金策
「・・・ねぇ、サンドラさん。建物だけで3650万マニって、私たちがあそこを買うのに払った400万と合わせれば4000万マニよ?誰が払うの?」
「サンドラ、4000万マニって王都に土地代込みで新築住宅が建てられる金額よ?」
私達の矛先が言い出しっぺのサンドラに向く。
「エリザもヒルデも落ち着いて考えて見て?私達はリアル時間で1ヶ月で400万マニを貯めたのよ?つまり10ヶ月あれば4000万マニ貯められるって事なのよ?」
サンドラが反論する。
「サンドラ、流石の私も騙されないからね?夏休み期間はずっとログイン出来たけど、9月からは学校が始まってログイン時間は下がるから夏休み基準で考えるのは無理があるよ?」
「えぇ・・・理想は高く持とうよ?ヒルデ・・・」
「サンドラ、偉い人は言ったよ?家を建てる時は理想を断捨離しないと駄目だと。1つ1つ居る要らないを考えて余計なのを削っていけば安く成るわ」
「エリザ、どこの偉い人がそんな事を言ったのよ?」
「私に決まってるじゃん。まずはこの1/1のサイズの家の中で設定した事は全削除ね。あとはこの小さな屋根の出っ張りと小窓は要らないでしょ?四隅の尖った屋根も要らないと、あとは・・・」
「ちょっと待ってよ!!安物買いの銭失いって言葉を知らないの?家は一生に一度の買い物なんだから妥協したら後で後悔するよ?」
「その言葉、400万マニで中古の掘っ立て小屋を買う前に聞きたかったよ。私は」
「人は失敗から学ばないと。同じ失敗を繰り返しては駄目よ?」
「屁理屈を言ってもだ~め。とりあえず最低限で建てて後から追加してったら良いじゃない?」
「サンドラ、私もそれで良いと思うよ?装備とか他にもお金は掛かるんだから」
サンドラと2人で暴走してたヒルデがしれっとサンドラを説得する側に立ってる。
「分かったわよ。私も早くあの掘っ立て小屋から脱出したいし・・・それで何を削るの?」
「とりあえずは外観をシンプルにして間取りを決めて壁紙ぐらいで良いんじゃない?あとは後から追加する感じで」
「最低レベルと言う事は、3人で集まる茶の間と3人それぞれの寝室があればいける?」
ヒルデの提案はさっきあれだけ内装を盛り盛りにしてた人とは思えない簡素さだった。
「それなら今の家の奥の6畳間を衝立で仕切るか、壁でも作れば問題なくない?」
私が思った事を言ってみる。
「1人2畳の個室って・・・狭くない?」
「そう?漫画喫茶の個室とか狭くても快適じゃない?それにログアウトするだけだし・・・」
「エリザぁ・・・被災地の体育館じゃないんだからそれはちょっと。それに家具も最低限は欲しいよ?ベッドとか。リビングにはテーブルやソファーとかも」
「今の家は外観が残念だからね?そこを無視しては駄目でしょ?エリザ」
私の意見は2人から否定されて却下される。
「それじゃ、建て直すのは決定として、外観は出来るだけシンプルにして1階は広い茶の間。2階は個室が3部屋。茶の間は畳で掘り炬燵、個室にはそれぞれベッドを置いて壁紙は各自決めるこんなもんでいい?」
「そうだねぇ・・・とりあえずはその辺りが妥協点かも」
サンドラも納得したようだ。
タブレットで設定して、1/1サイズを見てみる。
「・・・何も無いね」
「掘っ立て小屋と比べて、広くなったのと清潔感が出ただけだねぇ」
「それで金額は・・・」
私たちのやり取りを少し離れた位置で見てた店のお姉さんに聞いてみる。
「はい。この条件ですと・・・材料に拘らなければ740万マニで建てる事は可能です」
えっ?740万マニ?安くない?
・・・いや、740万マニは高額だけど3650万マニと比べると格安に感じる。約1/5の値段だ。
「こ、これで良いんじゃない?一気に手が届きそうな値段になったよ!!」
ヒルデが手放しで喜んでる。
それでも1人頭250万マニだから私たちがまだ手にした事の無い金額を集めないと駄目なんだけど・・・。
「あの・・・材料に拘らなければと言うのはどう言う意味なのでしょう?」
サンドラが店員のお姉さんの発言に対して質問する。
「はい。材料にも高級木材からローコスト材までピンキリです。その中で標準より少し下の材料を使ったリーズナブルな住宅で見積もりをさせていただしました」
「つまり最低品質の材料で建てた場合と言う事ですか?」
「いえ、そう言う訳ではありません。全て最低品質の材料で建てた場合の費用は・・・580万マニですね。ただこれは私はお勧めはしません」
「ありがとうございます。それでは3人で話し合ってまだ出直して来ますので今日はこの辺で・・・」
「はい。本日御見積した家のデータはこちらで保存しておきますのでまたいつでも御来店下さい」
私は工務店を出て村の喫茶に入る。
「私はもう少し話を聞きたかったのに・・・」
「えぇ、店員のお姉さんが安い値段の見積もりを提示されてた時点で、お姉さんに『あっコイツらお金持ってないな』って思われてると感じちゃって私は恥ずかしくて早くあの場を離れたかったよ?」
「うわ・・・エリザ、自意識過剰・・・」
「そうよ?そこで怯んでは駄目でしょ?そこで雰囲気に飲まれて適当な買い物をしたらあとで後悔するのは自分なんだから」
「そうだよ?ゲームの中でぐらい強気で生きないと」
人見知りのヒルデにまで言われるとちょっと凹む。
VRゲームの弊害かな。たまにリアルでの基準でNPCに受け答えしてしまう。
「と、とりあえず目標金額は決まったね。1人頭250万マニ。それだけ貯めれば家を建て直せるからそれを目標にお金稼ぎをしよう」
「それまであの家はどうする?あそこを拠点にするなら、布団とか色々と買い込まないと」
「あ・・・あそこに泊まってもスタミナ回復するのにお弁当を買っていかないと駄目なんだよねぇ」
「それなら誰が【調理】スキルを取ったら?ハウスならスキルの付け替えも自由に出来るし」
「で、誰が取るのよ?」
「・・・」
「そこまでやるなら宿屋に泊まった方が良いじゃんって思うんだよ?」」
「あそこの先からも村の外に出れそうだけど、更に魔物が強くなるだろうから私たちじゃ自殺行為なんだよねぇ」
ヒルデが元も子もない事を言い始めるが、アンタがマイハウス欲しいと言い出したんだからね?
「ん・・・それじゃハウスは建て直しするまでスルーして、資金集めをするって事で良い?」
「いゃ・・・ご飯を買い込んであそこにピクニックに行くのも悪くないと思うよ?」
「いや、自宅にピクニックに行くっておかしいから」
ある程度、話がまとまり魔物狩りをして資金集めをしようと村の北側から村の外に出る。
しばらく街道を歩くとコボルトのグループと戦闘になる。
「ファイアボール!!」
私が魔法を撃ち込み動きを止めたコボルトに対しラメドが噛みつき地面に倒す。
しかし直ぐにラメドに対して別のコボルトが弓で矢を撃ち込みラメドが剥がされる。
「ヒートアックス!!」
熱魔法を斧に纏わせたサンドラがコボルトの鎧ごと圧し斬り倒す。
「ヒルデ!!ラメドに回復お願い!!」
「ちょっと待って!!精霊が勝手に魔法を撃つからMP管理が!!」
新たに魔法を覚えたサンドラは【魔力操作】と【熱魔法】を使い上手く立ち回ってるが、それとは対照的にヒルデは【精霊(光)】【精霊(闇)】の扱いに四苦八苦していた。
アインがラメドに回復魔法を使い、シエロが風魔法でコボルトを牽制する。
サンドラにアインとラメドの壁役3枚だと火力が低く長期戦になり易いけど大きく崩れる事もないので、多少もたついても立て直しが利く。
それでもこのフィールドの魔物は私たちパーティーで戦うのにはかなり厳しい。
「早く大橋まで辿り着かないと回復が追い付かないねぇ・・・MPもSTも自然回復では無理だよ?」
「早くって言っても3日掛かるからね?それまではポーション飲み飲み何とかやりくりしないと」
「って、言うかヒルデはここで新スキル試さないでよ?回復間に合って無かったんだから」
「ごめんてエリザ。でもサンドラだって魔法剣を試してたのに私だけ悪い様には言わないでよ?たまたま私は上手くいかないでサンドラは上手くいっただけなんだから」
「分かったわ。ヒルデもサンドラも大橋に着くまでは新スキルのお試し禁止ね。今日ログアウトポイントに着いたらスキルを戻してね?」
私たちはようやくログアウトポイントへと辿り着き、その日のプレーは終了した。




