7:00
背中と首が軋む痛みで目を覚ますと、カーテンの向こう側から薄暗い明かりが差し込んで雨音が聞こえるのに気付く。
携帯を開き、時間を確認するとちょうど7時。
しかも7月7日のゾロ目で若干気分が上がる。
今日は昼から授業だからまだ寝ててもいいけど、いつもの癖が抜けない俺は体を起こし、隣に寝ている奏と将にタオルケットを掛けてた。
俺はテーブルにあるお茶を飲もうとしたけれど、中身を確認すると空っぽだったので飲みものを貰いに1階に降りると、早起きな音己ねぇが冷蔵庫を漁っていた。
一「音己ねぇ、おはよ。」
音己「起きんの早いね。」
音己ねぇは一瞬俺を見たがすぐに冷蔵庫に目線を戻し、何か食べものがないか探す。
一「いつも1番乗りしてるから。」
音己「あー…、そうだったな。」
音己ねぇはなにもない冷蔵庫の物色を諦めて、ソファーに掛けてあった半袖のパーカーを着て玄関に向かう。
一「雨降ってるよ?」
音己「食うもんないから。」
音己ねぇは一切俺を見ずに玄関に行って靴を履き始めた。
俺は全く目を合わせてくれない音己ねぇともっと話したいと思い、
「俺も行く。」
と言って、奏のサンダルを借り、ポケットに入れっぱなしだった財布を確認して音己ねぇとコンビニに向かうことにした。
音己「なんで私の傘に入ってくんの?」
と、音己ねぇは俺が傘を持ってこなかったことを不服そうに質問してくる。
一「2人で傘さしてたら喋りにくいじゃん。」
音己「じゃあ持って。」
一「はーい。」
俺は音己ねぇの傘を持って濡れないように距離を縮め、同じ歩幅で歩いていく。
いつの間にか背も歩幅も抜かしてしまった音己ねぇの身長は俺の鼻下くらいになっていた。
中学生の最初の方は、まだ音己ねぇの方が大きくてたくさん牛乳を飲んだことを思い出す。
一「パン買うの?」
俺は牛乳と言えばパンだなと思い、聞いてみた。
音己「米炊いた。」
なんで、米炊いたのにコンビニで飯買おうとしてるんだ?
一「じゃあいらないじゃん。」
音己「私は卵食べたい。」
一「俺にも作って。」
音己「だるい。」
軽くあしらわれてしまうけど、外で音己ねぇとこんなに話すの久しぶりかも。
会ってもすぐに音己ねぇはどっか行っちゃうから二言くらい話せないんだよな、と思っているとあっという間にコンビニに着き、品物をカゴに入れていく。
一「音己ねぇ、朝からポテチ食うの?」
音己「貯め買い。」
と言って、音己ねぇはお菓子とジュース、卵の他にハムを買う。
“今日は”って昨日言ってたけど、本当に毎日チートデイじゃん。
俺はどんどんお菓子が突っ込まれるカゴに、こそっと自分が好きな牛乳を入れようとしてたら既に入っていた。
一「音己ねぇって牛乳嫌いじゃなかった?」
音己「男の朝飯はミルクからじゃん。」
どういう偏見で語ってるのか分からないけどラッキーと思い、牛乳を元の場所に返してから音己ねぇが持っていたカゴを俺が持つ。
一「こんなの持ってたのかよ。俺に頼ってよ。」
音己「そんなの持てなかったら生きていけないだろ。」
俺が見てないうちに増えた6本のジュースが俺の筋力に抗おうと、カゴを地面に吸い寄せる。
その後も音己ねぇは数品カゴに入れ、スカなレジに並び会計をする。
俺は買い物袋にどんどん品物を入れて金を出そうとしたが、音己ねぇがクレカで払ってしまい財布を出す時間さえくれなかった。
また奢ってもらってしまったと男のプライドが折れそうになりながら外に出ると、雨は止んでいてさっきより明るく真っ白な空が広がる。
俺はこの牛乳をぶちまけたような空が好き。
太陽が見える青空もいいけれど、ぶちまけられた雲が鋭く照りつける太陽の光を柔らかくして俺たちに届けてくれてる様子が優しさを感じる。
俺が好きな空を眺めていると、突然音己ねぇが俺の買い物袋を持っている手を掴んできた。
音己「半分こ。」
一「なってないけど。」
俺はそのまま音己ねぇに手を掴まれながら家に向かう。
そういえばこんな事、前にもあった気がするけど忘れちゃったな。
俺は真っ白な空を見上げ、音己ねぇが好きだとずっと言っているバンドが作曲した日曜日の歌を音己ねぇは鼻歌で歌い出した。
日曜日でもないし、お昼でもないけどそんな気まぐれに歌う音己ねぇが俺は昔から好き。
俺はその鼻歌を聴きながら奏たちがいる家に戻った。
→ 日曜日