08 私、筋トレします! 〜筋肉はいいぞ〜
「さぁ――次はいよいよボクと筋肉対決してみようかー!」
「こ、このボケぇええええええ‼︎」
数々の土人形どもの死体の山を築き上げた果てに、ようやく待っていたのはこの筋トレ地獄の大トリを勤めるボスキャラ・マッチョメンだった。
彼との筋トレ修行の評価がA〜Sだった場合、最後に彼との対戦が許可される。
評価基準は
①土人形をいかに素早く倒したか。
②いかに正確に撃破したか。
③特殊コマンド『筋トレ』の使用回数と土人形の撃破数。
によって決定される。
まぁ要は撃破前に『筋トレ』を使って、手早く土人形たちを多く倒せば評価は自然に高くなる。
しかしこの面倒な解放条件を満たせば、もっと面倒な地獄が待っているのだ。
敵としてのマッチョ・メンのステータスは、解析者によるとHPがなんと30万もあるそうだ。
これは単体では間違いなく最高クラスで、ラスボスを除けばダントツで1番高いHPらしい。
「さぁ。ボクを倒すことができるかな?」
目の前の鬱陶しい筋肉の塊は、ぴくぴくと大胸筋を揺らしながら煽りコメントをしてきた。
お望み通り肉の塊にしてやろうかと力を込めるが、この汗臭いNPCのレベルはなんと0。
つまり設定されていないということで、私の持つ上級者狩りのスキル『ジャイアント・キリング』は発動しない。
よって全力といってもまだまだ削り切るには至らない。
「うーん。今の一撃、良いよ! 筋肉をじんわり感じるよ!」
案の定奴は私のミランダパンチを受けても、ピンピンとして笑っていやがった。
ちなみにこいつは受けたダメージの総量によってセリフが変化するらしい。
その数なんと64種類。こいつのためだけに容量割きすぎではないか。
一撃で30万ダメージ出し切って倒すと、特殊なセリフと共にこいつが仲間になるなんてデマが流布された事もあったが、公式の証言によるとこいつの仲間としてのデータはどこにも存在しないらしい(面白いから採用する方針はあったみたいだが)。
正直仲間にならなくて正解である。
こんなやつ連れ回したらイベントの雰囲気ぶち壊しである。
かといて上半身裸のこいつが状況に見合った真面目なコメントをしてきても、それはそれでシュール過ぎる感が否めないのでやはり採用はナシでいってもらいたい。
「さぁ。どこからでもかかっておいで!」
そしてこいつ自身は攻撃してこない。
攻撃してくるのは、通算15ターン経過した時の『マッスルサイクロン』という技でだけだ。
1ターン累計20000以下のダメージしか与えられず、倒しきれなかった時にこの強制イベントが発生し、プレイヤー全体に『現在HP×8』という法外過ぎるダメージの技を放って戦闘が終了する。
ちなみにそのまま全滅することもある。
こいつに関してだけは何もかもがめちゃくちゃだ。
さてさてということはあと14ターン経過までに、私はこの筋肉野郎のHPを削り切らなければならないのだ。
……正直無理なので逃げても良いですか?
今現在私のHPは60。
マッスルサイクロンの安全圏内には、奴のHPが7である必要がある。
……うん、無理だ。
こっからたとえクリティカル連発しても無理だ。
TASもRTAも全裸で逃げ出すレベルだわ。
ていうか、そこまでやって7だけ残るとか起こり得るのか?
普通に削り切ると思うんだが。
くそう。強くなる事に焦ってこんな思わぬ落とし穴があるとは。
死別回避しに来てんのに、別な死因がこいつの『マッスルサイクロン』とか絶対嫌だ。そんなんで死んだら、死んでも死にきれない。
なんとかしなければ。このまま攻撃を続けても未来はあるのか。
残された私の手段……それは。
『筋トレ』だ。
「おっ! 良いねえ筋トレ大事!」
私はとりあえず腹筋を重ねてみる事にした。
こいつとの一連イベントで習得できる謎コマンド『筋トレ』。
ちなみに別段ステータスが上がるわけでもない、完全なるただの無駄行動だ。
だが――今私はそんな無駄行動に一縷の望みをかけて奇跡を起こす。起こしてみせる!
何が何でも……
「うおおおおおおー‼︎ ここで死ぬわけにはいかねぇんだぁあああ!」
「良いよ、良いよ! 魂の波動を感じる……! キミの筋肉に対する熱意がビシッバシッ伝わってくるよ……‼︎」
私が息をするのも忘れて腹筋に乗じていると、なにやら眼前の筋肉モンスターが熱くなっているのを感じる。
これもしかしていけるのではないか?
まぁいい。次は腕立て伏せじゃ。
何でも良いから起きろ奇跡いいいいい!
「うおおおおっ! 熱い……! 熱いぜ! キミのソウル! 筋肉への愛が……炎のように……ファイアーッ‼︎」
比喩ではなくどうやら本当に燃え盛っているようだ。
そのまま丸焦げになってこんがり肉にでもなってしまえばいいのに。
なんて考えもよそに、私は筋トレをひたすら続ける。
腹筋、腕立て伏せ、背筋、スクワット。
一連の動作をまるで特殊コマンド入力のように連鎖させる。
すると目の前に『赤』、『青』、『黄』、『緑』の丸い宝石が出現し、それらが互いを呼び合うように共鳴し、光り輝いていった。
やがてそれらの宝玉は一つになり、マッチョメンに取り込まれていった――
そのあまりの眩さに目を覆い、辺りは白い光に包まれていった。
そして白い光の中から、凛々しい筋肉男マッチョメンが背中から天使のような翼を携えて降臨していた。
「キミの筋肉への想い――たしかに受け取らせてもらった。キミは筋トレを愛し、筋肉を愛し、全てを愛した。最早私が教えられる事は何もない――。最後に私からこれを託そう」
神の如き神々しさから、マッチョメンは私に光り輝く何かを渡してきた。
「ではさらばだ、愛する我が子孫よ――。筋肉と共にあれ。筋肉に無限の光があらんことを。筋肉よ、永遠なれ」
そうして彼は飛び去って行った。
辺りに残されたのは汗臭い羽とバーベルだけだった。
「……うん。なんだこのイベント‼︎」
◇ ◇ ◇
そんなこんなでおかしなイベントを乗り越えた私は、なにやら一つのスキルを獲得していた。
このすり抜けバグにより、ステータスが常時解放されているのでスキル確認も楽なのが嬉しいところだ。
【スキルを獲得しました】
筋肉の加護
効果:戦闘開始時『筋トレ』を行う事で一度だけ全魔法・物理攻撃を無効にするバリア状態になる
取得条件:マッチョメンを真の姿に進化させる
「筋肉すげええええええ!」
さらにもう一つ、私は新たに特技を習得していた。
【特技を習得しました】
マッスルサイクロン
効果:敵全体に自分の現在HP×8倍のダメージを与える。
消費MP:50
属性:無属性
備考:筋肉の神より認められた者だけが習得できる必殺技。
「筋肉すげえええええええええ‼︎」
長きに渡る私の汗水垂らした努力の筋トレも、決して無駄ではなかったことが証明された。
まだ明けぬ夜空に向かって、ガッツポーズを盛大に上げた。
私の夜はまだまだこれからだ。




