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32 私、負けイベント突破しちゃいました?!

「く、くそ! ミランダのやつ……なんて危ない真似しやがるんだ!」


 戦士マックスさんが力強く剣を握り、すかさずレイブンさんが彼に向けて『攻撃力強化魔法』をかける。

 蓄えられた力が更に増加し、マックスさんはいつもより数段力強そうに見えた。


「だ、ダメですマックスさん――」


「どぉりゃあああっ‼︎ ミランダから離れやがれえええっ!」


 風を突き抜ける豪腕一閃。

 鉄塊と鉄塊が高速で衝突し合うかの如く衝撃が、辺りに反響したあった。

 しかし激しかったのはその音だけであり、かの暴君の装甲には傷跡さえつけられなかった。


「な、何ぃ⁉︎」


 そして暴君の巨大な尻尾による『反撃(カウンター)』が、強靭な戦士の肉体を綿のように軽く()ぎ払っていく。

 猛烈な突風と共に、マックスさんの巨体が宙を舞い地に勢いよく叩きつけられる。


「マックスさん‼︎」


 最悪の未来を想像し手の震えが止まらなかったが、幸い掠っただけのようであり、彼はまだ与力充分といった表情で立ち上がってきた。

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、彼の額からはだらだらと赤い血が地面に滴り落ちていた。

 さらに掠っただけの腹部にも、相当な衝撃が加えられたようで、ゆっくりと立ち上がった彼はしきりに振り払われた箇所を撫でていた。


「ぎっ……! なん……だよ……コイツ……! とんっでもなく硬いな……それに強ぇえ」


 とんでもない強敵を前にしてもマックスさんは笑っていたが、その声は痛みに震え霞んでいた。

 寒冷の地ですっかり乾き切った唇からは口内に溢れる血が垂れていた。


 こんな化け物どうやって倒すんだ――


 その場の誰もがこのような言葉を頭によぎらせたことだろう。

 マックスさんの後に続いて攻撃を開始しようと構えていたスラッシュくんが、一目で状況を把握し剣を下ろした。

 この時点では明らかに場違いな強さを誇る怪物なのだ。

 彼の下した判断は正しい。その年で勇者を名乗るだけの事はある。

 長きに渡る死闘経験からの所作も早い。


 だが、現状パーティで一番強い2人が手も足も出せないのであれば、この戦闘に未来はない。

 レイブンさんなんかは、ただでさえ高所嫌いから全身に鳥肌が立っているというのに、突然現れた暴君によって身の危険まで感じさせられているのだ。

 手の施しようがない――とその場にへたり込み、持っていた杖を床に転がした。


 そんな私たちの様子見にも飽きたのか、暴君は長い尻尾を鞭の如くしならせ地面に勢いよく叩きつけた。


「ぐわあああっ‼︎」


 ひび割れた地面が更に砕け、橋に大きな穴を開けた。

 その穴からも崩壊が連鎖するようにひびが入っていき、橋全体が崩れ落ちるのも時間の問題といった様子だった。

 暴君の咆哮が轟くと、その口から凍てつく冷気が吹き荒れた。


「だっ、だめだ……! こんな攻撃まともに受けたら――」


 マックスさんの言うように、周囲は人1人分ほどの大きさの氷柱があちこちに剣山状になって突き出して凍りついていた。

 間一髪で他の皆はなんとか直撃を避けたものの、マックスさんは利き足を完全に氷漬けにされてしまい、身動き取れなくなってしまっていた。


「く、くそぉ…………――そうだ、ミランダは!」


 暴君の口元からいって、その攻撃を最も真正面から受けることになったのは私だった。

 誰もが氷像にされた私を想像して目を覆った事だろう。


 しかし私は立っている。


「み、ミランダ……?」


 ふふふ。よりにもよって『氷』の一撃とは。

 いやぁ助かった。これが炎とか通常攻撃だったら流石に無理ゲーだったかもしれないが、今の私にはありとあらゆる『氷属性』攻撃が通用しない。

 むしろスキル『氷雪の戦乙女(ヴァルキュリー)』でHPとMPが回復する事もあるくらいだ。


 氷は私の立っていた箇所のみを残すようにして歯抜け状態で凍りついていなかった。

 さぁ――今度はこっちの『反撃』ですよ。


 今回私が設定した『反撃(カウンター)』は通常攻撃だ。

 ブリザードでもよかったのだが、魔法が効かなかったら勿体ないのと、新スキルを試してみたいというのがあった。

 予期せぬ戦闘に際して『反撃』を入れ替えていたら、準備が整う前に噛みつきをくらってしまったため、初撃に対するカウンターが発動しなかったというわけだ。


 しかし今や準備万端。

 狙うは蛇の黒い頭――ではなくその尻尾。

 部位による弱点とかは無さそうだけど、一番近くにあるのが暴君の尻尾なので。


「はぁあああっ‼︎」


 日本刀を硬く握りしめ、蛇の尾目掛けて斬りつけた。


 スキル『ジャイアントキリング』によるレベル差補正、『オートカウンターLvX』によるダメージ2倍+スキル『剣聖』の攻撃力2倍補正と守備力半減効果に加えて、『大剣豪』のダメージ3倍の特盛補正だ。


 魔の猿には通り切らなかった私の剣撃だったが、あの時よりレベルもスキルも上がっているためか――はたまたクリティカル補正が働いたのか、暴君のとてつもなく硬いはずの尻尾は豆腐でも切れるかのようにスパッと真っ二つに割れた。


「えっ?」


 そのありえない光景を目撃した誰もが素っ頓狂な声を上げた。

 あろうことかこの切った私本人も。


 一瞬切った感覚がしなかったのだ。

 何を切ったのかあまりにもわからなくて最初外したのかと思ってこんな裏声を出してしまったのだ。


 しかしその後何か重いものが地に落ちるような音がしたので、どうやら無事に尻尾切りに成功したのだとほっとする。

 しかも何故か尻尾だけでなく刀が届いていないはずの身の方にまで斬撃の傷跡が行き渡っており、暴君は緑色の血液を噴き上げて苦痛にもがき呻いた。

 暴れ回ろうにも、先ほどまで立派に生えていた尻尾が無く叩きつけることも出来ずにぶよぶよと醜い身体をくねらせる事しかできなくなっていた。


 怒りの矛先を私に向け、全神経をそこへ目掛けて勢いよく迫ってきた。



「危ない!」


 怒涛の勢いで暴君の牙が迫ってくる。いや普通にすごい怖い。

 しかしここで運良く『ソードガーディアン』のスキルが発動し、暴君の一撃を刀で弾くことに成功した。


「は?」


 更にその攻撃に対する『反撃(カウンター)』――

 激しくノックバックした暴君の無防備な生首に、強烈な斬撃がヒットし一刀両断する。


 尻尾に加えて首まで切られ、更に『クリティカルフォーエバー』による怒涛の追撃が炸裂したことで、肉体をズタズタに引き裂かれた暴君は静かに息を引き取った。

 危なかった。

 ソードガーディアンが発動していなければ、ミンチにされていたのは私だったかもしれない。

 何から何まで見切り発車の運任せな戦法で、仲間達には本当に申し訳なかったが、どうにか奇跡を紡いでの勝利である。


 『ジェノサイド・サイクロン』の発動する前に勝利できて何よりだが、ちょっと欲を言えばその攻撃も『覚える』で習得できたかもしれないと思うと、惜しい気がしないでもない。


 ……いや。今思い返してみても、そんな事悠長にやってる余裕なんてなかったし、下手したら危うくみんなが死ぬところだったのでやはり早急にケリをつける必要があった。

 それにしてもまさかあそこまで綺麗に切れるとは思ってもみなかった。

 なにせあの忌まわしき猿との記憶がどうしても頭によぎり、「まぁ良くてかすり傷程度だろう。あとはそれをチマチマ与えて削れればいいや」くらいにしか思ってなかったので思わず面食らってしまった。


 まぁ終わりよければ全てよしだ!

 多少の傷はあったけども誰一人脱落者を出す事なく、なんとか負けイベントの暴君を退けたぞ!



【メンバー全員のレベルが上がりました】



 おっ。さしもの強敵撃破でみんなのレベルも上がった。

 これにて一件落着だ。

 いやぁよかったよかった。いぇいブイ。

 戦利品代わりに暴君の黒い生首を脇に抱え、私はみんなの元に凱旋していった。





「……いやあの! すみません‼︎ ミランダさんちょっと良いですか⁈」



 ……私を待ち構えていた一同からその後、めちゃくちゃ質問責めにあったのは言うまでもなく……。

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