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第1話 国民的大人気RPGを作れ

「国民的大人気RPGを作れ」


いきなりそんな無茶振りが降ってきたら、あなたならどうする?


メインプランナーに任命された因幡(♂)と、その相棒である相模(♀)が、ゲーム制作に悪戦苦闘するオフィス・ラブコメディー!


※作中では、昨今話題の「生成AI」の文章を堂々と使用してみました。どこで使われているか、読んでいただければ、すぐわかります!

※それ以外は人力です。

 お昼休みを控えた、秋の連休の狭間のオフィス。


 窓の外の日差しはまだ強く、フロアには夏休みの名残のような、緩い空気が漂っている。Tシャツにイージーパンツ、あるいはサンダル履きといったラフな格好の社員たちがまばらに座る静かなフロアで、隣席の後輩がキーボードを叩く手を止めてこちらを振り向いた。


「あれ?先輩、お帰りなさい。早かったですね。いきなりCFOに呼ばれた件は何だったんですか?」


 まさかクビじゃないですよね?と、後輩は茶化すように笑いながら身を乗り出してきた。どうやら呼び出された理由に興味津々のようだ。

 

「クビじゃないけど……無理難題?」


 私は椅子の背もたれに深く沈み込み、短く応えた。


「なんで疑問形なんですか?」


「じゃあ、無茶ぶり?……いきなり呼ばれて、言われたんだ『国民的大人気RPGロールプレイングゲーム』を作れってさ」


「はい?」


「国民的大人気RPGを作れ。メインプランナーはお前だ。……以上」


「国民的大人気……って、あれですか? 勇者がタンスや壺の中を漁ったり、ホストみたいなイケメンがオープンカーに乗ってフィールドをかっ飛ばすRPGですよね」


「例えが酷いが、まあ、そんなイメージ?それをいきなり作れだってさ」


 途方に暮れる私をよそに、後輩はニヤニヤ笑っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 

 

 ——この話は私がCFO(最高財務責任者)に突如、呼ばれたことから始まる。

 

 わが社は上場も果たしている中堅どころのゲームメーカーだ。CFOは辣腕らつわんの経営者であり、冷徹な投資家でもあり、さらには社長夫人という顔も持つ。故に彼女は、実質的な支配者と呼ばれている。


 一方、私のポジションは一介のラインメンバーに過ぎない。


 本来であれば、CFOに直接呼び出されるなど到底あり得ない立場だ。ただ一点、社内には伏せているが、私には彼女とプライベートでの繋がりがあり、以前から面識があった。とはいえ、業務中にこれほど急な呼び出しを受けたのは初めてのことであり、私は「何か個人的な用件だろう」と高を括って(くくって)いた。


 ここ数年のわが社の動向を振り返ると、稼ぎ頭だったソーシャルゲーム部門の新規開発を抑制し、すべてのリソースを創業時からの看板タイトル『ハイフライヤー(HighFlyer)』に注ぎ込んできた。五年ぶりのナンバリング最新作となる『Ⅳ』。


ファンから『HF』の略称で親しまれるこのオープンワールドSFファンタジーアクションロールプレイングゲームは、社長自らが開発チームを率いる、文字通り「社運を懸けた」一大プロジェクトだった。


 そして迎えた、運命のリリース日。

 ——結果は、凄惨なまでの大爆死だった。


 十五年の歴史を経て、古臭さの否めなくなったキャラクターデザインの刷新と声優陣の一新は完全に裏目に出た。難解すぎる設定、多機能ゆえに迷走したUI、そして特定のミニゲーム攻略を強制する「バランス崩壊アイテム」の数々。


プレイヤーが忌み嫌う地雷要素をことごとく踏み抜いた本作は、新規層のみならず古参ファンからも見放された。セールスは低迷し、大型アップデート用のDLCダウンロードコンテンツ開発も中止。莫大な開発コストは回収不能となり、普通であれば会社存続の危機に直結する絶体絶命の窮地であった。

 

 だが、そのどん底から会社を救い出したのが、CFOだった。


 彼女は持ち前の嗅覚で市場のトレンドを読み切り、あろうことか会社の運転資金の一部まで流用してデイトレードさながらの猛烈な取引を繰り返した。結果、彼女が埋めた穴の上には、損失を遥かに上回る莫大な収益の山が築かれた。

 ——終わってみれば、昨年度の決算は「過去最高益」

 

 ただ、表面上は絶好調であるが、当然のように監査法人からは取引の不透明さについて怒涛の指摘が入った。しかし、彼女はすべての取引根拠を理路整然と説き伏せ、最後にこう言い放った。


市場マーケットは正直よ」


 決算報告書が公開されるや否や、その異常な数字の羅列と荒ぶる株価チャートの動きに投資家界隈は戦慄した。本業の赤字を、一か八かの投資で塗りつぶすという離れ業。

 

 『Ⅳ』に資金を集中させていた期間、わが社の利益は低水準に留まり、株価も低空飛行を続けていた。そこへ加わる『Ⅳ』への酷評。それを見て「空売り玉」を追加する投資家たち。

 

 ——彼らの夢見た利益はことごとく焼き払われ、わが社の株価は天高く押し上げられた。


 市場は、勝利を掴み取った彼女を、畏怖を込めてこう呼び始めた。


本業トレードの合間にゲームを作らせている女」

「ハイフライヤーの廃課金プレイヤー」

「九九パーセント成功する女――残り一パーセントの失敗は、『ハイフライヤー』を損切りできないこと」


 一方で、かつてのスタークリエイターである社長の尊厳は、見るも無残に解体されていた。ネット掲示板やSNSでは、彼が愛してやまないタイトルを盾にした、悪意に満ちたコメントが日夜飛び交っている。


『HFって、ヘッジファンド(Hedge Fund)の略だったのか』

『嫁の稼ぎでガチャを回すヒモ』

『嫁への投資にだけは成功した男』


 数々の蔑称が生み出され、かつての「神ゲーの生みの親」は、今や「無能なヒモ」として再定義されつつあった。追い打ちをかけるように、彼は今回の不始末の責任を取る形で、愛した開発現場から「隔離」されてしまう。クリエイターとしての反論の機会すら奪われ、文字通り「飾り物の椅子」に座らされることとなった彼の精神は次第に不安定となり、社員の前に姿を見せることも少なくなっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 


「いきなりメインプランナーに任命されたんですか?……先輩って上層部からそんなに評価されてるんですか?」


 後輩が、失礼だが純粋な疑問をぶつけてくる。


 私自身、プランナーの経験はある。けれど、それはあくまで運用フェーズに入った小規模なソーシャルゲームで、季節イベントのパラメーターをこねくり回したり、配布キャラのスキル説明文を考えたりする程度だ。


 一から世界観を構築し、システムを組み上げる新作開発とは、登る山の高さが違う。整地された道を進む山登りと誰も進んだことがないルートを開拓しながら進む山登り。両社の難易度の違いは歴然としている。

 

「そうだったら、いいんだけどな」


「何かワケありですかね? そもそもCFOが直接『ゲームを作れ』なんて、現場のラインを全部ぶっ飛ばして、プランナーを直々に指名だなんて……いくらなんでも、話が飛びすぎですよ」


「だろう?それだけ言われて、詳細は日向さんに聞けって言われて、お終いだ」


 日向さんは我らが「運営一課」の課長であり、私の上司だ。

 あだ名はもちろん「コジロー」。


 ついでに言うと、わが社は役職ではなく「さん」呼びが浸透しており、私も日向さんと呼ぶことにしている。過去に組織改革の名の下にカタカナ役職名が乱発され、長々しい肩書に辟易した社員の間で自発的に生まれた企業文化だ。上層部も反省したのか、今は大方が日本語の役職名に戻っているが、CFOだけがその響きを気に入ったのか、当時のままになっている。


 組織名も同様だ。初期はゲームタイトル名をそのまま課の名前にしていたらしいが、早期にサービス終了してしまうタイトルが続いた際、命名ルールの過ちに気づいたようだ。その後、何度か変遷もあったが、今の社員は単に役割で呼称し続けている。運営側なら運営〇課、開発側なら開発〇課、といった具合だ。

 もちろん、人事的に所属が固定されているわけではない。社内では開発と運営の間で定期的にローテーションを行っており、かく言う私も、入社直後からの数年間は開発側の人間だった。


「CFOの考えそうなことと言えば……これも『投資』なんですかね?先輩……というボロ株(低位株)への投資?」


 後輩が、値踏みをするようにジロジロと私を見てくる。


「ボロ株扱いするな」


「じゃあ、空売り(信用売り)の買戻し?」


「知らない間に売られていたんだな、俺……」


 いつの間にか私は売られていた。

 ひょっとして自分の市場価値が知らないところで乱高下しているのだろうか。


「それより、先輩がメインを張るということは、ひょっとして……ひょっとすると、私もメンバーに入っていますか?」


 後輩が椅子をガタつかせて身を乗り出し、探るような視線を向けてくる。

 私はわざとらしく片目を瞑り、芝居がかった手つきで彼女にてのひらを向けた。


「いや、まだ決まっていない。というより他に誰がアサインされたかも聞けてない。正直どこまでホントの話なのか疑わしくなってきてるけど……それでも俺についてきてくれるかい?」


 冗談めかして、ホストスマイルを向ける。

 

「ついてきてくれる……って、やっぱり先輩は、私が一緒じゃないとダメっていうことですね。いやーどうしよっかなー」


 後輩がわざとらしく頬に手を当て、空を仰いで「困ったフリ」を楽しんでいる。


「さすがに一人じゃ厳しいからな。俺一人だと『国民的大人気RPG』じゃなくて


『僕の考えた最強のRPG』になってしまう」


「私と一緒なら?」


「『僕と私が考えた最強のRPG』だ。計算上、恥ずかしさが二分の一(半分)になる」


「私達はゲーム会社の社員なんですから、恥ずかしがることないのでは?」


「うっかり企画書にヒロインのタイツのデニール数指定とかしちゃったら、俺だけだと、ただの変態だろ?」


「それはそうですけど、そもそも企画段階でそこまで書きませんって」


 後輩が「またアホなこと言いだしたな、こいつ」という目線で見てくる。


「いいか、光の反射と透け感をどこまで表すか、例えば三十デニールの絶妙な肌の透け。シェーダーの設計にも関わる重要なポイントだ」


「それぐらいは現場のデザイナーさんに任せましょうよ」


「そいつのせいで、『ああ、このゲームを考えた人間はタイツへの理解が浅いな』って思われたらどうするんだよ」


「デザイナーさんに『タイツへの深い理解を込めてください』って発注すればいいんですよ。デザイナーさんからどういう目で見られるかは、知りませんけど」


 彼女とのやり取りはいつもこんな調子だ。どれだけ話を脱線させても、ついてきてくれる。そのノリの良さがあるから彼女との会話は楽しい。


「冗談はさておき……日向さんが戻ったら報告しないといけないから、その後に詳しく説明するよ。それよりお昼行くか?ついてきてくれるお礼だ、インドカレー屋でナンおかわり自由にしていいぞ」


「ナンおかわり自由って、お店のサービスじゃないですか」


 後輩が贅沢を言う。

 

「いい店があるんだ。ナンのおかわりを断ったら、代わりに『ライス』を持ってきてくれるくらいサービスのいい店がな」


 お腹いっぱいで断ったら、ニッコリスマイルで追加のライスを「サービスね」と差し出してきた。


「……結局、全部食べたんですか?」


「出されたものは残さない。それが俺のポリシーだからな」


「いいポリシーですね。せっかくですから、お昼はインドカレーにしましょう」

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