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風の剣士達

拠点の街の近くの洞窟で、ディンが眠る結晶を見つけてきたその帰り道。


「……今の所、凶暴化の兆しは見られないな」


今し方倒した魔物の死体を見て、俺はそう告げた。


以前、ディンがあの結晶から復活する直前に、この森の中の魔物がディンの魔力に当てられて凶暴化するという事があった。


今回もその様になってないかと懸念し、俺達は道すがら魔物を数体相手取り、その調査をしていたのだ。


しかし、今の所はその凶暴化の兆しの見える魔物は出て来なかった。


「やっぱり、アイツの復活直前じゃない内はそういう兆候は出て来ないらしいな」


「じゃあ、今の所は大丈夫って事か?」


「かもな。丁度良い目印じゃねぇか、魔物が凶暴化し出したら、アイツの目覚める頃だってな」


オーキはそう言って小さく笑う。


「でも、それを知らない近辺の住民達は困惑するだろうな。ディンが目覚めるまでの間、その事を言い伝えてくれる人を探さないと……」


そんな話をしている時だった。


「おい貴様等、そこで何をしている?」


「?」


俺とオーキは声の方に振り向く。


そこには、腰に剣を差した女性が立っていた。年齢は俺達より四から五は上に見えた。


「えーと……どちらさんで?」


オーキが尋ねると、その女剣士は答えた。


「私はセレニア自警団の者だ。この辺りで何か怪しい人物が目撃されたと町民から通報があって、調査しに来ていた」


セレニア自警団。偽グランディン達によってセレニア王国が滅亡した後、このセレニア領内の治安維持を行っている組織だ。


俺達はしょっちゅう街どころか国の外を飛び回っていた所為か、今まで関わる事はほぼ無かった。こうして接触するのは初めてだった。


「怪しい人物……? どんなですか?」


俺が尋ねると、女剣士はこう答えた。


「集会所で依頼を受けた訳では無いにも拘わらず、魔物を殺し回っている人物がいると聞いた」


「……うん、俺らじゃん」


俺達が来た道を振り替えると、魔物の死骸が彼方此方に転がっていた。凶暴化の兆候を確認する為に何体か戦ったのだが、些かやり過ぎてしまったらしい。


「悪戯に魔物達を刺激し過ぎると、街にまで来る可能性がある。あまりこういう事をされると困るのだがな……」


「す、済みません……」


「……丁度良いや。クウゴ、この人に事情を説明しないか?」


「うん、確かに。この街の自警団なら言い伝えてくれるかも知れないしな」


「? 何か事情があるみたいだな?」


「はい……実は――」


俺が話そうとした、その時。


「!!」


遠くから、馬の嘶きの様な声が聞こえた。そして、それに混じって人の悲鳴も。


「ここで待ってろ!!」


女剣士は直ぐさま、その声のした方へ走っていった。


「俺達も行こう」


俺が言うとオーキは頷き、俺達は女剣士の後に続いて駆け出した。





「はぁっ!!」


俺達がその場に駆け付けた時には、既に戦闘が始まっていた。


先程の女剣士は、数人の魔族の男達相手に剣を振るっていた。その少し離れた場所には、負傷した人間と矢で射抜かれた馬が横たわっていた。魔族達に襲われたのだろうか。


人間と馬はまだどちらも息があった。俺は駆け寄って魔術で治療した。


そして、治療しながらその女剣士の戦いぶりを見ていると、ある事に気が付いた。


「はぁっ!!」


女剣士は、横回転しながら繰り出す横薙ぎにより、複数人同時に斬り付ける。


「ふっ!!」


女剣士は、相手の剣を受けると、それを受け流してその威力も乗せて斬り返す。


「でゃっ!!」


女剣士は、跳びかかって渾身の一刀を叩き込む。


「……何か、どっかで見た動きだな」


オーキも気付いた様だ。これは、俺と『同じ流派』の剣技であった。


「でも、クウゴのに比べたら、何かその……弱い?」


オーキはそう指摘するが、それは少し誤りである。あれが本来の剣技の威力なのだ。


俺のは勇者紋(ブレイヴサイン)から供給される魔力によって、威力も範囲も過剰にブーストされてるからあれだけの力を発揮するのだ。常人が使えば、当然威力も変わってくる。


(まさか、あの人は……あっ!!)


女剣士が再びヴォルテック・エアらしき技を繰り出した。しかし、その繰り出した後の隙を突かれて、女剣士は斬り付けられた。


技の選択の判断が甘い。その所為で隙を作ってしまった様だ。


「くっ……しまった!!」


斬られた肩を押さえて膝をつく女剣士。そこに魔族達の剣が迫った。


俺はその間に割って入り、そして、


「ヴォルテック・エア!!!!」


回転しながら横薙ぎを繰り出し、それにより発生した斬撃の渦が俺と女剣士の周囲にいた魔族達を巻き上げた。


「なっ!! これは!!」


俺の技を見て、女剣士は何かに気付いた顔をしていた。


「威力は抑えた……さっさと消えろ」


「く、くそっ……!!」


傷付いた魔族達は身体を引き摺りながら、その場から立ち去った。


「大丈夫ですか? 今治療し――」


俺が回復魔術で治療しようとすると、その女剣士は立ち上がって俺の胸倉を掴んできて、詰め寄ってきた。


「貴様、どういう事だ!!? 今の技は、我がゼナソード家の技ではないか!!? 何故貴様が使える!!?」


「ゼナソード……やっぱりか!!」


女剣士の口から出たゼナソードの名を聞いて、俺は確信して、こう言った。


「貴女……トリュウ先生の子孫か!!」


「なっ……!!?」


俺の言葉を聞いて、女剣士はギョッとした様な表情を見せた。





トリュウ・ゼナソード、100年前の戦いの時に俺の旅に同行した仲間の一人にして、当時のセレニア王国筆頭騎士。


そして、俺の剣の師匠である。


この女剣士はそんなトリュウの子孫であり、名をアンジュと言うらしい。


「じゃあ、貴方が勇者……?」


先程怪我をした人間とアンジュの治療を終えると、俺は自分達の身の上を説明した。


「はい。100年前と、今回また召喚された勇者です。もう用は済んで三日後には帰る予定ですが」


「そ、そうとは知らず、先程は失礼な事を言って済みませんでした!!」


そう言ってアンジュは深々と頭を下げた。


「ちょっ!! 顔を上げて下さい!! 気にしてませんから!! それよりも、さっき話しそびれた事情について説明したいんですけど……」


そして、今から100年後に魔王グランディンが復活するという事と、その頃になるとこの辺りの魔物が凶暴化する可能性がある事を伝えた。


「……という訳で、その俺達の仲間だった魔王がその頃には復活するという事を語り継いでおいて欲しいんです。魔族側の代表者には俺達から伝えておきますので」


「アホで少し乱暴者だけど、もう悪い奴では無いので安心して下さい」


オーキがそう付け加えると、アンジュは小さく笑ってみせた。


「ふふ、わかりました。街の人々にも周知しておきます」


「お願いします……それにしても、まさか先生の子孫に出会えるなんて」


「クウゴの剣の師匠か……どんな人なんだ?」


オーキが俺に問うと、俺は当時の事を思い出しながら話し始めた。





「クウゴよ……剣の道において、最も重要な事は何だと思う?」


「え?」


旅を始めた頃、トリュウが俺にこう質問してきた。突然の事に俺は戸惑いながら、こう答えた。


「えと……間合い、とか……?」


「……」


トリュウは数秒黙った後で、こう言った。


「……堅苦しい!!!!」


「は?」


「確かに大事だけども!! それじゃないんだよ一番は!! もっと大切な事があるだろ!!」


「えと……それは?」


「必殺技だよ!! それも飛び切り格好いいの!!」


「ええ……」


トリュウの話を聞いて、俺は唖然としていた。


「驚くよね……これがセレニア王国筆頭騎士なんだから……」


隣で話を聞いていたハマドウが、苦笑しながら俺に話し掛けてきた。


「剣は格好いいだろう? だから使い手も格好よく使わなくてはならない!! 共闘する味方も、対面する敵も、格好いいって思わせるくらいにな!!」


「敵も……ですか?」


「そうだ!! それが人を守る剣に繋がると、私は思っている!!」


「はぁ……」


「クウゴ、お前の勇者紋(ブレイヴサイン)はその莫大な魔力で剣の技を強化出来る。そんなお前の勇者紋(ブレイヴサイン)と俺の剣技を組み合わせれば、実現出来るかも知れない……俺の理想の剣を!!」


そうして、俺はトリュウの指導の下で剣の腕を磨き、俺達の理想の剣を追求していった。


それが俺の、そしてゼナソード家の剣の『流派』の始まりなのであった。





「それから先生の稽古が始まるんだけど『技を出す時は技名を叫ぶべし』とか『もっと技の見栄えを気にするべし』とか、なんか剣技以外の事の指導が多かった気がするな……」


「面白い師匠だな……」


「流石はウチの先祖ね……」


アンジュは俺の話を聞いて、額に手を当てていた。


「その口振りだと、アンジュさんも何か心当たりが……?」


「はい……セレニア城で騎士だった父もそんな感じの人で、技名を叫ばない私にしょっちゅう口を挟んでました。私は恥ずかしいから止めてって言うのに……」


そういえば先程の戦いでも、アンジュは技名を叫んで無かった。どうやら羞恥の面で抵抗がある様だ。


「でも、先程クウゴさんの技を見て、父達が大事にしていた物の意味が何となくわかりました。味方も、敵でさえも魅了する剣技、それがどれだけ心強いか……」


「アンジュさん……」


「クウゴさん、明日時間ありますか? 宜しければ、是非稽古の手合わせをお願いしたいのですが……」


「俺と、稽古を?」


「はい。貴方や先祖達の大事にしてきた物を、私に出来る限り伝えていきたいですので、どうか……」


「はい、そういう事でしたら。オーキ、良いか?」


「おう、行ってきな」


そして次の日、街の自警団駐屯地にある訓練場にて、


「来て頂きありがとうございます。今日は宜しくお願いします」


「こちらこそ、宜しくお願いします……では稽古の前に一つ、言い忘れていた事があった」


「え?」


「この流派の名前の由来についてです。先生達が大事にしてきた物を伝えていってくれるというなら、これも知ってて欲しいから」





それは、トリュウの指導の下で幾つかの技が完成した時の事だった。


「流派の名前?」


「そうだ!! 新しい流派を立ち上げるなら流派名が必要だ。クウゴ、何か案はあるか?」


「ゼナソード流剣術……みたいなので良いんじゃないですか?」


「うーん……なんかしっくり来ないな?」


その後もお互い幾つか案を出し合ったが、中々しっくり来るのが決まらなかった。


そして、それを見かねたハマドウは溜息をつき、こう提案した。


「二人共、こういうのはどうだい? 流派名、一つ思い付いたんだ」


「ほう、それでどんな?」


「『風』。苦しみも哀しみも吹き流し、平和への追い風となってくれる、そんな意味を込めて付けた名前だ」





「……そうですか、流派の名前はクウゴさんのご友人が……」


「ええ。この名の意味も、ちゃんと伝えていって下さいね?」


「わかりました……私達が平和への追い風となれる様に、この剣と共に伝えていきます……では、行きます!!」


お互い木剣を構える。そして、互いに地を蹴り剣を振りかぶった。


そして、風の剣士達の剣はぶつかり合った。


伝えていって欲しい事を、思いを、この剣に乗せて、その重ねた剣戟により対話する。これからも、俺達が大切にしてきた事が言い伝えられていく事を祈りながら。


かつて友が付けてくれた『風』の名と共に。

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