50 龍人国家
「いいでやがりますか。耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれです。何回も説明すんのはかったりぃですので」
ジーカちゃんは腰に手を当ててのけ反り、座っているみんなを見下ろすようにして語り出した。
「登山道の中でも言ったように、この国は今西と東でがっつり分かれて激しく対立してやがるです。というのもつい最近就任した西の国王……第二王子だった『ログレス』って奴と方針で揉めてるっぽいのです」
「うむ。今やこの国は強大ではあるが、その昔は争いを好まぬ龍人たちが集まる平和な国家であったのじゃ。来る敵は迎え撃てど、自ら進んで侵略行為などはせぬと。徒に力を振るい下界の者に干渉はしないと。それが長い間結ばれておった『協定』であった。……ところが」
「その『協定』を破り、世界に宣戦布告しよーってのが実権を握ったログレスなのですよ。元々あいつは龍人史上主義者で、飛び抜けてプライドの高けーやつだったのです。第一王子が国の統制やってる時はみんな穏やかなもんだったですが、不治の病だとかに倒れて仕方なくあいつになりやがったのです」
「なんともきなくせぇ話だな」
「……もしかしたら第二王子様が邪魔な王族を消しちゃったりして……」
「有り得ねー話じゃねぇですよ。あの陰険ヤローなら躊躇なくそーいうことやりやがるです。実際ジーカたち『東』のモンは従わないと立ち退けとか言われてやがるです。ま、誰が従うかってんです」
「東と西ってことは……つまりジーカちゃんたち『和平派』が東で、そのログレスさんたち『戦争派』が西ってこと? でも平和が続いてたのなら反対派の方が多そうだけど……」
「そこんとこうまいこと洗脳しやがるのがあいつなんですよ。人間が嫌いなやつ、自分たちこそが至高だと思い込んでるやつ、構わず殺したいやつ、そういった連中を唆して戦力にしちまってるもんだから残された腑抜けな『東』の派閥はたまったもんじゃねーんですよ」
その語り口から言うと、ジーカちゃんはいかにも戦争派に思えてしまうけども。
それを敏感に察したのか「勘違いしやがるでねーですよ」とこちらを睨みつけてきた。
「ジーカは強いやつや戦いは好きですが、無闇に人間殺そうとか街の平和を乱してまで刺激が欲しいとは思ってねーですよ。こんなボケジジイでも大事な家族でやがります」
「おお……嬉しい事言ってくれるのぅセナーテ……」
「名前覚える気ねーですかじじい。西に売り飛ばしますですよ」
「それだけは勘弁してくれぇ」
「……『西』の連中はそんな家族とか友人とか生やさしいもんは全部捨ててやがります。眼中にないというか、平気で仲間に手にかけてきやがるです。それに怒った『東』の民が龍人とは何か、元来の龍人について説き伏せてやがるです。が、『西』の方は龍人の持つ破壊衝動や圧倒的な力について語ってやがります。二者は平行線です。だから戦争するんです」
「なるほどな……そりゃ内乱が絶えねえわけだ。……で、ジーカが探してた腕輪がありゃいいってのはどういうことだよ」
「代々一族間で何か困ったことが腕輪を像にかけて、『龍の神』に聞いてみるのですよ」
そういえば憲兵さんも神がどうこう言っていたな。
「そうでやがります。東はそういう神サマだとか、霊がどうたらとかそーいう宗教めいた事に未だすがってやがるのですよ」
「ジーカちゃんは信じてなさそうですね」
「いねぇもんはいねぇ。見えるもんは見える。それだけです」
だが、こんな状況になり長老に聞いた頼みの綱がこれだったなら、仕方なく――といった感じだったのだろう。
部屋の奥のそのまた奥には、その龍の神様とやらを祀った石像が設置されてあった。
双頭の龍が鬼のような形相と仏のような慈悲深い笑みを浮かべていた。
逞しい腕が右に、しなやかで美しい腕が左にそれぞれ一本ずつ生えていた。
左の方には既に腕輪がはめてあり、もう片方の腕にジーカは手にした腕輪を捧げた。
「こ、これで何か起こるんですか――」
「いや、なんも起きねーです。ただ気持ちの問題です」
「何を言うかジーカ。これはたいへん神聖な儀式なんじゃぞ。大昔からの言い伝えじゃ。かつてこの国が天災に見舞われた時、龍の神様に腕輪を捧げ、祈りを掲げ、供物を与えることで奇跡を起こされ、何度も何度も危機をお救いになったのじゃ」
「祈ってメシが食えりゃ世話ねーです」
「そういう短絡的な話ではない。そうした因果が巡り巡って、なんてことのないご縁の導き手が龍の神様によるものなんじゃと日頃言っておるじゃろう」
「……悪ぃけど、悠長に祈ってる時間も無さそうです。外で数名、この家に押し寄せようと集まってやがります」
鼻や耳の効くジーカちゃんは、すぐに爪を伸ばし戦闘準備に突入した。
私たち人間には感じない何かを感じ取っているようで、何かが近づいてきてるなど全くわからなかった。
だがしばらくして、勢いよく扉が割れるような音が聞こえ、外に出てみると3名の武装した龍人さんが待ち構えていた。
「おいおいじいさんよ。また妙なコトしてんじゃねぇかってな」
「国王は大変お怒りですよ……。貴方が頑なに従う意志を見せないから『東』の連中が意固地になってるってね」
「つーわけだ。最終警告だぜじじい。新国家のルールを守れねぇやつは立ち退きだ。そんでもっておかしな腕輪を渡せ」
言動から『西』の者と思わしき彼らは、同族たる長老に向けて刃を向けていた。
長老は暴力に屈することもなく、いつも通りに振る舞っていた。
「ふん。力に怯え、力に屈し、そして力に溺れた哀れな同胞よ。わしらはここを立ち退く気も無ければお主らに従うつもりも無い。お帰り願えよ」
「舐めた口きいてんじゃねぇぞ――」
振り下ろされたダガーを両腕でせきとめ、間一髪のところでジーカちゃんが長老を守った。
「てめぇ……! ガキはすっこんでろ!」
「おめーら。実の親にまで牙を向けるとは尋常じゃねーですよ」
「親だぁ? オレたちの親はログレス様ただ1人だけだよ‼︎」
3人の剣が一斉に彼女を砕かんと迫り来る。
――しかしそこに駆けつける者が4人いる。
「なっ、なんだてめぇら……まさか人間か!」
「へっ。そのまさかだよ龍人さん」
「暴力は良く無いと思うな〜」
「…………勇者として、貴様らの悪事を見過ごす訳にはいかない」
「面白ぇ。ここで決着つけようや!」
私たち4人とジーカちゃんで、過激な『西』派との一戦が幕を開けた――!




