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15 私、いよいよ旅立ちます!

《起きてくださいマスター。もう朝ですよ》


「ん〜むにゃむにゃあともう5分だけぇ……」


 なにやら妖精さんみたいな声がする。

 ええい。目覚まし時計のようにやかましい奴よ。

 私は昨日からもうずっとスキル集めやらレベル上げやら薬草回収で忙しくてまともに眠っていないのだ。


 もう少しこのまま暖かい布団と毛布で惰眠を貪るのも悪くないではないか。

 第一、今日何曜日だと思っているのだ。

 まだ土曜か日曜のそこらだろう。仕事も学校もない全てがオールフリーな今の私にとって、休日の朝とはもうかけがえのない貴重なものなのだぞ。

 ゲームでいったらラストダンジョンの宝箱内にあるレア装備くらい貴重なんだぞ。

 分かったらその小うるさい音を出すのをやめ…………


 待てよ。休日? ラストダンジョン?



「うっわああああああっまた寝過ごしたぁ⁉︎」


《ひいっ‼︎》


 私が勢いよく布団を投げ捨てて起き上がると同時に、ガシャンガシャンと何かが床に散乱した音がした。

 目をぱちくり開けて見てみると、昨日我がパーティーに加入した期待の新人・妖精さんが何やら慌てふためいていた。

 散らばったものはぱっと見、赤い唐辛子を捻じ曲げたようなものに似ている。

 見覚えがあるようなので私は記憶の底に手をかけてみる。


 思い出した。そうだあれは『目覚め草』だ。

 どうやら妖精さん、一向に目を覚さない私に目覚め草を煎じて飲ませようとでもしていたのだ。

 乳鉢のようなものまで落ちてるし、間違いない。

 で、今しがた私が上げた悲鳴にびっくりして床に落としてしまったというわけだ。


 てか妖精さん心なしかまたデカくなってないか?

 昨日まで本当手のひらサイズの親指姫だったのに、今ではなんか人間の5歳児くらいになってるぞ。

 ちっちゃなおててで必死に溢れた目覚め草拾い集めてるし。


《あ、マスター。おはようございます。すみません。うっかりコレこぼしてしまったので、掃除からさせてください》


「あーいいよいいよリーフルさん。おはよう。それ私が片しとくから」


《いけませんっ。私の不始末をマスターに押し付けるなんて》


「んー。でも私は朝のお着替え出してくれる方が助かるけどなー」


 そういうと彼女はつぶらな瞳をキラキラと輝かせて「わっかりましたあ!」と言い、乳鉢と目覚め草をささっと集めてクローゼットから私、ミランダさんの着替えを用意した。


 仕事早!

 往年の王室御用達メイドさんもビックリの早さだったよ。

 私はその事で妖精さんにお礼を言って服を着替え、顔を洗いに向かった。


「あ、おはよ〜ミランダさん〜」


 眠そうに髪の毛ボサボサで出てきたのは合法ショタ、レイブンさんだ。

 そんな子供っぽいパジャマ着られるとますます犯罪臭が漂ってくるぞ。

 ゲームで見れない彼の貴重な寝巻き姿にクロニクルファンとしては心が躍る。


「おはようございます。レイブンさん」


 2人仲良くこうして洗面所の前に並んで立つと、なんだか姉弟みたいだ。

 ほとんど歳近いはずなのにね。

 顔を一通り洗い終えた私が順番を譲ると、彼がじっとそのまん丸としたショタ面をこちらに向けてきた。


「あ、あの……? どうぞ?」


「なんだかミランダさん、変わったね」


 心臓がドキィという効果音に変わって張り出す気分になった。

 私にとって顔洗うより効果的な目覚めだったわ。

 呼吸が加速度的に荒くなり、額から背中からよくない汗がだくだく落ちてくる。


「どどどどどど、どどど、どう、どうどうしてかな〜?」


 あまりの動揺っぷりから歯がガチャガチャガチャガチャと真冬の雪国にその身を晒された人のように揺れる。

 お、おちつけおちちちちおちつけ。

 昨晩の旅路は誰にも見られていないはず!

 部屋の戸もちゃんと閉めた! 音も立てずに扉を開けて出た!

 私に落ち度は無かったはずだ。


「いやどうしたの〜そんなにあわてて〜」


「あわっ。あわ、あわあわててなんかないよ〜泡泡泡……」


 置くのを忘れて握りしめていた石鹸をひたすら手で擦り合わせていると、そこら中に泡とシャボン玉が飛び交った。


「なんかね。ミランダさんここ最近たくましくなったみたい! うまく言えないけどね、力強いオーラを感じるよ」


「へ、へぇ〜そ、そうなんだぁAHAHAHA……」


 じゃぶじゃぶ水を流して洗面するレイブンくんを、横目を泳がせながら見つめていた。


 このショタ、勘がめちゃくちゃ鋭いぞ。

 伊達にチームのサポーター名乗るわけじゃねぇな。

 戦闘面だけでなくこういったチームメンバーのちょっとした違いとか、雰囲気やメンタルにも気を配れるのか。

 くそーなんて高性能なショタなんだ。

 世間の鈍感ラノベ系男性諸君に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。


 そのうち眼鏡に蝶ネクタイとかつけ始めて「あれれ〜? おかしいぞぉ〜もしかして貴女、ミランダさんじゃないんじゃなーい? ねえ〜どうなの〜お・ね・え・さ・〜・んwwwあれあれぇ〜? もしかして隠し通せてると思ってたの? ざーんねんバレバレですけどぉおおおんんんん⁈」とかみんなの前で公開処刑されるんじゃなかろうか。


 冗談じゃないぞ。

 中の人なぞ居ないッ‼︎

 もし仮に万が一このガキがそのような暴挙に出ようとしたら、その口を意識失うまで塞ぐぞ。

 パーティーメンバー殺害とかゲームキャラにあるまじき大罪だが、その時はやむを得まい。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。


 そんな剣先より鋭かった合法ショタっ子とは打って変わって鈍感を地でいくのがこのお方、うざくない筋肉の戦士マックスさんだ。

 彼は私を一瞥しても「おはよう〜今日も早起きだね〜」といかつい顔をふわふわにさせてのんびり話しかけてくるだけだった。


 レイブンさんの後ろに立ってると、なんか今にも肉の圧で殺して丸めてしまいそうな雰囲気だった(失礼)。


 そして最後にして一番必要な来客の我らが勇者スラッシュくんは、最早寝癖なのか地毛なのかよく分からないレベルで明日の方角に向かってとんがった頭をしていた。


「…………地毛だ」


 …………あっ、そうでしたか。


 かくして一同が食卓に集い、素晴らしい朝食に舌鼓を打った――。


「なぁなぁ。その、朝から気になってた事聞いて良いかミランダ」


「? なんですか」


「その子……誰なんだ?」


 硬い黒いパンを頬張っているところに、マックスさんからの疑問が飛んできた。

 その者――妖精さんは私の後ろで椅子を掴んでぷるぷる背伸びをして立っていた。


「ああ。すみません。皆さんに紹介します。この子はリーフルちゃん。『薬草の妖精』さんです」


 それを聞くと食べていたパンを皆一様に吹き出した。


「薬草の……」


「妖精だぁ?」


 みんな『信じられぬものを見た。』というような顔つきをして妖精さんをじっと見ていた。


「た、たしかに人間には見えねえけどよ――」


「……ミランダ。いつの間に出会ったんだ」


 スラッシュくんからのぶっきらぼうなツッコミが耳に刺さる。


「え、え、えっとそれは――」


《それは昨日マスターがんごごご》


「ん?」


 咄嗟にべらべら喋りそうな妖精さんの口を塞いだ。


「あ、あははは。じ・つ・は〜‼︎ たまたま昨日道具屋さんで買った薬草の中にぃーたまたまこの子が入り込んでて〜。そんでたまたま当たったもんですから、たまたま仲間にしちゃいましたあははは!」


 誤魔化すにしても我ながら手遅れなレベルで酷い弁解だった。

 考えた事を思いついたまま話すとこういう取り返しのつかない事になる。

 なんだ当たりって。そんなアイスじゃあるまいし。


 しかし割と不審感抜群だった私の言い訳にも「そうか」と比較的好印象に受け止めてくれた。

 も、持つべきものは優しい仲間っ……‼︎


「あ、そ、それでですねスラッシュさん。あの……この子パーティーに入れてしまっても……?」


「……俺は知らんが、ミランダに懐いているのだろう。ミランダは俺たちの大切な仲間だ。そのミランダが仲間だというのだから、まぁそういう事だ」


 銀髪の勇者は照れ臭い台詞を、格好つけてそう言っていた。

 ありがてええ。流石は稀代の勇者様や。

 ミランダさん抜きにしても、私一生ついて行きます。


「よろしくねっ妖精さん」


 テーブルから身を乗り出してレイブンさんが優しく微笑んで言った。

 妖精さんは無表情で無言のままというつれない態度を取っていた。


「だ、ダメですよリーフルさん。この人たちは私の大事な仲間なんですからっ」


《私が従うのはマスター・ミランダ様のみです。他の人間と馴れ合うつもりはありません》


 ぴ、ぴしゃりいくなぁ〜……。

 人間の社会ではやっていけなそうなタイプだ。

 まぁ妖精なんだから当然かもしれないけど。


「それでもです。みんな同じ人間なんですから、リーフルさんは相手によって態度をそんなに変えたらいけません。分かりましたか?」


《ま、マスターがそう仰るなら……》


 その後彼女は(内心多分嫌々ながらも)皆にきちんと挨拶し、ようやく晴れて全員から仲間と認めてもらえた。


 いや〜よかったよかった。

 「いけません。元いた場所に戻してきなさい!」とか言われたらどうしようかと思っちゃった。

 そんな捨て犬を拾ってきた子供のような事を考えていると、みんなそれぞれ出立の準備を始めていた。


 目指すはいよいよ強敵オンパレードの最難関地帯、『ガルガンドラ』だ。


 出発前、私はそういえば昨日妖精さんに頼んで埋めてもらったドーピングアイテム達の成長が気になったので、軽く出してもらう事にした。

 昨日きちんとお水をやったから、枯れることはないと思うけど……。


《わっ! 見てくださいよスゴイですマスター! 後三日もすれば収穫できそうですよ!》


「嘘‼︎」


 昨日まで間違いなく芽だけだった草たちが、今ではすくすくと育っており、実をつけようとしているではないか。

 こ、こんなことってあるのか。

 そんなに時間経ってないはずだろう。


《うーん……きっとマスターの植物に対する愛情を一身に受けたので、植物たちもそれに合わせてグングン育っていったのだと思いますよ。流石慈悲深い我らがマスターです!》


「は、ははは……」


 言えない。本当は「早く育ってねドーピングアイテムちゃん……ぐへへ」とか愛情とはかけ離れた邪な考えで水やりしたとか言えない。


「おーいミランダー。もうみんな準備できてるぞー」


「あっ、はいただいま!」


 妖精さんに野菜庭園をしまってもらい、私はいそいでブーツの底に手を入れ、お世話になったベッドたちと別れを告げて勇者たちの待つ外へと駆け出した。

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