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09 私、敵の技を覚えます!

 かくして筋トレの修羅を乗り越えた私は、またまた格段に強くなった(ような気がした)。


 余談だが、うっかりまた初心冒険者の部屋に再入室してしまった時、例の筋肉だるまが復活してて「はいようこそー!」とか元気よく言われた時は、流石にその場で首を吊って自決するところだった。危ない危ない。


 ていうかお前天界に帰ったんじゃないのかよ。

 別個体なのかよ。

 ていうかていうか、10回に1回の確率2回も連続で引き当てる私の運よ。

 どうなってるんだホント。

 こんなもんに運使う暇があるなら、もっとミランダさんの未来を良くしろ。


 そうしたアクシデントもくぐり抜け、私はいよいよ外の世界へ飛び出してみようと決心した。


 この近辺の適正レベルは10〜12。

 今現在私のレベルは11。

 それも単なるレベル11ではなく、あちこち奇妙なプレイを施した結果手に入ったトンデモスキルてんこもりのレベル11だ。


 まずこれと同じ状態になることは金輪際二度とないだろう。

 意図して到底たどり着ける領域ではないと、自慢じゃないがそう思う。


 しかしまた問題となるのが、適正レベルはクリアできていても肝心の私個人は1人であるという事だ。

 つまりターゲットは全て私に傾き、集団で魔物に遭遇したが最後、思う存分袋叩きにされるのだ。

 いたいけないち町娘に数の暴力を強いるとは流石は魔物、汚い。


 一度だけならいかなる攻撃も防げるとはいえ、束になって襲い掛かられると魔物からしたら「ふーん。で? っていう」状態になる。

 しかしまだ私にはそれについての対策手段があった。


 そう、それはスキル『カウンター』の取得と、『全体魔法』の習得だ。


 この2つ。普通に冒険する上でも、やり込みプレイでも欠かせない超便利ものだ。

 当然そう易々と習得できるものではないというのは重々承知しており、私自身もそこに抜かりはない。


 まずそれには敵の技を『覚える』という特殊技の習得が大前提となる。

 『覚える』という特技は、敵が最後に自分に向けて使用してきた技を一定の確率で使えるようにするという反則技だ。

 第一に受動が基本になるので回復魔法や特技、補助系魔法などは覚えられないが、代わりにほとんどの技を習得できる可能性を秘めているぶっ壊れ特技の一つだ。


 一度でも『覚える』事に成功した場合、その後も忘れる事なく永続使用が可能となる。

 灼熱の火炎や、絶対零度の吹雪、更には神の雷や斬撃技なども全て例外なく、である。

 つまりこの『覚える』を用いて敵の全体攻撃技を習得してしまい、集団暴力に対抗しようというわけなのだ。


 しかしながらこの『覚える』を覚えるという、なんだかゲシュタルト崩壊を引き起こしそうな説明だが、その条件がやたら厳しい。


 まず『まねる』という特技を累計400回以上使って成功させ、且つそれで敵にとどめを刺さなければ使えないというまあまあの鬼畜っぷりだ。


 まねるは敵の動きを『観察』するを20回以上使えば習得できるので、さほど難しくはないのだが。

 もっともこんなものはゲーム全体からみればまだまだ初心者の域を出ないレベルの難易度なので、ここで詰んでは先がない。


 まねるでは敵の放った技の本来の威力の1/10しか発揮しない上に、今後ストックして使うことができないため、『覚える』の完全なる下位互換である。

 言うならば『覚える』は『まねる』の進化形態である。


 さてそんな一連の所作に相応しいモンスターが出現する地帯がある。


 私は民家を立て続けにすり抜けて、この街の外に出てみた。


「うわーっ広いなあ……こんなだったよなぁ懐かしい」


 三日月状の形をした大陸、『アンブラ』。

 序盤の村とかもこの大陸内に存在する。

 この外のフィールドでやるべきことは、色の違う赤色の砂漠を発見することだ。


「えーと。あったあった。ここだな」


 夜で見えにくいかもしれないと危惧していたが、幸い月の光に照りつけられ一部分だけ真っ赤な砂場が目に入った。


 この近辺では何故か弱い敵が単体でしか現れないという特徴がある。

 デバッグの際のエンカウントテーブル確認の名残だとか、モンスターが集まる不思議な空間だとか有識者によってまことしやかに囁かれていたが、かくいう私にも事の真相は不明だ。


 今はそんなことはどうでもいい。

 まずはここでモンスターと遭遇し、『観察』を20回以上続けて『まねる』を習得し、そのまま『まねる』を用いて『覚える』まで習得する。


 早速私の元に現れたのはワーラットだった。

 小さいが二足歩行で進撃してくるネズミだ。

 全長が私の膝下にも満たないので、見かけのわりにそれほど危険度はない。


 行動パターンも3回に1回噛み付いてくるくらいで、『まねる』や『覚える』習得にはもってこいのカモだ。


「よーしやるぞネズミさん……!」


 そして私とワーラットの長い睨めっこ大会が始まった……。




   ◇ ◇ ◇



「よ、よし……これで『まねる』も『覚える』も習得しましたよ……」


 経過大体3850ターンだろうか。

 観察とまねるだけにひたすら特化した私は、条件を満たすべく何度も何度もネズミを真似て噛み付いた。


 勿論合間にやばくなったら回復魔法や薬草で回復はしていた。

 そして他にもワーラットの余計な行動が度々挟まるので、こんなにもターンが経過してしまったというわけだ。


 だがこれでややこしい下準備が終了し、晴れて敵の全体技を『覚える』ことができる。

 試行回数400回とは実に長かった。途中何度も心が折れるんじゃないかと思った。

 その度に私は最悪の未来を避けるぞと自分を鼓舞していった。


 口の中もうワーラットの体毛まみれだ。

 別のやつにしとけばよかったかもしれないと今更ながら思った。



 そして幾度となく敵から攻撃を受けた事で、ようやくスキル『カウンター』が解放された。

 これにていよいよ準備が整った。



カウンター

効果:敵から攻撃を受けた際、ダメージの有無に関わらず予め設定された攻撃を反撃として与える。


取得条件:戦闘回数が累計1万回以上。更に敵からの攻撃を400回以上受ける。




 そしてこの次に向かうべき場所は、ここよりちょっと北にある湖だ。


 そこにはアイスドラゴンというまぁ現状ではどうあがいても勝ち目のないステキな強さを誇る龍が固定エネミーとして居座っている。

 昼間は眠ってることが多いのだが、夜になると活発に行動し興味本位で触れてきたプレイヤーを氷漬けにするというのがお決まりの日課だ。


 ストーリー後半でようやく退治できるレベルの、通常ならスルー確定の場違いな強敵だ。


 しかし今私には『覚える』という技がある。

 そして一度だけなら攻撃を防ぐ術がある。

 奴の放つ氷属性魔法――ブリザードを習得できれば、今後冒険がかなりスムーズになる。

 そして集団でリンチにしようと目論む不届な輩を一斉で凍り漬けの返り討ちにしてやれる。


 敵がその前に襲ってこないよう聖水を撒き散らしながら、私はどうにか無エンカウントで湖に到着した。


 そして静寂な夜の水場に似つかわしくない威圧感を誇り、巨体を揺らしながら動いているシンボルがいる。

 アイスドラゴンだ。


 まずやつに目掛けて不意打ちでエンカウントする。

 固定のモンスターには先制で何かしらアクションを起こすと、そのまま面食らった状態で戦闘が始まり、これが一つのアドバンテージとなる。


 手に持った小石をアイスドラゴンにぶつけ、戦闘開始を確認する。


 アイスドラゴンは敵を探って様子を見ている状態となった。

 この瞬間に私が『筋トレ』・スクワットを発動し、無敵バリアを張る。


 次に私は『覚える』の構えを取り、アイスドラゴンの攻撃を待つ。


 アイスドラゴンの初手攻撃は『ブリザード』一択。

 これで先手が固定されていることが、解析班によって明らかにされている。


 その予想に違わずアイスドラゴンは荘厳な口元から凍てつく冷気を解き放った。


 バリアが無ければ一瞬で凍りついていたであろう、強烈な一撃であった。


 しかし私の身体は凍りつくどころか水滴一粒付くことなく、安全な状態で『ブリザード』を『覚える』事に成功した。


 それを確認したら、すぐさまその場からの逃走を試みる。

 ここでもたもたしていては、確実に次なる吹雪の餌食となってしまう。


 半径50メートルは離れれば、戦闘離脱が許可される。

 敵がこちらを視認できなくなる限界距離なのである。


 まだまだ遠い――。

 私はミランダさんの細い町娘足で、どうにか絡まる砂を押し寄せ逃げて行った。

 ただひたすら足を前に向けて全速力で駆けて行った。


 うっかり靴紐を踏んで転げ落ちそうになった時は、心臓が止まり全真の血液が凍りついていくような感覚に襲われた。


 それでも現状からの退却を無事完了し、私は強敵・アイスドラゴンから強技『ブリザード』を習得することができた。


「よっ……しゃ! これで勝つる!」


 そうして向かうところ敵無し状態になった私が向かったのは、そう。何を隠そう『薬草の洞窟』である。

 豊富な状態異常系回復アイテムの数々。それに店では手に入らない薬品まであるこの洞窟を見逃すわけにはいかない。


 やっとこさ苦労して手に入れた全体攻撃で恐れるものは何もない。

 いざ尋常に召されよ――モンスターども。


 私は勇気ある一歩を洞窟に向けて踏み出して行った……。

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