王都再び
「あの・・・それで今回はこっちが巻き込んでしまったので、3人の装備の耐久値回復の料金を弁償したいと思うんですが・・・」
相手のパーティの1人が思いがけない事を言い出した。
なんて律儀な。
私なら謝ってそれで済ますのに・・・。
いや、新手のナンパか、クランの勧誘かな?
「あ、すいません。ちょっと3人で話し合わせてください」
私が相手にそう告げて3人で少し離れた処で話し合う。
「どう思う?なんか怪しくない?」
「でも、耐久値の回復なんて装備破壊されてないし数万マニでしょ?ありがたく出して貰ったら良いんじゃない?」
サンドラは出して貰うのに賛成のようだ。
「でも普通そんな賠償なんてしないよね?なんか怖いよ?」
ヒルデは少し警戒してるみたいだ。
「私もそう思う。今は金欠だから少しでもお金が浮くのはありがたいけど、なんかそこまでして貰うのもあれだし、そこまでするって人もちょっと怪しい」
「ん・・・じゃあ、気持ちだけ受け取って丁重に断っちゃおうか。粘着されても嫌だしねぇ」
サンドラも私たちの意見に賛成してくれて、相手のパーティの申し出は丁重に断って、神殿を出る。
デスペナでスキルが全て外れているので装備を全て外して【収納】に片付けて服姿の軽装になる。
ヒルデは纏めてた髪を解き、サンドラも髪留めも外して髪を下ろしている。
「それじゃどうしよっか?」
「そりゃ、装備の耐久値を回復させないとダメでしょう?」
「あとドロップアイテムも売ってお金にしないと」
「あ、ヒルデが王都でドロップアイテムを売ってなんて言ってたせいでこんな事に・・・」
「止めて!!サンドラはそんなオカルトなんて信じないタイプでしょ?(笑)」
「何処に売る?と言うかどこに耐久値の回復をお願いする?」
「と言っても私たちが知ってるのって[日陰屋]か[金仁屋]ぐらいでしょ?」
何気に度々お世話になってるNPCのおっちゃんが経営する[日陰屋]
前に防具を作って貰ったプレーヤーのヤットさんと丹奈さんの経営する[金仁屋]
「ん・・・アイテム売るならプレーヤーの方が高く買ってくれそうじゃない?」
「でも今は明日から参戦する第3陣に売る装備を作ってて忙しいかも?」
「じゃ無難に[日陰屋]にしようか?あそこいつも空いてるし」
神殿から王都の東側にある[日陰屋]へ向かう。
ゲームを始めた時にたまたま東側へ来たせいでそれからずっと王都では東側を中心に行動してしまう。
イベントでも東側で配達の仕事をしたから更に東側は詳しいなった。
そのせいで北側や西側の店とか殆ど分からない。
[日陰屋]に入り、装備の耐久値の回復を頼むと痛みが激しいので(ゲーム内時間で)数日掛かると言われる。
第3の村までの街道の戦闘とトロールでの戦闘もあったから仕方がない。
トロールに大ダメージを受けなければもう少し大丈夫だったのに。
料金は第3の村のドロップアイテムを売ったお金で払い、少し私たちの懐も潤った。
王都は第3の村から離れてるからその分だけ売り値は高くなってるようだ。
そして久しぶりに[馬耳亭]に宿泊するとその日はログアウトした。
その日の夜はログインしても装備が無い為に王都から出れないのでログインせずにネットの掲示板を少し覗いただけだった。
まぁ、明日から学校が始まるので早めに寝た。
翌日、学校に行くと久しぶりにクラスメイトの顔を見て懐かしい気分になる。
ゲーム内では時間が4倍になるので2ヶ月ぶりぐらいだと錯覚してしまう。
実際はお盆前の登校日に顔を見てるから2週間ぶりぐらいなんだけど。
・・・外で遊んだのか、部活を頑張ったのかこんがり日焼けしてる同級生が多い中で私や凜や祐奈は真っ白だった。
ゲームをやってる事は内緒なので日焼け対策をちゃんとやってたんだと誤魔化しとく。
まさか日焼け対策が家から出ないでゲームをやる事だとは思わないだろう。
学校から帰り、家の手伝いや犬の散歩などをし夕食を食べ約束のログイン時間になりログインする。
宿屋[馬耳亭]の部屋のベッドで目が覚めるといつも通りサンドラがログインして宿屋の窓から通りを眺めていた。
「おはようサンドラ。何見てたの?」
「おはようエリザ。見てみて人がゴミのようだよ?」
サンドラがテンプレのセリフを口にする。
言われるままに窓の外を眺めると、第3陣のプレーヤーらしき初期の緑色の服を着た人が大勢歩いている。
「これは冒険者ギルドとか近付けないかもね。人が殺到してそう」
「そんな事はないみたいよ?攻略サイトとかで初期のお得な立ち回りとか色々と解説されてたから」
ログインしてきたヒルデが答える。
「あ、ヒルデ。おはよう」
「はい。おはようさん。それでね攻略サイトによって初期の立ち回りのお勧めが違うから第3陣の行動はかなりバラけると思うよ?」
「そうなの?武器を買って、冒険者ギルドで依頼を受けて、金稼ぎしながらスキルレベル上げじゃないの?」
「サンドラ、それはそうなんだけど・・・お勧めの武器屋とか初期に取るお勧めスキルとか武器とか攻略サイトによって違うのよ。あれなサイトではクランの勧誘みたいに成ってたりしたよ」
あ、新人にそれなりに良い武器を格安で売ったり、戦闘での立ち回りを教えたりして仲良くなりそのままクランに勧誘しちゃう奴だ。
怪しい宗教の勧誘みたいだ。
「どうする?私たちもクラン勧誘する?(笑)」
「私たちが新人を勧誘してもクランハウスまで連れて行けないでしょ?(笑)」
「・・・と言うか私たち達がクランハウスまで満足に行けないからねぇ」
「・・・」
サンドラの発言に私とヒルデが固まる。
確かに冷静に考えると、王都から第3の村のクランハウスまで乗合馬車で5日、徒歩だと12日も掛かる。
「乗合馬車で第3の村まで行くと1人15万マニかかるんだよね・・・」
「第2の街から乗れば1人10万マニで済むからそっちにする?」
「待ってサンドラ。第3の村に行っても今の私たちだとまた死に戻るだけだから。それならクランハウスの事は一旦忘れて別の場所でお金集めした方が良いと思うのよ?」
あれだけクランハウスを欲しがったヒルデとは思えない発言だ。
「何が良い金策は見付かった?」
「調べてきたよ。今は第3が装備を買い漁るから鉱石系のドロップアイテムが値上がりしてるみたい。東の第2の街イタプルの先の第3の村付近にブロンズゴーレムやアイアンゴーレムが出没して、そのドロップアイテムが良い値段で売れるみたい」
「ブロンズゴーレムやアイアンゴーレム・・・そのパターンだとシルバーゴーレムやゴールドゴーレムも居そうだよねぇ?銀や金が手に入ったら直ぐにお金持ちだね」
「待って。その発想は罠かも。アイアンゴーレムの次がシルバーゴーレムって確定してないもの。ステンレスゴーレムとかチタンゴーレムとか間にどれだけ入るか分からないよ?」
「なるほど・・・ニッケルゴーレムとかタグステンゴーレムとか金属系は色々と居る可能性はあるよね?」
「もぅ。エリザにサンドラもそんな色違いで同じモンスターがそんなに出る訳ないでしょう?昔のロールプレイングゲームじゃないんだから・・・無いよね?」
「知らないわよ。でも可能性は0じゃ無いよ?」
「ん・・・私はその可能性の大小を話してるのよ?80%あるのか0.01%なのか?同じ可能性でもピンキリなんだから」
「と言うか、金銀じゃなくてもレアメタルとかなら高く売れるんじゃないの?」
「あんたら・・・そんな上級ゴーレムが居たとしても今の私たちじゃそもそも倒せないから」
「えぇ・・・エリザが馬鹿な事を言い始めたのに何で私たちがエリザに怒られるのよ?」
「そうよ。わざわざエリザの馬鹿話にノッたのに」
・・・私たちはそんな馬鹿話を思わずしてしまう程、宿屋を出て外の人混みに出るのを躊躇してた。