。


 その直後――


「がっ………はっ……」


 グレイズの伸ばした手が闇の剣となり、ログレスの心臓を貫いた。

 やっとの思いで立ち上がりかけ、しがみついたその手を離し血を噴き出して再び地面に転がった。


「な、……なぜだ……わ、私なら……その力を……」


 するとグレイズは口角を上げて冷たい微笑を浮かべていた。


「何故――だと? 愚かなる龍の王よ。では私も問おう。貴様も部下に同じような事をしていたな。力を欲して縋った者を振り払い、殺すことになんの疑問があるというのだ」


 やられた事をやり返しただけ。

 これまで邪智暴虐の限りを尽くしてきた国王。

 その彼が今、与えた分の屈辱や痛みを味わっている。

 搾取する側だった強者が、より上の強者によって弱者扱いされ無様に命を弄ばれ殺される。

 それらは全てこれまで彼がやってきた事だったのだ。

 だから逆らう権利も、歯向かう資格もない。

 グレイズはそういった態度を取っていた。


「実験はもう済んだ――。私はもう不必要な個体を始末しに来ただけだ。貴様の価値はもう無い。安心して死ぬが良い」


「し、……死ぬ……のか? こ、この私……が……。か、神であるこの私が……」


 崩れゆく肉体と流れ出る血を見ていよいよ『死』という概念が間近に迫り恐怖を感じたのか、ログレスはそれまでに見たこともないような追い詰められた表情をしており、汗と涙を撒き散らしていた。


 やがて狂ったように笑い出し、天に向かって崩壊していく両腕を上げた。

 無数の鳥がステンドグラスの向こう側で羽ばたくと同時に、彼はその場で固まり砂となって消えていった。

 闇に魅入られ振り回された魔の龍王の、なんとも哀れな最期だった。


 彼の死を見届けた後、グレイズも同時に闇の彼方へ姿を消していった。


「いずれまた会うだろう。さらばだスラッシュ」


「待てグレイズ‼︎」


 彼はスラッシュくんの返事を待つ事なく全身を闇の中に消していった。

 最後に消えた彼のその瞳は、なにやら私の方に向けられているような気がした。

 全てが終わり、全てが消えていなくなった瞬間であった。


「終わった……んでやがりますね……」


 ジーカちゃんのその言葉を合図に、長老が崩れ去ったログレスの元に駆け寄った。


「……道を間違えよって……!」


 さらさらと手のひらからこぼれ落ちていく砂を眺め、長老は悲哀を込めた怒りを露わにしていた。

 忘れてはならないが、彼もまた長老から誕生した龍人の1人なのだ。

 過ちを犯した息子を許すよう、消えていった身体を抱くようにしていた。


「とんでもないやつらだったな……。あのグレイズとかってやつが裏で力を与えたせいでこの国はめちゃくちゃになっちまった」


 やるせない怒りに満ちていたのはマックスさんも同じだった。

 グレイズ・ヘスフォード。

 彼だって元を辿ればログレスと同じ、闇に魅入られた人間なのだ。

 いずれ彼もこのような結末を迎えるだろう。

 それが闇の力を使ったものの代償だ。

 こうして長きに渡る悪政は崩壊し、西軍東軍に分かれていた抗争も終焉を迎えることになった。

 やがて長老が王の代理に就き、バラバラになった国を一つに統括するよう『協定』の再締結を国民に認めさせた。

 しかしまだプライドの高い西軍一派は、ログレス国王が討たれた事でこの国からの離脱を決意し、どこかに何名か消えてしまった。

 また、西軍に家族を殺された東軍の国民など、さまざまな私怨や悔恨が国中に渦巻いており、直ぐには手放しで平和になったとは認められなかった。

 それでも一時の勝利と和平を勝ち取ったことで、私たちは全員この国を救った『英雄』として、龍人たちの宴に参列する事を許された。


「わたしの国を助けてくれてありがとぅニンゲンさぁ〜ん」


 ゴポゴポと空のジョッキに大盛りのお酒が注がれていく。


「龍人の娘もいいな……」


 酒を注いでくれた巨乳で金髪の龍人さんを見て、マックスさんは鼻の下を伸ばしていた。


「なんでえこのスケベ男。あんなのがいいんでやがりますか?」


「ば、バカちげぇよ! スケベとかそういうことデケェ声で騒ぐな彼女に聞こえたら俺の品位を損なうだろうがっ」


「ふーんっ」


「な、な、なんだよミランダ。目が怖ぇよ……」


 まぁこういう時どうしてもあーいうのに目移りしてしまうのが男というものだ。

 マックスさんがむっつりスケベなだけではない。

 赤くなった顔を隠すように彼はいっきに酒をひと瓶飲み干した。


「わーっすごぉい。こんなに美味しい料理たべたことなーい」


「えー。こんなにちっちゃい手で作れちゃうの〜? 今度教えて〜」


「ははは。いいともいいとも」


「やーんこの子超かわいい〜」


 別な龍人ギャル娘さんたちにハーレム囲まれていたのはレイブンさんだ。

 こちらは手が早い手慣れたスケベといった感じで、既に龍人の娘らを手玉にとっていた。

 あれはあれでムカつく。

 またてっぺんから下ろしてやるか。


「すみませんすみません。マジ勘弁してください神様仏様ミランダ様」


 私が縄をチラつかせると、あの時の光景を思い出して吐き気と眩暈が込み上げてきたのか、即座にハーレム帝国から逃げるように解散していった。

 どんだけ強烈なトラウマとして刻まれてるんだ。

 面白いからまたやろ。


「おいえーとお前……ミランダ! ジーカと酒飲み対決するですよ」


 樽の形をした大きめのジョッキを掲げて、ジーカちゃんが満面の笑みで飛び込んできた。


「じ、ジーカちゃん⁉︎ ダメですよ未成年者がお酒飲んじゃ!」


「ジーカもう215です。龍人年齢でも充分酒飲んでいい歳ですていうかもう日頃から飲んでるです」


「にっ……!」


 龍人は人間よりも長生きだとは知っていたが、人の一生二周目プレイできるほど年取ってたとは……。

 合法ショタの次は合法ロリか。

 それならまぁいいか。私もこの世界では酒が飲める18だし。

 唯一メンバー内で酒が飲めない未成年者・スラッシュくんは遠くで一人寂しそうにチキン肉を頬張っていた。

 そんな哀愁漂わせなくても……!


 テーブルの上にドンと勢いよく酒の注がれたジョッキを置き、緑色の龍人が審判のように席の近くに立った。


「よーし。じゃあこれから人間ミランダ・クロスフィールドさんと我らが龍人ジーカによるお酒飲み比べ対決を行います。合図したら飲み始めてくださいね? 行きますよ? よーい……どん!」


 彼の合図の終わり際にかけて、私は目の前のジョッキをグビグビと飲み干していった。

 次に飲んで空になったジョッキへとまた追加でお酒が投入されていく。

 私の名前が書かれた木の板に正の字の一本目が引かれていった。

 ゲーム内でもあるこの飲み比べイベント。

 ボタン連打で飲むスピードが上がり、最高クラスになるとエミュレーターでボタン設定しても勝てるか負けるかは五分のレベルにまで難易度が跳ね上がる。

 ぶっちゃけゲームではプレイスキルと運だが、現実では飲んだもん勝ちだ。

 こんなんいくらでも飲める。

 飲んで飲んで飲んで……


 ほ、ほりゃ。にぇ?

 紫色のけしきがみえりゅ

 しぇかいがまわってりゅ……あしがどこにありゅ……。

 じーかちゃんどこ?

 なんかあちゃまのにゃかがうりゅしゃい……。

 おほししゃまみえりゅ……。

 おうしゃまにしゃいしほうにそうじょ




   ◇ ◇ ◇



「う……うーん……頭が痛いです……」


 気がつくと宴会場ではなくいつの間にかベッドの上にいた。

 あれ。さっき飲み比べ対決してなかったっけ。

 結果どうなったんだろ。

 確か私が正の字十三本目に突入して、そこから景色がこうふわーってなっていって……。

 ダメだ。まるで思い出せない。

 眠気と頭痛と吐き気でぐわんぐわんする身体をどうにか起き上がらせると、とんでもないことに気がつく。

 衣服という衣服がまるで身につけられていないのだ。

 どこかで脱ぎ捨てたのか、目の前にはとりあえずそれらしき物は無かった。

 冷や汗で背中とシーツがびしゃびしゃになった後、なにやら隣でもぞもぞ動く気配がした。


「ま、まさか――」


 布団を開くとそこには同じく裸のジーカちゃんが、すやすやと寝息を立てていた……。


「や、やらかしたーっ‼︎」


 こ、これはあれではないか。

 俗に言う『朝チュン』というやつではないのか⁉︎

 先ほどから目に飛び込んでくる全ての事実が怖くなり、私はもう一度不貞寝を決めこんで「夢だ夢だ」と痛む頭を何度も激しく叩いた。

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