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46 私、皆さんと再会です!!

「へぇー……人間は装備品が無いと耐性が付きやがらないですね。不便な生き物です」


「ジーカちゃんは炎に強いんだよね」


「見くびるなです。ジーカは炎だけじゃなくてこの世のありとあらゆる全属性に耐性を持つ立派な龍人です。他の雑魚種族と一緒にすんなです」


 平な胸を突き出し、えっへんと自信満々に彼女はふんぞりかえった。

 なるほど。

 龍人が他の種よりも頭ひとつ抜けて強いのも、単に腕っ節が強いというだけでなくそういうところにも理由があるのか。

 そりゃあ他の魔法使いさんも涙目かもしれない。

 かといて剣士なら狩れるかといえば、まだ少女(本人は長生きというけど)――ならば幼体ともいうべき彼女でこれだけの強さを誇るのだから、微妙なところだろう。まず並の者では不可能だ。

 成熟した龍人なら例え1人でも人間の統治する国家など簡単に滅ぼせるかもしれない。

 そう考えると末恐ろしい一族だ。

 こうして後ろから見てるとふりふりと忙しなく動く尻尾なんかが可愛いんだけど。


 それなりに歩いていると、前方から洞窟に響き渡る程の大きなお腹の鳴る音がした。

 今先頭に突っ走っていたのはジーカちゃんだった。

 一同、察したように動きを止める。


「な、なんでやがりますか! そんな目で見んじゃねぇですよ!」


「あはは。そうですね。ここらでご飯にしちゃいましょうか」


 前の食事から結構経ったかな。

 レイブンさんはお腹空いてないみたいだったが、私たちのためにいっちょ振る舞ってくれるみたいだった。


「龍人様のお口に合うかは分からないけど」


「人間の施しなんか受けねーです。ジーカ、腹なんて減ってねぇです。さっさと進みやがれです」


 真っ赤になって強がるジーカちゃんを「はいはい」とレイブンさんは軽くあしらった。

 早くも扱い慣れてる……!

 しかしジーカちゃんも本気で嫌がってる様子はなく、くんくんとレイブンさんの作った料理に興味を示していた。

 今回はまたしてもステーキだった。

 以前の金竜さんとはまた違った、エキゾチックな香り漂う香辛料で彩られた赤いお肉だった。

 う〜ん。美味しそう。

 なんだか私もお腹空いてきちゃったな。


「はいお待ちどおさま。レッドドラゴンのステーキ、刺激的なスパイスを乗せて〜ですよ。どうぞお召し上がりください」


「い、いらねぇです。ここんな……じゅる」


 目の前に出された馳走に、ジーカちゃんは内なる食欲と必死に戦い抗っていた。


「え? いらないの? じゃあ……ミランダさん食べる?」


「わーい。えーいただいてもいいんですか?」


 そうして皿を持ち上げると、ジーカちゃんはさみしそうな顔でレイブンさんを見つめていた。

 可愛い……。

 なんてわかりやすい生き物なんだ。

 それを見たレイブンさんがまた料理を彼女の前に置く。

 はっとなってジーカちゃんは首をブンブン横に振った。


「こ、こんなもので懐柔しようたってそうはいきませんですよ……ぐぅうう」


 そう言いながらも口からは大量のよだれを垂らし、右手は既に肉を掴んでいた。

 そこまでいったならもう食べていいんですよ!

 何をそんなに頑なに……。


 しばらく肉と格闘していたが、我慢の限界がきたのか勢いよく彼女はそれを口の中に頬張った。

 熱そうな肉だったが、彼女舌にも耐性があるのか冷ますことなくまるごと飲み込んだ。

 その直後鳩が豆鉄砲を食らったような顔つきになり、次々と目の前に置いてある肉を獣のように貪っていった。


「ど、どう? 美味しい?」


「んぐっがぶっ、もぐっ…………ぷっはぁ〜……」


 もはや聞くまでもなかった。

 彼女は恍惚とした表情を浮かべ、今にもとろけおちそうな頬を押さえて幸せに浸っていた。

 その様子を見られたことを悟ると、またはっとなっていつものように眉をキリッとさせる。


「ま、まぁまぁでやがりますよ。ま……まぁまぁ。に、人間も結構やるじゃねぇですか。ほ、褒めてやるですよ……」


「そ、そりゃあどうも……」


 野生的本能全開で皿ごと噛み砕くジーカちゃんは、残っていた食材全て食い切った。

 誰がどう見ても満足そうな至福の笑みを浮かべていた。

 こんなふうに喜んでもらえたら料理に冥利に尽きるかもしれない。


「まぁまぁだったですよ。いいですかまぁまぁでやがりますからな。これくらいなら最低限食べてやっても良いってだけで、勘違いするんじゃねぇですよ」


「へいへい」


「しっかしあの白くて丸いのは硬くて味がしなかったですよ。人間は普段あんなものを食ってやがるのですか?」


「…………あの、すみませんジーカさんそれ皿だから。食べるものじゃなくて料理を乗せるもの……」


「なんでやがりますか『サラ』って。んなもんジーカの国にはないですよ」


「えええっ⁉︎ じゃあどうやって食べてるんですか?」


「んなもんこうやってかじっと噛むに決まってやがります。出された肉をみんなで囲んで食いちぎって……早い者勝ちの競争です。弱いやつ、いつも肉にありつけない」


「そ、そりゃあまたエライ世界ですね……」


 龍人さんの生活は意外にもワイルドなものだった。

 そういう弱肉強食めいた統治形態がまだ残っているのが意外だ。

 うーむ。肉にされないように気をつけねば。

 まぁこの硬い守備力ならまず噛まれないと思うけど……。


 食事を終え、冒険を再開すると腹が満ちて集中力が一段と研ぎ澄まされたのか、ジーカちゃんが何かを嗅ぎつけたように鼻を鳴らしていた。


「こっちですよ! こっちからジーカの探してるモノの匂いがしやがります!」


 そうしてたどり着いた先は、辺り一面土で覆われているなんてことない簡素な空間だった。

 何かあるようには見えなかったが、彼女にはそれが見えて――もとい匂っているらしい。

 ここ掘れワンワン状態になったジーカちゃんは自慢の硬そうな爪でガリガリと地面を掘り進めていた。


「あった……!」


 彼女が掘り当てたのは銀色の錆びついた腕輪だった。

 何かの顔のようにも見える意匠だが、えらく年季もののようだった。

 瞳にあたる部分に緑色の小さな宝石がはめ込まれていた。


「なんですか……それ?」


「これ長老が無くしてた腕輪です。争い起きた時、二つの腕輪で怒りを鎮めるです。もう片方は長老が持ってたですが、こっちの方はうっかり入れ歯と一緒に下に飛んでったそうです」


「…………龍人さんって、意外とお茶目……?」


「ヌケてやがるのはうちの長老だけです。さっもうこんなとこに要はねぇです。とっとと上に行きやがりますよ」


 重要そうな腕輪を抱え、ジーカちゃんは真っ直ぐ突き進んでいった。

 無くしてた腕輪がどうしてこんなところに埋まっていたのだろう。

 誰かが意図的に隠した……。

 それかあの黒いドラゴンさんが宝物にしていたとか。

 何もかも憶測の域を出なかったが、これでようやくお互いの用事が済んだので、あとは登るだけだった。


 そしてこの第五層の先――第六層でようやく中腹に差し掛かり、はぐれてしまったスラッシュくんとマックスさんとも合流できるはず。

 私たちは出口を知っているジーカちゃんについて行くことにした。




   ◇ ◇ ◇




「どこだったか忘れたです」


 ジーカちゃんは来た道がどこだか、完全に分からなくなってしまった。

 ほ、方向音痴……!

 また新たな魅力というかジーカちゃんの可愛い一面を見つけてほっこりしたが、そうなるとこの先どうしよう。

 多分私の頭に入ってるマップではあそこらへんから登って行けたはず……。


「どうするのミランダさん」


「とりあえず次は私についてきてください。多分あの先にいけるはずですから」


「……お前、ここに来たことあるですか」


「い、いや無いですよそんな」


「にしてはお前結構ここに詳しいみたいじゃねぇですか。もしかして……龍人だったとかですか」


「ま、まさか。私はただの人間ですよ」


「まーそりゃそうだろうです。あんまりにも強いからそう思っただけでやがります」


 ジーカちゃんは鋭そうに見えて意外と抜けてるところがあるから、まだなんとかなりそうだ。

 少なくともレイブンさんよりはマシだ。

 しかしもし中身がミランダさんじゃないと知られたとして、どうそれを証明しようか。

 うーん難しい。

 下手に悪魔の仕業とか言われても困るし、ここは何聞かれてもアホ面でよだれ垂らしてとぼけとくか。


 私の記憶の通りに進んでいくと、さっきまでの迷子迷宮が嘘のようにするする光の方へ向かっていった。


「――ミランダ! それにレイブン! やっぱ生きてたんだな!」


「マックスさん、スラッシュさん! ただいまです!」


 その先で私たちを待っていたのは、やはりいつもの面々だった。

 これにて勇者パーティ、合流である。

 しかし、まだまだ「ガルガンドラ」までは長い。

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