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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
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1-20 呑人智〜 Drift

side御月


二週間後。



テテテテテェ〜〜テッテテェ♪


仕事終わりにツレから着信があった。

元嫁のことを教えてくれた同級生(ヤツ)


「…はい」

「あ、御月君。あのさ、今度ちょっと付き合ってくれない?」


ソイツは独りになったオレを元気付けようとしてかなのか街コンに誘って来た。


「…悪い、気分じゃない」


失恋の辛さは新しい恋で癒せなんて言うけれど、今のオレを苛むのは寂しさじゃないくて虚しさ。

だから女と関わる元気もない。


「えぇー〜、久し振りにの一人同士じゃんかぁ〜…行こうよぉ〜」


けどそう言ってそいつは譲らなかった。


いや、お前はずう〜っと一人な。

あと素人童貞。



……





踵を潰した靴で引きずるみたいな毎日は知らぬ間に過ぎて行く。




ザワザワザワザワザワザワ…


男女合わせて50人はいる会場だけど、粧し込んだ女達は一段と賑わしい。


ハァ…


「お休みの日は何をしてるんですか?」


「……まぁ家でゴロゴロしたりとか?」


「……インドア派なんですね? 」


もしかしたら楽しめるかも…なんて少しだけ浮ついた感情は、話すほどに自棄な気分で押し潰れる。


「…あ、じゃぁまた」

「あぁ、ありがと」


気不味そうに去って行く背中に背を向けたオレは、着慣れないスーツのネクタイを緩め会場の外に出た。



「…………… 」


ロビーの椅子に腰を下ろすと自然とうな垂れた。

姦しい喧騒を遮ってくれる扉がありがたい。



…もう帰ろう。


「つまらなそうだね?」


そう思ったとき話し掛けられたオレは、仕方なく声の方へと顔を向ける。



…………ぅぉ


その子は今まで話しかけて来た子とは……いや今まで見てきた女とは雰囲気がダンチだった。


「………ん?」


優しそうなその表現も、クリッとした目も女性らしいスタイルも、パッと見から素材の違いは一目瞭然。

だけどそれは色気を感じさせると言うよりか、女としての次元の高さが押し寄せる感じ。


こう言うのが本当に洗練されてるってやつか。


そんな風に初めて女に呑まれたオレが固まって居ると…


「ふふ…初めまして、私はね… 」


見兼ねたその子の方から話し始めた。


その子は某百貨店の美容部員。


目の前の新種に対応し兼ねているオレは、結果さっきまでと同じように相槌を重ねてしまう。

だけどそれでも彼女の浮かべる豊かな表情、嫌味を感じさせない絶妙な毒(ユーモア)、良い人に見せようともしない爛漫さが、徐々にオレを対話へと引き込んで行った。


そしてその流れに乗せられたオレは、本当はファッションの仕事がしたかったことを思い出し語っていた。

仕事と家庭に追われ冷め切ってしまったオレが、とうに忘れ去っていた情熱の燃えカスをかき集めるように…



「へぇ…、それはもう良いの?」


楽しそうに相槌を打っていた彼女の目付きが僅かに変わる。


それはまるで初めて興味を示したかのように。


一瞬嬉しかった。

だけど今までの態度は外向きだったのだとも判り、少しだけ気持ちがザラついた。


オレは誰かに転がされるのが心底嫌いだから。


それでもこの時のオレはそれを片隅に置いやって、乗せられるままには自分語りをし続けた。



「そっかぁ…色々あったんだね」


そして話を聞き終えた彼女はふんふんと顎に指を掛けて頷くと


「あのね?私の知り合いに丁度新規のセレクトショップを立ち上げる人がいるんだけど……会ってみる?」


そう微笑んで言った。



オレはなぜか二つ返事で頷いていた。




……





1週間後。




『ガタンゴトンっガタンゴトンっガタンゴトンっガタンゴトンっ』


久し振りに味わう規則正しい音と揺れの中、車内はスマホに見入るサラリーマンと学生だらけ。


ふと隣の高校生の待ち受けが目に入る。

ピンク色のハートが散りばめられた真ん中で寄り添う男女。


オレはその子の横顔をチラ見する。

一見すると柔道でもやってそうな垢抜けない男子。


はは、幸せ一杯だな。

振られないよう頑張れよ。


自分達を待ち受けにする青臭い真っ直ぐさにエールを送ったオレは、視線を戻した先に垂れ下がる英会話と美容の広告に少しうんざりした。



『ガタンゴトンっガタンゴトンっガタンゴトンっガタンゴトンっ』

「まもなく新大宮…新大宮〜、お出口は左側です…〜〜 」


街中までは地元の駅から30分。


夜の色に溶けていくビル群の横を電車は進んで行く。





『カシャ』パタンっ


指先の切符が吸い込まれる。



スタスタスタ…

「ふぅーー… 」


改札から押し出されるみたいに出て来る人流から離れたオレは、ポケットからスマホを取り出しつつ一息つく。


目的地まではここから5分ほどだけど、待ち合わせまではまだ20分。

これならもう一本後のでも良かったな…



『ブオォオーーーー』『ブゥゥーーーン』

『ブゥゥゥゥン… 』


車が列をなしている片側三車線の道路。

その横断歩道を渡り歓楽街の入口へ。



ザっザっザっザっザ…


色取り取りのネオンが白々しく煌めく中を、久し振りだなと思いながら歩き進む。


あの辺だと思うけど…あのビルか。


送られて来たURLのページに表示されていた外観に一致。

この街で2番目に賑わっている飲み屋街の一角が今日の待ち合わせ場所。


花屋のウインドウに映る自分を見る。


ここ数年自分の服は買ってない。

それでも今日は持ってる中で一番お気に入りのTシャツに白いシャツを羽織って来た。

あまり固くない様に、けれど清潔感を損なわない様に。



「はは… 」


何だかんだで緊張してるな…オレ。


駅からゆっくり歩いても10分前に到着してしまったオレは、なんとなくまわりの人の流れを見て時間を潰す。


やっぱり人の量が全然違うな…


「………ん⁉︎ 」


目の前を通る男の人に目が止まった。


うわっカッコいいな…

やっぱ街中に来ると雰囲気からして違う。


なんの仕事してる人なんだろな?


離れて行くその人の後ろ姿を目で追いつつ、妄想に入り始めたとき



タっタっタ…

「ごめんごめん、お待たせっ」


そう言って声を弾ませ近付いて来た彼女よりも、それを追う無数の男達の視線に目が行くオレ。


ハハ…

そりゃそうだよな。



飾り立てた人間で溢れるこの街中においても、ユウキちゃんの纏う存在感は一際輝きを放っていた。








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