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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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9. ミモザと楓10


はからずも楓の父親との対面になったが、それでも先ずは仕事が先だ。前もって話が通っていたからか、挨拶もそこそこに、早速家の中を見て回る事になった。



楓の父親が正一と話しながら廊下を行く、その後を追いかけ、愛は楓の様子を思い返していた。楓もだが、楓の肩にはイヤリングの化身が姿を現していて、とても不安そうにしていた。別れ際、化身の友達がまだ中に居ると楓が言っていたが、それはイヤリングの化身にとっても、大事な友達なのかもしれない。


楓の父親が楓に今回の事を話さなかったのには、そういう事情もあったのだろう。化身に関わる事で人が倒れていると楓が知れば、楓が傷つく、楓を巻き込むかもしれない、それが、もし友達だという化身だったら。そう思い、心配から楓には言えなかったのだろう。




「入院されている皆さんには、一度、私の信頼している医師に診て貰いましょう。化身に襲われた患者を多数診ている人物ですので、もしかしたら、回復する手立てが見つかるかもしれません」

「ありがとうございます、まさかこんな事になるとは…」

「誰も想像も出来ない事です、どうぞ、ご自分を責めないで下さい。それに、襲われた皆さんには、まだ命があります、希望を持ちましょう」


正一は楓の父親を宥めつつ、そっと後ろを歩く愛に視線を送る。その視線に、愛は頷いた。十分注意するように、正一はそう言いたいのだと感じ取った。


化身は、既に何人もの人を襲っている。襲われた人々が目を覚まさないのは、心を奪われているからで、心を奪った分だけ化身は力を得る。それはもう、禍つものに成り果てているのは容易に想像がついたし、危険な存在であることは明らかだった。



「では、家の中を拝見させて頂きます。時野(ときの)さんは私の側に。いや、見事な調度品が揃っていますね」


リビングに入ると、正一(しょういち)は敢えて明るく(かえで)の父親に話かけた。


「どの部屋にも、年代物の品が置かれてるんですか?」

「そうですね…一応、二階の角部屋に専用の部屋を設けていますが…もしや、それらが原因で…?」


途端に表情を青ざめさせた父親に、正一は「いやいや」と、おおらかに笑った。もし、自分が好きで集めたものが、人に危害を加えていたなんて事になれば、彼が青ざめるのも当然だろう。しかし、そうであっても、悪いのはこの父親ではない。


「そうとは言えませんよ、可能性はどんな物にもありますし、年代物にはつくも神がいます。つくも神なら対話がしやすいと思いましてね。物を大事に扱っているのは、飾られている姿を見ただけでも十分伝わってきます、あなたは何も悪くありませんよ、きっと、物にも何か理由があるのでしょう」


正一が楓の父親に話しているのを聞きながら、愛はぐるりと部屋の中を見渡した。

この頃の時野家のリビングは、現在のリビングと大分違っていた。品を醸し出すのはどれも高級感を持った家具ばかりで、年代を感じる調度品がいくつも目に止まった。同じ禍つものでも、つくも神が成り果てていたら厄介だ。だが、正一が言うように、どれも手入れが行き届いているし、化身が不満を抱きそうな扱いを受けているとは思えない。それと同時に、違和感もあった。


どの物にも、化身の気配が感じられなかったからだ。物に身を潜めているのか、それとも、禍つものに化身も襲われたのだろうか。人間を襲う禍つものなら、化身を襲ってもおかしくはない。



「他の部屋も見てきて宜しいでしょうか」

「はい、構いません」

「愛、頼んだよ」


楓の父親に了承を得ると、愛は正一に「はい」と頷き、頭を下げて部屋を出た。これだけ広い家だ、手分けして探った方が早い。それに、愛の行く場所は決まっている、二階の角部屋だ。

正一は、楓の父親には対話がしやすいからと言ったが、一番厄介なのは、つくも神が禍つものになることだ。愛は先ほどの会話から、その可能性を一番に潰せと、正一の指示を受け止めていた。


家の中は、とても静かだ。愛は一人になった今でも、眼鏡を掛けたままでいる。他の化身を怖がらせない為であるのだが、肝心の化身の姿はどこにもない。皆、禍つものを恐れて出てこないのか、楓の友人だという化身はどこにいるのだろう、何の化身か聞いてくるべきだったと、愛は溜め息を吐いた。楓の友人なら、話す事も出来たかもしれない。愛は、友達だという化身が禍つものになっているとは、どうしても思えなかった。


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