14 私、お疲れ様! ようやく眠れます!
《これからよろしくお願いしますね。マスター》
「あっ、はい……よろしくですリーフルさん。それと別にマスターなんて呼ばなくても良いですよ。ミランダと呼んでくれて構いませんから」
《ダメですよ。マスターは私の命の恩人なんですからっ。そんな失礼な真似はできません!》
少しばかりのお水と薬草をあげてみたら、妖精さんはみるみるうちに元気になっていった。
今では可愛いお尻をふりふりとさせながら私の周りをぴょんぴょん飛び回っている。
なんだか心なしか少し妖精さんが大きく見える。
そういえば成長がどうこう言っていたな。
いずれは植物みたいに根がヴァーっと伸びていくんだろうか。
今可愛い妖精さんだけど……ユグドラシルみたいな物々しいドラゴンとかになられたらなんか複雑だぞ。
話してみて分かった事だが、妖精さんは結構真面目で優しい性格だ。
ちょっと頑固なところもあるが、かなり私たち『人間』に理解ある種族だと思う。
何より『薬草』を司りその名を冠する妖精さんなだけあり、慈悲深く傷ついたものを癒すのがとても得意だ。
大変下衆な考えをするなら、彼女が居れば薬草やポーションの節約にもなる。これは非常にありがたい。
回復アイテムは拾える数にも限りがある。
今現在私のゴールドは3500と溜まった方ではあるが、出来ることならこれらのお金は今後の装備品にあてたい。
特に今の私は何と言っても未だに初期装備。
RPGの経験から基づく持論からいって、回復を重視するよりも守備を固めてそもそもダメージを受けず回復の手間を省く方が、早く攻撃に転じられて危機回避に繋がる。
今すぐ買いに行きたいところだが、基本的に夜間装備品店は間いていない。
この忌まわしいバグで時が止められた世界を早急に元に戻さねば。
洞窟から帰路に向かう途中、私たちは何度もモンスターとエンカウントしていった。
サンダーやブリザード、トルネードを駆使して集団で現れる獣を一網打尽にしていく。
ちなみに妖精さんは戦闘には直接参加はしない。
故に的になることもない。
強いて言うなら戦闘中『応援』と『回復』をたまにしてくれるくらいだが。
《すみません……私そっちの方はまだからっきしで……》
「気にしなくていいよリーフルさん」
戦闘後休憩も兼ねて、見晴らしの良い平原でキャンプする事にした。
肉はマッスルボアのを、火は私のフレアで。
うまく倒せば焼肉状態で持ち帰る事ができるので、調理の手間要らずだ。
「ん〜美味しい〜」
マッスルボアのお肉はちょっと独特の臭みがあるが、刺激的な肉汁と食欲を唆る脂身が溢れる良質なものだった。
こんがり焼けた肉がなんとも夜分に歩き回って疲れた身体に染み渡る。
食感はハムみたいなものだろうか。
この世界にも料理屋は確か存在していたはずなので、今からとても楽しみだ。
美味しそうにボアの肉を頬張る私を、妖精リーフルさんは不思議そうに見ていた。
《お肉ってそんなに美味しいの? 私は薬草の妖精だからそういうの食べたことなくて》
「そういえば葉っぱ以外食べられないんでしたっけ」
《はい。私の中で魔力やエネルギーにする方法がありませんからね》
曰く妖精さんは植物を食べて、それをまた体内で植物にとって有益な栄養素などに変えて、セラピーのように自然や植物にエネルギーを撒き散らしているんだそうだ。
まさに自然との共生。もしかしたら妖精さん自身が自然そのものかもしれない。
ここでふと、私にある考えが思いつく。
植物を『育てる』事ができるなら――
「あ、あのですねリーフルさん。つかぬ事をお伺いしますが……。その、ドーピングアイテムとかって量産したりできますかね?」
《どぉぴんぐ?》
「これみたいなやつです」
私は食べきれず残していた『スタミナ草』と『スピードキノコ』を妖精さんに見せつけた。
《ええ。なんならそれ栽培して増やしたりできるわよ》
「おおおおお‼︎ マジですか! で、でしたらこれお願いできませんか?」
妖精さんはにっこりと笑って快諾してくれた。
「時間はかかるけどね」と彼女は同時に付け足していた。
やはりなんでも言ってみるもんだ。
まず彼女は本を取り出し、そこから小さな畑のようなものを具現化させた。
「わーっすごい! なんですかこれ」
《これは箱庭魔法の一部ね。私たち妖精はですね。地上で絶滅しそうな・あるいは今にも死に絶えそうな草や木や花といった植物を、ここに植え直して無事成長し切るまでの間保存しているの》
彼女は早速手渡した2種のドーピングアイテムを畑にぶち込んだ。
土の中ですくすく育つよう、いきなりその2つの埋めた箇所からぽんっと小さな芽が飛び出した。
「うわぁあああ……スゴイ!」
《まぁ1日では流石に育たないからそうね……大体10日くらい待ってたら実がなったりして収穫できるようになるわ》
10日かぁ……1週間以上になるのか。
ちょっと流石に長いな。しかし、今は使える手段をなんでも使おう。
1個育て切ればそのあとは恐らく倍々算式に増えていくはずだ。最終的には手に余るほど。
あーんもう惜しいことしたなー。
全部がっつかずに取っておけば他の種も量産できたのに……。
まあいい。それはまたの機会としよう。
今はこの植えた2つの小さな希望に明るい未来を想像しようじゃないか。
ぐへへ楽しみだ。
低レベルでも能力値さえあれば良いのは、スキル『ジャイアント・キリング』の発動条件を満たしやすくなるからだ。
下手にレベルを上げて弱いままよりも、低レベルで打ち止めとしておき、後はドーピングでレベル差を補うというやり方がもっとも効果的にダメージを与えられる手段となるはずだ。
そう何日何ヶ月と猶予があるわけではないが、ドーピングファームが出来上がったら、死ぬほど乱獲してやろう。
楽しみな気持ちもほどほどに、私たちはようやく元いた街に戻って来られた。
まだ時間は夜である。
妖精さんを一緒に宿屋へ連れて案内し、誰にも気付かれることなく2階の自室へ戻る事ができた。
「よーし。あとはこれでステータスオープンを解除すれば……」
大丈夫だろうか。解いた瞬間いきなりそれまで流れていた時間が倍速回しになって、突然朝とか昼になったり何年後ーになったりしないだろうか。
おっかなびくびくで私はステータス画面を閉じた。
しばらく待っても景色は夜のままだった。
私自身、もうどこもすり抜けなくなったので無事解除が済んで何も起こらなかったとほっとした。
「それじゃあふわあぁあ……おやすみ……妖精さん……」
世界の夜と同時に、長らく続いた緊張の糸から解き放たれた私は思わず欠伸をしてしまった。
眠気が勢いよく押し寄せてくる。本来なら私は相当な夜更かしをしたことになる。
しかし今は私が部屋を出る前くらいから時は動いていない。
これで安心して眠りにつける。
《おやすみなさい。マスター》
妖精さんの姿と声が次第に遠くなっていき、私はまどろみの中に意識が消え落ちていった。




